シャルルな二人
――カラン
ドアの上の小さな鐘が、軽やかに鳴った。
客が暗号を紡ぎに訪れるたび、その音は、いつものように精一杯の出迎えをする。
小さなフレンチレストランの一席では、今日も恋人たちが二人だけのデザートを口にしていた。
“暗号”という甘いソースを分け合いながら――。
レストランには一席だけ、木漏れ日に照らされている席がある。
彼がいなくなった今も——その席だけは、永遠を証明し続けている。
シェフのラズは、キッチンでローリエの葉をポトフに浮かべた。
その葉がゆっくりと沈んでいく姿に、ふとレイと暗号を生み出した日々が頭をよぎった。
― 20年前 ―
窓から差し込む朝日は淡く、時折吹く風がカーテンを優しく揺らしていた。
シングルベッドのある小さな部屋で、二人の恋人たちは静かに寄り添っている。
大きな家具はなく、シンプルながらも、互いの息遣いまで感じられる温かな空間。
そんな二人だけの世界の中で、何より幸せな時間があった。
それは誰にも気づかれない特別な暗号を作る、言葉遊び―。
お互いの感情が素直に伝わる言葉を選び、二人だけの心地よい響きへと染め上げていくことだった。
「ねぇ、ラズ。今日は『特別』って言葉の暗号、作らないか?」
レイは、恋人のラズの顔を見つめながら、いつもの優しい笑顔で遊びを始めた。
「いいわね。じゃあ……『シャルル』なんてどうかな?かわいくない?」
ラズもまた、レイが始めた言葉遊びにすっかり夢中になっていた。
~特別 シャルル
~愛 クレア
~最高 ファリス
~幸せ ラポーレ
こうして二人だけの暗号が、一つ、また一つと積み上がっていく。
そんな他愛もない話をしているとき、レイはいつも、ラズの肩に笑顔とともに顔を寄せていた。
シャンプーの香りと温もり――ラズのすべてを感じるために。
明日も夢も見失ったレイにとって、ラズは生きる理由そのものだった。




