第八章:再生の残響
芸屋の脱退から二ヶ月。
残響街は沈黙を破るように、新曲の制作を再開していた。
仲タモツが用意した小さなスタジオは、以前よりも静かで、どこか寂しげな響きを持っていた。
リーダー格となった平が、リズムを刻む。
岸がそれに絡み、低く唸るベースラインを走らせる。
大谷のギターは以前よりも抑えたトーンで、まるで何かを探りながら進むようだった。
そこへ宮城タカコが新曲のメロディを口ずさむ。
その声は、かつての強さと脆さを同時に孕んでいた。
「……そう、それ。もう少しその揺れを残して。」
仲がモニター越しに声をかけると、宮城はうなずき、わずかに笑みを浮かべた。
かつての“火花のような衝突”は、いまや“余韻のような静けさ”に変わっていた。
数日後、ラジオ局から出演依頼が届く。
「再始動後、初の生演奏です」と仲が伝えると、平は複雑な顔をした。
「……あいつのパート、どうする? ギター二本だった頃みたいにはいかねぇぞ。」
大谷はギターを置き、淡々と答えた。
「一本でやる。余計な音は要らない。いまは、俺たちの“今”を聴かせる。」
その夜の生放送。
四人の音は確かに減ったが、その分、空白が深く響いた。
宮城の声はどこか切なく透き通り、聴く者の胸の奥を揺さぶった。
曲のラスト、静寂の中に残ったギターのアルペジオが、まるで“誰か”からの返事のように余韻を残した。
ラジオ局の廊下を出ると、仲タモツがにやりと笑った。
「お前ら、壊れかけてやっと“人の心”に届いた気がするぜ。」
後日。
宮城タカコが深夜のSNSに一枚の動画を投稿した。
それは、薄暗い部屋でギターを弾く“手元だけ”の映像。
コメント欄にはこう書かれていた。
〈彼の音がまだ、どこかで鳴ってる気がする〉
ファンの間では瞬く間に憶測が飛んだ。
「芸屋、戻るのか?」「この音、あの人の指じゃないか?」
だが、彼女は何も答えなかった。
ただ、翌日スタジオに来て、少しだけ涙を浮かべて言った。
「もう一度、ちゃんと歌いたい。あの“歪み”と並んで。」
平が頷く。
「おう。じゃあ、音で呼び戻そうぜ。」
スタジオに、再びドラムが鳴り響いた。
低いベースと、荒れたギター、そして宮城の声。
まだ誰も知らない“再生の音”が、夜の街にこぼれ落ちていった。




