第六章:崩壊の序曲
ツアーを終えて三ヶ月。
残響街はついに初のメジャーデビューを果たした。
デビュー曲『残響の明日』は深夜ラジオで話題となり、SNSでは宮城タカコの声を称賛する投稿が相次いだ。
だがその裏で、別の評価も広まり始めていた。
——「芸屋の存在が薄い」「バックの演奏陣の方が熱い」。
その記事を、芸屋は楽屋で無言のまま読み返していた。
ギターケースを閉じ、深く息を吐いたとき、宮城が声をかけた。
「そんな記事、気にしてどうすんの。音で証明すればいいでしょ。」
「お前は“証明”されてるだろ。俺は……ただの脇役だ。」
その声には、あの日感じた柔らかさがもうなかった。
大谷も、別の場所で苛立っていた。
「芸屋の作ったメロディ、整いすぎだ。もっと攻めなきゃ、魂が鈍る。」
岸が淡々と答えた。「でも、その整いが今の人気を作ってるんだよ。」
平は黙ってスティックを回し、間を取って言った。
「お前ら、音が信じられなくなってる。」
一瞬の沈黙。
だが誰も、反論できなかった。
やがて、音楽番組出演が決まる。
収録当日、舞台裏で仲タモツは全員に視線を向けた。
「外の光に飲まれるな。カメラじゃなく、音を見ろ。」
ステージが照明に包まれ、イントロが始まる。
宮城の声が伸び上がり、観客が息を飲む。
芸屋のギターが入る——が、その瞬間、モニターの音バランスが崩れた。
ギターがほとんど聞こえない。
それでも彼は止まらず、切り裂くようなリフを叩きつけた。
そして間奏で、予定にない高揚のシャウトを放った。
その瞬間、スタジオの空気が張り詰めた。
宮城がわずかにテンポを外す。岸が支えようとするも、大谷がわざとリズムを揺らして対抗。
平のドラムだけが冷静に、バンドの命綱を握り締めていた。
——演奏が終わると、観客は凍りついたような静寂の後、爆発的な拍手を送った。
だが、袖に戻った五人の間には言葉がなかった。
その夜、仲タモツは事務所の屋上で平と煙草を交わしていた。
「表向きは成功だ。番組もSNSも話題騒然。でもな、あの空気は……ヤバい。」
平は静かに頷く。
「音は生きてる。でも、バンドの“心臓”がどっかに飛んでった気がする。」
すると仲が言った。
「お前らはまだ終わってねぇ。ただし、このまま行けば、誰かが壊れる。」
夜風が吹き抜け、東京の街が遠くで光っていた。
その明かりはまるで、燃えすぎた星のように眩しかった。




