第七章:断線の夜
テレビ出演の数日後、バンドのグループチャットは沈黙していた。
報道サイトでは、芸屋博の「暴走ステージ」と銘打たれた記事が拡散し、
レーベル関係者が火消しに走る中で、仲タモツも疲れたように頭を抱えていた。
そんな折、平が仲のオフィスを訪ねる。
「博と連絡がつかない。」
仲は短く息を吐く。「やっぱりな……今朝、事務所を通して“脱退したい”って連絡が入った。」
平は黙ってドラムスティックを見つめた。
音楽を守るためにぶつかり合い、ようやくひとつになったはずの仲間。
なのに、また“音”が途切れる——その現実が信じられなかった。
夜、宮城タカコは一人でスタジオにいた。
暗い照明の中、マイクを前にしても声は出なかった。
そこへ、静かに扉が開く音。
岸だった。
「……本当に、あいつ抜けるのか。」
「うん。もう戻らないって。」
宮城の声はかすれていた。
「私、あの人に負けたくないって思ってた。でもね、舞台で隣にいないと、私の歌、空っぽみたいで。」
岸は無言でベースを構える。
「じゃあ、歌ってみろ。俺たちがいる。」
宮城は泣き笑いのような表情でマイクを握り、声を出した。
その震える歌に、大谷と平がいつのまにか加わり、音が少しずつ形になっていく。
芸屋の不在が生んだ“空白”を、四人の音が丁寧に埋めていった。
翌朝、仲タモツは彼らのリハを聞きながら、静かに腕を組んだ。
「……悪くねぇ。けど“歪み”がなくなった分、危うさも消えた。」
大谷が答えた。「歪みがなきゃ、俺たちの音じゃねぇ。」
仲は小さく笑う。
「じゃあ、探せ。自分たちの“新しい歪み”を。」
その夜、平は初期メンバーだけのグループチャットを開いた。
〈芸屋の穴、誰が埋める?〉
岸が返信した。〈誰も埋められない。けど、それでいい。〉
宮城が続けた。〈空いた場所に、新しい音が響くかもしれない。〉
最後に平が打ち込む。〈じゃあ、続けよう。止まるよりマシだ。〉
画面の向こうで既読がひとつ、またひとつ点いた。
五人で始まった残響街は、静かに四人の旅を再開した。




