第五章:巡り響く舞台
仲タモツの的確な売り込みで、バンドは全国の小規模ライブツアーを決定した。
バンド名は「残響街」。
最初の公演地は名古屋。
狭いハコのステージに立った宮城タカコの声は、やがて観客を飲み込み、
芸屋のギターとツイン・ボーカルで掛け合うサビでは、フロア中が一つに跳ねた。
大谷と岸の演奏が空間を絡め、平のドラムがまるで鼓動のように全てをつないでいた。
初ツアーは順調そのものに見えた。
だが、仲タモツは終演後の楽屋で、ふと空気の違和感を感じ取っていた。
二本目の大阪公演。
宮城が新曲のキーを変更したいと言い出した。
「この高さだと、感情が出し切れないの。」
「曲の構成が崩れる。」芸屋が即答する。
だが宮城は譲らなかった。「あなたの曲だけじゃない。私たちの歌でしょう?」
そのやり取りを黙って聞いていた大谷が、急に声を上げた。
「俺は宮城のキーで行こう。博、お前の構成でも悪くねぇけど、声が立たなきゃ曲は死ぬ。」
険悪な空気。
岸はぼそっと呟いた。「また始まったよ……。」
平は深呼吸して、全員を見回す。
「キーを変えるなら、全員でその意味を決めよう。誰か一人の“感情”じゃなく、五人の音でどう作るかだ。」
静寂。
それでも彼らは翌日のリハーサルで、互いの意地を削りながら曲を練り直した。
結果、生まれた新しいアレンジは予想以上に鋭く、観客の反応はこれまでで最も熱かった。
ライブのラスト、宮城と芸屋が目を合わせて笑った。
その瞬間、仲タモツは舞台袖で確信した。
「こいつら、本物になる。」
ツアーを終え残響街は、都市部の音楽誌に取り上げられ始めた。
「男女ツインボーカルによる攻撃的なサウンド」「生音で心を揺さぶる5人組」。
だが、光の裏には影も差し始める。
人気が出るにつれ、取材では「看板ボーカルはどちらか」という質問が繰り返された。
宮城は笑顔で答えた。「二人でひとつです。」
だが、控室に戻ると、その笑顔は消えていた。
芸屋は次第に、曲作りで宮城を意識しすぎるようになった。
「俺は“対等な共演者”じゃなく、ただの添え物なのか……?」
その疑念が音に滲み始めていた。
仲タモツはそんな空気を察して、ツアー最終日に五人を呼び止めた。
「次のステージは、音楽だけじゃなく“絆”を試される。だが勘違いするな。お前らが惹かれてるのは“成功”じゃねぇ。あの、ぶつかり合って火を吹く瞬間だろ。」
平が笑い、大谷が無言でギターを持ち上げる。
岸は黙って頷き、宮城と芸屋は短く視線を交わした。
その夜、彼らの音は、まるで嵐の前の静けさのように、眩しく燃えていた。




