第四章:沈黙の旋律
再結成から半年。
三人のサウンドは、確かに磨かれていた。
ライブハウスの店長たちも、いつしか彼らを“地場最強トリオ”と呼び始めていた。
しかし、平には引っかかるものがあった。
どんなに演奏が完璧でも、心を揺さぶる“何か”が、まだ足りない。
ある夜、常連客の紹介で一人の女性がスタジオに訪れた。
小柄な体にジーンズ、髪を後ろでまとめた彼女は、マイクを手にして言った。
「歌わせてもらっていいですか? 宮城タカコって言います。」
大谷が軽くコードを鳴らし、岸がリズムを支える。
平がキックを踏んだ瞬間、宮城の声が空気を突き抜けた。
透明でありながら、芯に熱を持つ声。
彼らの“音”がその声に引き伸ばされるように広がり、スタジオ全体が震えた。
演奏が終わると、誰も口を開けなかった。
沈黙を破ったのは大谷の一言だった。
「……やっと、前に進めるかもな。」
その日を境に、四人の新しいバンドが始動した。
間もなく、一人の男が平たちの練習を見学に来た。
仲タモツ——元サウンドエンジニアで、現在は新進バンドのマネージャー。
飄々とした態度の裏で、音の細部に敏感な人物だった。
リハ後、仲は腕を組みながら呟いた。
「お前らの音、いいね。でもな、このままだと“閉じた音”だ。外の世界にぶつけるためには、もう一人——違う視点の演奏者が必要だ。」
そう言って紹介されたのが、芸屋博。
元・別バンドのボーカル兼ギタリストで、ステージ映えする派手なパフォーマンスで知られていた。
初顔合わせの日、芸屋は場の空気も読まずに言った。
「大谷くんのリフ、悪くないけど……もっと“曲”として作った方がいい。」
そのひと言に、スタジオの空気が凍った。
岸が眉をしかめ、平が即座にドラムスティックで床を軽く叩く。
だが、大谷は意外にも笑った。
「いいね。じゃあ、お前の“曲”に俺の音をぶつけてみろよ。」
次の練習では、宮城のボーカルを中心に、芸屋の構成力と大谷の即興力が激しくぶつかった。
まるで以前の喧嘩の再演。しかし今度は違った。
宮城の声が、二人の音の狭間に立ち、バランスを取る。
岸の低音が地盤を固め、平のリズムが全員をひとつの“拍”の中に束ねる。
演奏が終わると、仲タモツが静かに拍手した。
「これだ。心を掴む“音楽”になってきた。」
彼の瞳には、確信の光が宿っていた。




