蚊
メ「……」
アラ「ぐったりしてる」
ゼレカVision
「暑っ……」
珍しくアークテスタメント全員で集まったってのに、今日の暑い事。『熱砂の流動』程じゃないが、恐ろしく暑い……
「……そうか?それ程暑くはないぞ」
ベルゼブが汗一つかいてない涼しげな顔で疑問をぶつけてくる
そりゃあお前は暑いのには慣れてるだろうよ、元々火を使ってんだから
「お前はそうだろうけど……あっ、アスタノトも平気だっけ」
「はい♪全然平気です♪」
兄妹揃ってケロッとしていやがる。他は全員ダウンだってのに……恐るべし火の魔王か
エレスはいつも俺にくっついて居るのに、今日は流石にまいったのか離れてボーッとしてる
アラクネはエレス程ではないにしろ、半分人間の身として結構堪えてる風だ。それでも笑顔でいられる辺り尊敬する
そして、その中でも特に危ないのがメフィストだ。席に着いた時点からテーブルに突っ伏したまま動きが全く無い。もはや起きてんのか寝てんのかも分からない、というかマジでヤバそう
「ベルゼブ、メフィストをなんとかしてやったら?」
「……メフィストに何か?」
俺の言葉を聞いてメフィストを一瞥するベルゼブと、それをニヤニヤしながら見てるアスタノト
「別に、変わったとこはない」
真顔で、それも当然だと言いたげに「何でもない」と返された。おいおい……
「どう見てもまいってるだろ」
「は?」
クスクス、とアスタノトが笑ってる
「ゼレカさん。ちょっといいですか?」
耳を貸せ、と動作が告げていた。その動きが示す通りアスタノトに耳を貸す
「お兄ちゃん、メフィストが寝てるもんだと思ってるんですよ」
小さな声で、だけどはっきりと耳に届いた
「いや、流石のベルゼブもそこまで鈍感じゃないでしょ?」
「くふふふふ♪昨夜は三人でお楽しみでしたから」
その言葉の意図するものが分かった。つまり、ベルゼブは足腰を鍛える特訓の疲れだと思ってるわけだ、ベッドの上の
「ああ……ホントに鈍感なんだな」
「ええ♪」
というかアスタノト、兄でも恋人でもない異性に性事情なんて話していいのか?
そんな疑問を飲み込み、可哀相なものを見る目でベルゼブを目視する
「……なんだ?」
「いや、なんでも……」
言い終えて、いつもならこの辺でアラクネがなんかしらリアクションを取っていた事に気付いた。が、俺とベルゼブに踵を返すだけで何も言わない。相当疲労してるのか
この暑さで思い付いたんだが、アラクネなら人間生活してたんだからあの厄介な生き物を知っているはず。さすがにこっちには居ないと思うけど…
ブーーーン
瞬間、羽音が顔の周りを飛び回る。この音、間違いない
冷徹なまでに血液を欲するブラッドハンター……
「『蚊』だ!」
道理でさっきから痒いと思った……貴様だったのか!!
直ぐさま蚊取り線香を造ろうと、想像した。いやまてよ?下手するとベルゼブまで巻き込むか?あいつ虫だし……
そんな突発的な事を考えたのは、後に暑さと痒さのせいだと分かった
ブーーーン
仕方ない、わざと停まらせて仕留めるか。今のところ蚊に気付いてんのは俺だけみたいだからな
力を抜き、蚊が停まるその時を待つ
ブーーーン
ブーン
ブーーン
ピト
そこだ!!右頬に停まったのを確認、殲滅するべく右手を挙げた
パシュ!!
「……え?」
何か、物凄い速さの『何か』が、俺の頬を掠めた。そこに触れてみる、でろりとした感触がわかった。『血』だ
ついさっきまで漫才をしていたベルゼブとアスタノト、それに怠そうにしてたアラクネが目を見開いて俺の背後を見ている
何事かと、俺も後ろを振り返る。……………壁に、穴が空いていた。それも銃弾の類ではなく、『液体』だった
あー、確か、高速で放たれる水は鉄をも粉砕するって聞いたな……そんなものはどうでもいい。大体、確実に予想はできるが、これが誰の仕業なのか……いや、ホント、わかってるけどね
「ふふふふ」
下を向き、不気味な声が響く
「エ、エレス?」
視線を背後から隣へと向ける。ギギギギ、と効果音が鳴るかと思った
「私以外に、ゼレカの血を飲むなんて、許さないよ?」
目が虚ろになり、先程の水が形作られていく
「ちょ、待った!このままだと俺まで…」
そこで、空気の読めない蚊が再び右頬に停まった
パシュ!!
「危なっ!!」
今度は目視してたおかげで避けられた、後ほんの少し遅れてたら俺の顔は真っ二つだ
「しぶといな……」
「どっちが!?蚊の事だよな!?」
「ふふふふ……」
まずい、見た目でメフィストが一番危険かと思ったらエレスが危険だった!!
ブーーーン
止めろ!来んな!お前も危ないんだぞ!!
「さぁて、次は何処に止まるの?」
メ「ん……んっ、はぁ……涼しい」
アラ「お目覚め?」
メ「んん、起きた起きた。それより、こんなに涼しかったっけ?」
アラ「それは……私の口からはとても……」
メ「え?何があったの」
アラ「まさか、あんな事になるなんてね……」
メ「ちょ、気になるでしょ!?」
ゼ「た、助かった……」