第二章:追放
最初のライブが決まったのは、思いのほか早かった。
ライブハウスの店長が、スタジオの隣室で偶然彼らを聴いたのだ。荒削りだが、異様な熱気がある——それが店長のひと言だった。
「まだバンド名もねぇのに、ステージ立つとか無謀すぎだろ。」
岸が眉をひそめると、大谷はギターケースを開けながら笑った。
「細けぇこと言うなよ。演れば分かる。」
平は苦笑した。口では無茶を言うが、大谷は本番になると誰より集中するタイプだった。だが、その「集中」は、時に他人を排除するほどのものでもある。
ライブ当日。客席には数十人ほどの観客。照明に照らされるステージの上で、音が解き放たれる。
大谷のギターが火花のように弾け、岸のベースがそれを地面に押しつけるように鳴る。平は鼓動のようなリズムで二人を繋ぎとめる。
——完璧だった。最後の曲が始まるまでは。
その瞬間、大谷が予定にないソロを始めた。アンプが悲鳴を上げ、沿うように岸の音が沈む。
岸が睨む。それでも大谷は止まらない。平がリズムを無理やり戻そうとしても、音は崩壊する。
客席の空気が固まり、終演の合図もないままフェードアウトした。
ステージを降りると、岸が静かに口を開いた。
「お前、俺たちを無視しただろ。」
「俺は“音”を追っただけだ。」
「それが独りよがりだって言ってんだ!」
ギターケースが壁に叩きつけられ、スタジオのような熱が、今度は怒りへと変わった。
平は仲裁に入るが、言葉が追いつかない。
岸が吐き捨てるように言った。
「もうやってられない。俺は抜ける。」
その夜、グループチャットにひとつだけメッセージが届いた。
「岸、脱退。」
日が経っても、平はスティックを握る気になれなかった。
練習スタジオに一人残っても、ドラムの響きが余計に空虚に響く。
そこへ、不意に扉が開いた。大谷だった。
「……悪かったな。」
その声には、以前の勢いがなかった。
「俺、あいつのこと認めてたんだ。ただ、自分でも止められなくて。」
平はしばらく黙ってスティックを回し、言った。
「お前が心の底から弾いてたのは分かる。でもな、“音”ってのは一人じゃ成立しねぇんだよ。」
大谷は目を伏せた。
それでも、その言葉が小さな火種のように胸に残る。




