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異視界メリーゴーランド

掲載日:2026/07/07

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 へえ、男の人のほうが、色覚多様性が生じやすいんだねえ。

 どうも色覚異常系はX染色体に含まれるらしくって、女性の場合はどちらのX染色体も色覚異常を持っていないと発現しない。対して男性は、X染色体とY染色体の組み合わせだから、そのX染色体が色覚異常を持っていると、そのまま表に出てくるのだとか。

 その確率、おおよそ5パーセント。20人に1人くらいは、みんなと違う色が見えている可能性があるわけだね。これ、けっこう多いように感じられるけれど、どうだろ?

 みんなと異なる視界。ロマンを覚える要素があるのも確か。でも、不便になるタイプであったなら避けたいとも思うねえ。

 僕も少し前に、ほかのみんなとは異なる視界を体験したことがあるんだ。そのときの話、ちょっと聞いてみないかい?


 正常な視力の人が眼鏡をかけると、かえって視力が落ちる。よく言われていることと思う。

 もともと、眼鏡の度数は扱う人によって調整されているもの。それが合っていないとなれば、眼に余計な負担がかかってしまい、なお視力へ悪い影響を及ぼす……とされる。

 けれども、普通に暮らしていたら出会えない景色には興味も湧くもので。互いの眼鏡を交換して、かけあうことは一時期クラスで大流行りしたよ。

 僕は普段、眼鏡をかける必要がない人だったけど、他のみんながいろいろつけてみろとせがんでくるものだから、いろいろな度数の眼鏡を相手にしたんだよね。

 度の強さでぼやける視界に目を回しかけながらも、やがて僕は景色の中へ混じってくるものに気付く。


 三角形の屋根と、そこから垂らされた無数の糸や紐らしきものたちが、コマのようにくるくると回っている。

 メリーゴーランドだ。その姿を見て、直感したよ。

 いくつめかの眼鏡をかけたとき、そいつは視界の中、ずっと遠方に現れた。今いる教室の中よりはるかかなた。当初はゴマ粒ほどの大きさにしか思えず、判断がつかなかったよ。

 でも、眼鏡を取り替えていくうちに、そいつは少しずつだがこちらへ近づいてきていた。大きくなっている。

 裸眼だとこいつは見えない。かといって眼鏡の汚れとみなすには、あまりにも多くの眼鏡に共通しているし、動きも激しすぎる。

 クラスみんなの眼鏡を一通りかけ終わったときには、すでに窓の外10メートルそこそこの位置まで近づいていた。

 遊園地で見るそれのように、吊られながら回っているのはお馬さんではなく、スポイトのゴム球を思わせるふくらみたちばかりだったよ。


 眼鏡タイムが終わり、彼らともすっぱり縁切れ……となれば良かった。

 けれども、何度も目にした影響か、あのメリーゴーランドが映っていた窓の外に、ぼんやりと影になってその形が浮かんでいたんだ。

 見すぎによる残像か? とも思ったけれど、確かに回転している姿はうっすらと見えるし、やはり少しずつ近づいてきてもいる。

 他の眼鏡をかけているみんなに、それとなくおかしなものが見えなかったか尋ねてもみたけれど、なんともないという。

 そうしているうちに休み時間も終わって、授業のはじまり。先生もやってきて、僕たちも机へ向かったよ。

 先生が黒板を向いている間とか、スキを見つけながら、僕はあのメリーゴーランドの様子をみる。あれからしばらく経ったというのに、ぼんやりとした影は完全には消えることなく、こちらへ近づいてきていた。

 そしていよいよ、教室のベランダあたりまで迫ってきたように思えたんだ。


 次の瞬間、教室後ろの窓が大きく割れる。音で、みんなも一斉にそちらへ目を向けたよ。

 困惑の色が顔に浮かんでいる。おそらくは、あのメリーゴーランドが見えていないのだろう。僕にはまだ見えている。

 こうして教室の中にまで入ってきたのを見ると、高さはだいたい掃除用具入れのロッカーと互角。そこから回るスポイト球が、ロッカーの戸をがんがんと何度も打ち付けたのを皮切りにして、教室後ろの時間割などを表記した黒板。その足元に並べられた本や道具たちを、軒並みぶつかっては散らしていく。

 みんなの騒ぐ声を気にも留めず、そのメリーゴーランドは空きっぱなしの教室の後ろドアから外へ出ていき、ほどなく新しく窓をぶち割る音を立てて、消えていったんだ。

 廊下側の窓のひとつに大穴が空き、そこから空中を滑っていったんだよ。


 案の定、みんなにはポルターガイスト現象のごときことと受け取られた。

 あれから例のメリーゴーランドは見かけていないけれども、今も回り続けながら、どこかを荒らしているんだろうかね?

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