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特別な席

コンセプトは「シャルルなふたりに捧げる、最高のラポーレ(幸せ)」。

 恋人たちのためだけの特別なレストランを作りたいと考えた。

 世界で一番愛の深い二人レイとラズ。そして、自分たちと同じような恋人たちのために。


 二人は、メニューに一途な想いを込めた。グランドメニューは、たったひとつだけ。


「ファリス クレア」


 ラズはその名前からインスピレーションを受け、コースのストーリーを考える。それは、二人が愛を確かめ合う時間。

 特別な二人の繋がりをイメージした、シャルルなコースを作り上げた。


「愛の始まり」「高まる情熱」「重なる二人」「愛の終着」「甘いひととき」、そして「余韻」。


 それぞれに感情のペアリングワインを合わせて。


 以前は、何のために、誰のために料理を作っていたのかさえ分からず、料理人という夢を捨てかけていたラズ。

 しかし今、確かに伝えたい人たちがいる。与えたい幸せがある。


 様々な大地の実りと海の宝石のピースを組み合わせては、また壊し――。

 試作をしていくたびに、食材の可能性が引き出されていく。

 そうやって完成したパズルは、一品また一品と愛のつながりを表現していくメニューへ様変わりしていく。

 

 レイは、彼女の手が生み出した料理が、どれほど人々の記憶に刻まれてきたのかを確信していた。

 彼もまた、レストランという夢のための資金調達という現実に日々悪戦苦闘していた。そして、ひとつずつその壁も乗り越えていく。

 レイは、ある店に通うのが習慣となっていた。一軒は板金工場。

 そして、もう一軒――ガラスに囲まれたその店は、ひと際輝きを放っていた。


「レイ様、いらっしゃいませ。お決まりになりましたか?」


 その日レイは、深く息を吐き出しながらそのドアをくぐった。


 しばらくして、店から出てきたレイの手には、未来を約束するような一枚のチケットが握られている。

 そこには『受取日』という文字とレストランのオープン日が記されていた。


「ラズ、やっぱり君しかいないね」


 待ちきれない表情をしたその紙を、丁寧にたたみポケットにしまった。


 そしてついに、レストランは完成した。


 木の香りが店の真新しさを引き立て、ひとたび目を閉じれば、運ばれる料理に心躍らせる恋人たちの笑顔が浮かんでくる。

 まるで、ラポーレ(=幸せ)が漂う空間のように。

 

 決して広くはなく、派手でもない。二人掛けの客席が四つ、真っ白なテーブルクロスに包まれて、程よい間隔で置かれていた。

 床は、木のフローリングで、店の温かみを感じさせていた。

 天井は、屋根の構造がはっきりとわかる梁が、無骨ながらデザインとして演出されていて、その梁から客席に木の実のように照明がぶら下げられていた。

 

 窓際に、優しく木漏れ日が揺れる席がある。

 まるでスポットライトに照らされた主役のような、特別に幸せに包まれた席。シャルル ラポーレ。

 恋人たちの愛を引き立てる最上級の舞台。

 そうなれば、どんなに心が満たされることだろうか。

 もちろんそれは、レイとラズにとっても。


 キッチンで洗い物をしているラズの目を盗むように、レイは、ゆっくりとこの席に近づく。


「うん、ここにしよう」


 指先は、永遠の場所を示していた。

 この席が、二人の愛と共に在り続けることを願いながら。


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