第三部 第一章:終わりなき拍
深夜の渋谷。
クラブの壁に貼られたポスターの一枚に、印字の薄れた文字があった。
──**“ZANKYOGAI Memorial Session・出演:RION and GUESTS”**
そこに“GUEST”として書かれた名前は、すでに伝説となった五人のものだった。
宮城タカコがこのイベントを企画したのは、芸屋ヒロシの訃報から一年後のことだった。
彼の遺した最後のデモ——
たった二分の未完成曲〈Infinity〉。
録音の最後に、微かな声が残っていた。
「音は消えても、拍は終わらない。」
その一言に全員が動かされた。
岸は再びベースを抱え、平はスティックを持ち直す。
大谷は時折空を見上げて言った。
「こいつ、また勝手に締めやがったな。」
当日。
会場は立ち見の観客で埋まっていた。
凛音のオープニングステージが終わり、
暗転したフロアに再生されたのは——芸屋のギター音。
ノイズ交じりの歪み。
それが“過去”ではなく“今”を鳴らしているように感じた。
そこに生ドラムが重なり、
ベースがうねり、
大谷のギターが泣くように応える。
ステージの上には宮城と凛音。
二つの声が、それぞれ違う時間の“残響”を歌っていた。
サビで照明が開く。
背景スクリーンには、若かりし日の芸屋が弾く姿が映し出される。
そして、凛音が静かに囁いた。
「——この音を、未来へ渡します。」
その瞬間、観客の歓声が爆発した。
涙を流しながら拳を上げる年配のファン、
スマホのライトを振りながら合唱する若者たち。
誰もが知った。
“残響街”という名前は、もう一家族のようなものだと。
ライブが終わったあと、
宮城は控室で一人、ステージの光を見つめていた。
「終わったね。」と平。
「いや、始まったんだ。」と彼女はつぶやく。
「だって、今日は私たちだけじゃなく、会場全体が“残響街”だった。」
岸が静かに頷く。
「音は受け取った人の中で続く。俺たちの役目は、それを信じることだ。」
大谷がギターを置き、出口のほうを見た。
「……ヒロシ、今頃どこで笑ってんだろうな。」
宮城は微笑んだ。
「たぶん、拍を刻んでるわ。どこか別の場所で。」
翌日、SNSにはひとつのハッシュタグが広がっていた。
#残響街_続く音(The Sound Goes On)
「音は生き続ける。誰かが歌う限り。」
その波は世界中に拡散し、動画配信サイトでは
“残響街カバーセッション”が次々と投稿された。
凛音のコメント動画の最後にはこう記されていた。
「音に終わりはない。
それが、残響街の証明です。」




