第三章:歪んだ共鳴
それから数ヶ月、平は新しいバンドに誘われながらも、どれも長く続かなかった。
どの音にも「魂」が感じられない。どんなに技術があっても、あの二人のようにぶつかり合って生まれる“熱”がなかった。
一方、大谷はライブハウスを渡り歩いていた。
「天才ギタリスト」と噂されるようになっても、共にステージに立つ仲間はいなかった。セッションが終わるたび、どのミュージシャンも離れていく。
ある夜、酔った観客が言い放った。
「お前の音、すげぇけど……虚しいな。」
その言葉が、頭から離れなかった。
岸もまた、別のバンドで活動していた。演奏は堅実で、評価も高い。
だが、本番前のリハーサルで「グルーヴが軽い」と言われるたび、胸の奥がざわめいた。
彼の耳にいまだ残るのは、あのドラムとギターの“暴れるような生音”だった。
そんなある晩、ライブハウスの掲示板に見覚えのある名前があった。
——大谷烈 ソロ出演。
岸は無意識にそのチケットを買っていた。
その夜。
ステージの上でひとり演奏をする大谷を、岸は客席から見つめていた。
曲の中盤、ギターの音がふと迷ったように揺れる。和音の奥に、“届かない何か”を探すようなフレーズ。
岸はその瞬間、悟った。
——こいつ、まだ“探してる”んだ。
演奏後、岸は裏口で大谷に声をかける。
「相変わらず勝手なやつだな。」
振り向いた大谷が、少しだけ驚いたように笑う。
「お前も相変わらず、文句言いに来たのか。」
「いや、……次は、合わせてみるかと思ってな。」
短い沈黙。
それだけで、過去の喧嘩や別れの夜がすっと遠のいていった。
数日後、平のスマホが震えた。
〈明日、スタジオ取った。三人でやらねぇか。〉
送り主は岸だった。
翌日、スタジオに三人が揃った。
最初の音を鳴らすまで、誰も言葉を発さない。
そして、一音目——。
平のスネアが鳴った瞬間、岸のベースが唸りを上げ、大谷のギターがそれを突き抜けた。
音が絡み合い、かつての衝突が、今度は渦のようにひとつへと収束していく。
互いの個性を押し潰すのではなく、折り重ねるように響く。
スタジオの天井が震えるほどの音圧の中で、平は叫んだ。
「これだよ! お前らとじゃなきゃ出せねぇ音だ!」
その言葉に、二人は短く頷いた。
静かに息を吐き、再び音を放つ。
——不協和音は、ついに共鳴へと変わった。




