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紡ぐ未来への形

 二人がまだ出会う前、それぞれが夢と現実に葛藤を抱えていた。


 レイは、とあるフレンチレストランでギャルソンとして働いていた。

 客からの評判も良く、何よりレイ自身が、この仕事に誇りをもっていた。

 

「おい、レイ!!!」


 この日はオーナーとビジネスパートナーとの重要な会食だった。

 そのオーナーは顔を紅潮させ、レイを射抜くような鋭い視線を向けた。


「メインより先にデザートを出す!? 貴様、それがどういう意味かわかっているのか!?」


 しかし、もともとその皿は先輩のギャルソンが運ぶはずだった。

 贔屓の客に呼ばれたそのギャルソンは、その皿をレイに運ぶように指示したのだ。


「この大事な会食を、台無しにするつもりか!恥をかかせるな!」


「いえ、これは…」

 確認しなかった後悔が、言い訳を飲み込ませた。


「お前みたいな半人前……もういらん!!クビだ!!」


 助けを求めるようにレイは辺りを少し見回した。

 しかし周りのスタッフ達は、矛先を避けるように黙々と持ち場に戻っていた。

 自分は消えてしまったのかと思うほどの孤独感に襲われた。


「……申し訳ありませんでした」


 レイは、うなだれたまま、目でキッチンに向かい礼をした。

更衣室へと向かうその足は朦朧としていた。

 何度も締め直してきたエプロンの紐は、どこか拒んでいるかのように解かれることに抵抗している。


 うつむきロッカーを開けた手はかすかに震え、ぎゅっと唇を噛む。

 目頭の痛みをこらえながら、エプロンと後悔をロッカーに押し込んだ。




 ラズはシェフを夢見ていた。


「人々に物語のように、心に残る料理を楽しんでもらいたい」――それが、彼女の理想だった。


 街にひっそりとたたずむフレンチレストラン。

 この店のシェフの料理には、一点の曇りもない。

 料理人たちも、高みを目指し、日々腕を磨く。

 だからこそ、厳しい指導や客の酷評にも真摯に向き合える。


 だが、このキッチンでは――


日々キッチンに響き渡るシェフのプライドと怒号が、料理人たちから創造を奪う。


「料理人なら俺の目になれ!俺が見なくても完璧な皿が仕上がるようにするのがお前らの仕事だろう!」


その日の機嫌次第で、同じ食材が、同じ調理が、傑作にも駄作にもなる。


 見た目は、どこかの国のお姫様が舞い降りたような煌びやかに飾られた料理。

 しかし、ラズにはその豪華絢爛な芸術がただの食事にしか見えなかった。

 目の前の食材を、自分の色で染めたい。

 その想いは、やがて自分への問いかけへと変わる。


「私が作りたい料理は、本当にここにあるの?」


 『違う』と断言する覚悟もなければ、一皿に物語を込める自信も、その時のラズには、まだなかった。




―そして、運命が互いを引き寄せあった二人が、この夜空の下のような部屋で暮らしていた。


 レイは、他人のために犠牲を厭わない不器用さと、素直で裏表のない優しさを持っていた。

 何より、ラズへの愛だけはまっすぐ伝えてくる。

 だからこそ、ラズもそんな彼をたまらなく愛していた。

 

肌を重ね少しだけ息を荒く、視線と指が絡み合う。


「部屋、寒くない?」


「うん。レイが暖かいから」


 愛の余韻が覚めない中、まるで感情や精神までもが重なったかのように、同じ思いが舞い降りてきた。


 二人だけの特別な言葉を形にしたい。


 レイは、ゆっくりと口を開いた。


「……シャルル、ラポーレ」

「ラズ、二人でレストランを開かないか?」


 夢の音に聞こえたレイの言葉に、ラズは息を飲んで答えた


「……いいね、レイ。それ、すごくいい」


 レイの頬に両手を添えながらラズが微笑む。未来の約束を交わしたように。

 いつもとは違う静かな時間の中で、二人の夢と愛の形が一致した。


「レストラン シャルル ラポーレ ラズ」。


 二人だけの特別な言葉を使ったフレンチレストランだった。

 レイが愛するラズの名前を添えて。


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