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残響(連載版)  作者: yashiki2005
18/20

第二部 第三章:未来の残響

リハが終わると、スタジオの外は朝焼けに染まっていた。

十年前とは違う。

疲労の中に「次へ進みたい」という確かな熱があった。

仲タモツは皆の機材を見ながら言った。

「時代は変わった。配信だ、SNSだ。

 けど、お前らは“生音”で勝負しろ。

 機械の音より、血の通ったノイズのほうがよっぽど人を動かす。」

芸屋がギターケースを背負いながら苦笑する。

「変わらないな、あんた。十年前も同じこと言ってた。」

「十年前に正しかったことは、今もたぶん正しいんだよ。」


翌月、“残響街 Re:Lights Tour”が始まった。

舞台には五人に加え、若手シンガー凛音りおんも共演する構成だ。

初日、名古屋公演。

客席にはかつてのファンと、SNSで噂を聞きつけた若い観客が混ざっていた。

年齢も価値観も違う。それでも、響く音は同じだった。

照明が落ち、ステージ中央に宮城が立つ。

「久しぶりに——鳴らしてみよう、残響街です!」

歓声が上がる。

曲は新旧織り交ぜたセットリスト。

『残響』『断線』『脈打つ街』、そして新曲『光の遠音とおね』。

新曲は芸屋が書いた旋律をもとに、凛音と宮城が共作した詞だった。

──過去の痛みではなく、未来の痛みを抱いた曲。

サビに差し掛かる。

二人の声が重なり、芸屋と大谷のギターがそれを包み込む。

岸の低音が空気を震わせ、平のドラムが全ての心臓を支える。

その瞬間、観客の中で泣いている者がいた。

十年前に“残響街”に出会った古いファンだった。

「帰ってきた……でも、昔より優しい音だ。」


ツアーは各地で成功を重ねた。

一方で、若い観客がSNSで呟く。

「残響街ってバンド、親世代に人気だったけど、今聴いても刺さる。」

「これが“本物の音楽”ってやつか。」


彼らは知らぬ間に、またひとつの時代の象徴になりつつあった。

だが、最終公演を前に、芸屋の体調を巡る噂が流れ始める。

リハの途中、彼が足元で息を整える姿を宮城が見つけた。

「ヒロシくん、無理してない?」

「大丈夫さ。……ただ、“響き過ぎてる”だけだよ。」

そう言って笑うが、指先は震えていた。

平がそれを見て、小さく呟いた。

「音は命を削るもんだ。だが、それもまた音楽の一部だ。」


最終公演・東京国際フォーラム。

ステージ中央に、“街”のネオンを模した巨大なセット。

仲タモツは袖でマイクに向かう前の五人を見つめて言った。

「これが全部だ。もし今日で終わっても後悔はない——

 けど、お前らはきっと終わんねぇだろうな。」

照明が落ち、イントロが流れる。

曲は新曲『光の遠音』。

ギターのノイズ、ベースの轟き、ドラムのうねり。

宮城と凛音の声が交わり、客席がゆっくりと光の波に包まれていく。

最後のフレーズで、芸屋が静かにコードを伸ばした。

音が消えた瞬間、観客が息を呑む。

そして、圧倒的な拍手が彼らを包んだ。


終演のあと、楽屋で芸屋は汗を拭きながら呟いた。

「なぁ……俺たち、ようやく“終わりじゃない音”を鳴らせたな。」

宮城が笑って答える。

「残響街は、もう続いてるの。私たちの外で、未来のどこかで。」

凛音がスマホを見せた。

SNSのトレンドに、「#残響街」が再び浮上していた。

その下には、十代のリスナーの書き込み。

「残響街の音、学校の帰り道で聴いた。

なんか、自分も生きたくなった。」

芸屋は静かに、微笑んだ。

「……それで十分だ。俺たちがまだ鳴ってる証拠だ。」


夜、ステージ照明がすべて消えるとき。

五人と一人の影が、まるで街の灯と重なるように残った。

そして誰かが呟いた。

「響きは終わらない。これが、残響街の“第二の始まり”だ。」

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