姫と騎士
「どうしてこうなる?」
これでやっと帰れるとウキウキ気分で戻って来たはずだ。なのに、なのにだ
「だって、初めてゼレカのお家に来たんだよ?もっとゆっくりしたいな〜って」
なんで俺の家に泊まる事になる?いや、別にもう憂鬱な事はないしいいんだけどさ……その……なんというか……散らかってるわけだ、部屋が
「大丈夫、気にしないよ」
あ、さいですか……
俺の家はリビング・洗面所・キッチン・個室の四つしかない。使うのが俺一人なので不自由しない、というか俺が設計したから理想通りだ
「こっちに泊まるのは構わないんだけど、戻ったら向こうは四日程経ってる。その事は忘れるなよ?」
「も〜、心配性だなぁ。……別に私は、あなたと一緒なら何十何百年でも構わないよ?」
「エレス?」
いつも無邪気にはしゃいでるエレスからは想像も出来ない程暗い顔だ。あの深紅の瞳も、鈍い輝きを発してる
ああ……そうか……。俺は彼女のこの顔を見た事がある……俺と一緒にいる時でさえ、滅多にこの顔は見せない。でも、二回だけ、二回だけこの顔が記憶に焼き付けられている
一度目は俺がバハムートを始末する少し前、俺を守ると言った時
二度目はつい最近、信仰の塔で死にかけた時
あの時、『魔神化』をすぐ使ってれば死にかけたりはしなかった。俺がアークテスタメント――あの頃はまだ空撃隊だっけ――の隊長になった直後、ベルゼブとアスタノトを助けに乗り込んでアシュラを見つけて魔神化したらおかしくなっちまった。それで暫く使うのは止めておいたんだが、それは記憶の中で解決して来た
守る気持ち――『覚悟』と『煉帝剣』
それが魔神化に必要な事だった
おっと、話が反れたな。まあ、大体言いたい事は分かってんだけどよ……
ぽふっ、と音が鳴りそうに頭を撫でる
「……っぇ」
「どうした?らしくない表情して」
俯き気味に下を向く頭を撫で回す
「だって……」
「『ゼレカにもゼレカの世界が合ったのに、勝手に召喚しちゃったんだ……』とか?」
「……ぅ」
そうですと言わんばかりに申し訳なさそうに垂れ下がる頭。なんかこっちの方が申し訳なくなる
「前にも言った通り俺はもう、一度死んでるんだ。そっから俺が生き返らせた奴に頼んで送ってもらった、それがたまたま君の召喚索敵に引っ掛かっただけなんだよ。それに……」
上から包む様に抱きしめる
「零花(俺)の世界に、新しいゼレカ(俺)をくれたのは紛れも無い、君なんだ」
「……っ」
「他の誰かじゃない、正真正銘ただ一人、エレスナーグ・クルスト・エル・ニンブルケティックだけなんだよ!!」
ははっ……俺も熱くなると止まらないのか。全く、どっかのお人よしそっくりだぜ
「……そう、なの?」
震える唇で、消えそうなくらい小さい声で、吐き出される言葉
「ああ、俺が証明する」
顔を覗き込まないように、優しく口づける。泣き顔なんて、見られて嬉しいもんじゃないだろ……
「うん……ありがと、私の大切な『魔神』さん」
「礼には及びませんよ、俺の親愛なる『姫君』様」
お互い慣れない言葉を口にする
「ふふふふ」
「はははは」
そして暫く二人で笑い続けた。月と太陽が二つとも顔を覗かせる時が終わるまで、『夕暮れ』が『夜』になるまで、笑い続けた
ゼ「一応一人ずつ紹介してきたな」
エ「さーて、今回はだれが紹介する?」
過エ「私は嫌」
過ゼ「俺は知らん」
ゼ「あんな事言ってますよ姫様」
エ「ふっふ〜ん、じゃあ消極的な二人にちょっびっとだけお仕置きをしよっか♪」
ゼ「具体的には?」
エ「簡単だよ。ゼレカ、こっち向いて♪」
ゼ「ん?なに…」チュッ
過エ「……///!?」
過ゼ「……///!?」
エ「グチュ……ふふっ、自分と同じ顔した人が…ズチャ……こ〜んなふうにキスしてたらどう思う?」
過エ「な、な、ななな////!!?」
過ゼ「え、あ、……////!!?」
ゼ「それもちょっと意識し合ってる仲だと効果は絶大だな……クチュ……エレス、ちょっとくすぐったいぞ」
エ「ひぁ……///首はダメだよ……///」
ゼ「そうか?じゃあ……」
過エ「す、ストップストップ/////!!」
過ゼ「わ、分かった、俺達でやればいいんだろ/////!?」
エ「むぅ〜、これからもっと気持ち良くなるのに〜」
ゼ「そんなにやって欲しければ後で続きするよ」
過エ「え、えっと!ひ、『光』は闇と似ている!!」
過ゼ「そ、それで!?」
過エ「闇よりも攻撃に優れていて特性である『昇華』を使えば持続的に使用出来るわ!!」
過ゼ「そうなのか!!」
ゼ「詳しく説明すると『昇華』は、なにも攻撃要素だけってわけじゃないんだぞ」
エ「使用者の意思、思いの力がそのまま発揮されるってね。今回はこんな感じ、だからゼレカ、続きしよ?」