大魔王の憂鬱 敗北
ベ「……負けんのには慣れてない」
ステイアラート――あまり人の住んでいない小国。国力をみても、まともに戦える奴なんてたかが知れてる程だ。だが、そんな小国もリリードネメスやニンブルケティックと同等の立場に在る。何故か?簡単だ、『瞬間の嘲笑』と呼ばれる現存する大魔王最強、カゲロウが君臨してるから。それだけだ――
「……」
改めてそのステイアラートを眺めるが、とても強そうには見えない……
此処に来るまでで、随分頭は冷えた
「……あいつを殺す」
嫌、頭なんて冷えてねぇ。マジで冷静ならカゲロウに勝てる可能性がないのを知ってる。それでも、俺の妹に手を出した罪を裁いてやる!!
気配を消して城の中に入る。見つかると厄介だが、隠れるつもりはない。一秒でも早く、息の根を止めてやる
「……?」
広間の前まで来て異変を感じた。確かに俺は気配を消してる、だがこれだけ進んでるのに誰にも会わなかった
「……罠か?」
もしそうだとしても、行かないわけにはいかない。待ってろ、カマキリ野郎!!
そのまま罠かもしれない玉座の間へ駆け込んだ
「ハァーハッハッハ!!よく来たな、ベルゼブ!我と戦うのが怖くて絶対に来ないと思っていたぞ!!」
耳障りな奴の戯れ事を無視して部屋を見回す
「……アスタノトは何処だ?」
「気掛かりか?安心しろ、すぐに会わせてやる。我寛大!!」
パチッと指を鳴らすと、空間転移が起きた。荒野――それも俺とこいつとでよく特訓してた場所だ
「懐かしい、我はさっき振りだがな!!」
「ベル兄ちゃん……」
「アスタノト!!」
カゲロウの背後、巨大な鳥籠の中にアスタノトの姿が見えた
「おっと、ここはテンプレ通り我を倒してから行くのだな!」
「上等だ、後悔すんなよ!!」
大魔王化して斬りかかる、がそれを後ろに飛んでかわされた
「チッ!!」
「フハハハハ!!そう慌てるな!今のボロボロの貴様なぞこいつで十分だ!!」
今度は右手の指を鳴らした。パチッ、ではなくバチッと電気が走る音。それに呼応するように地面が揺れる
「なんだ?」
さっきまでカゲロウが居た地面から、魔物が出て来た
大きさは鳥かごより少し小さく、それでも五十メートルはある。百足を思わせる何本もの足、ギロチンを括り付けた十対の鋭い手、逆三角の顔に挟みの口――巨大なカマキリの化け物が現れた
「……ふん、お前の化け物か」
「フハハハハ!貴様が散々我をカマキリと呼ぶからな、作ってやったぞ!!さぁ、倒してみろ!!ハァーハッハッハ!!」
『キシャァァァァア!!!!』
カゲロウの高笑いに同調してカマキリもいななき始めた
「……そっくりだな、飼い主によ!」
高笑いが終わる前に俺目掛けて鎌を振り下ろした
『ギャェ?グルァァア!!』
次々とギロチンが迫るが、ギリギリでかわせる!
弾丸を魔力に変換して、撃つ!!
パァン
『クルゥア!!』
炎を帯びた鉄塊はカマキリの顔面に命中
これならいける!!
再び迫る鎌を避けながら変換を続ける
「そぉら、もう一発!」
隊長がやってたように速射――風を纏わせた
『ギュ!?』
「ほぅ……今のは見えなかったぞ!」
ったりめぇだ、俺も見えてねえんだよ
『クルラララ!』
性懲りもなくまた鎌を振り回してくる
「何度やっても同じだ」
鎌を避け、銃口を向ける
その瞬間、腕に鋭い痛みが駆ける
「ぐっ!?」
痛みに耐え切れず銃を落とした
「フハハハハ!!何で腕を斬られたのか、理解出来ないだろ!!」
確かに、繋がってはいるがほとんど動かない。腕の裂け目、真っ黒だ
「貴様がギリギリでかわせてると思っているのは錯覚だ!!意識して、ではなく身体が付いていってないのだ!!」
はっ……なんだって?
「そうだ、言い忘れていたな。何故我の城に誰も居なかったか教えてやろう!!」
聞いてねえよ……
「今頃は、リリードネメスを落としているだろう」
「……はっ?」
何だって?リリードネメスを落とす?
「つまり!!総攻撃だ!!」
「……っ、カゲロウ!!!!」
『キャロロロロ!!』
鎌と剣、強いのは剣だろ。一対一ならな
残った腕で鎌と鍔ぜり合う。結果は分かりきってるが
当然俺の勝ち、カマキリの鎌を弾く。一本だけ、残りの十九本は俺を裂いてく
ドサッ
「っ……!!?」
「ハァーハッハッハ!!終わりだ、ベルゼブ!!」
……何か言ったかアスタノト?悪い、全然聴こえねぇ
もう全身の痛みも、口内の血の味も、魔力の匂いも、あいつの声も、目の前の風景も、何も感じねぇ……
身体はバラバラになったのか?なら、もう死ぬか……
死ぬなら、謝りてえな
アラクネ、エレスナーグ、隊長、メフィスト、それからアスタノト……ごめんな………
『――――!!』
「―――!!――――!」
何と無く分かる。俺を殺す為に鎌が振り下ろされたんだろ
「――ゃ―!!ベル兄ちゃん!!」
アスタノト……
「『ブリーズウォール』!!」
過ゼ「…………俺は知らんぞ」
エ「大丈夫大丈夫、それを読むだけでいいから」
過ゼ「『土』は硬さを生かした防御に秀でた属性。攻撃にも使えるが、速さの面では防御使用時に劣る。特製は『構築』。……読み易いな、このメモ」
エ「私が書いたんだよ。ちょっと前のゼレカを思いだして読みやすいようにって」
過ゼ「……そうか、ありがと」
エ「いえいえ、どういたしまして」
過ゼ「……///」
エ「ゼレカ?今からそんなんじゃ昔の私との日常に耐えられないよ?とってもあまあまだよ?」
過ゼ「次回は『水』だ。以上」