表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響(連載版)  作者: yashiki2005
16/20

第二部 第一章:残響の継承


あの再会ライブから十年が経った。

〈残響街〉の名前は、今では伝説として音楽誌に載るほどになっている。

ただし、彼ら自身はすでに動きを止めていた。

ツアーもアルバムも出さず、それぞれが己の音を追っていた。

にもかかわらず、その影響は街の片隅に確かに息づいていた。


午前の音楽教室。

平幹夫は、十代の生徒たちを前にしてスティックを回していた。

「ドラムは叩くもんじゃない。“支える”もんだ。」

生徒の一人が手を挙げる。

「先生のいたバンドって、本当にそんなにすごかったんですか?」

平は笑って答えた。

「すごかったさ。でも、すごいってのは、うまいって意味じゃない。

 痛いほど“本気”だっただけだ。」

授業が終わると、ひとりの少女が近づいてきた。

耳元で小さく言う。

「私、宮城タカコさんに憧れてます。歌うとき、あの人みたいに泣きそうになるんです。」

平は目を細めた。

「なら、その涙を隠すな。あれは音になるからな。」


同じ頃、岸は都内のライブハウスでセッションのサポートをしていた。

演奏前、若いベーシストが緊張した様子で尋ねる。

「岸さん、ベースってどうしたら“自分の音”になりますか?」

岸はベースの弦を軽く弾きながら答えた。

「音は鳴らしてるうちは自分のもんだ。でも、鳴らした瞬間に誰かのものになる。それでいい。

 残る音が、人を動かす。」

演奏が始まる。

ステージライトが岸の手元を照らし、その響きが観客の足元から胸の奥へ抜けていく。

そこには、あの頃と同じ重みと“覚悟”があった。


一方その頃、宮城タカコは地方の文化会館で、小さなライブツアーを行っていた。

新しい曲『脈打つ街』のリハ。

スタッフが機材を整える間、彼女は客席に向かって静かに歌った。

その歌詞の中に、確かに“あの頃”の響きがあった。

迷った音が 街の灯になる

誰かの胸で まだ生きてる


リハーサル後、控室に届いた一通の封筒。

送り主は海外在住の芸屋ヒロシからだった。

中には、一枚のUSB。

メモには一言だけ――

「お前たちの音、まだ終わってねぇ。」


夜、宮城はホテルの部屋でUSBを差し込む。

スピーカーから流れたのは、一つの未完成テイク。

聞き覚えのあるギターに、新しいコードが重なっていた。

「ヒロシくん……またこれか。」

ため息をつきつつも、笑みがこぼれる。

彼女はすぐにスマートフォンを手に取り、短いメッセージを打った。

〈これ、みんなにも聴かせる。十年ぶりに、もう一度合わせよう。〉

送信ボタンを押す。

その瞬間、窓の外で雨が降り始めた。

だが、その音はどこか優しかった。


次の瞬間、遠い国のバーで芸屋ヒロシがギターを弾く。

指先の震えに、微かな通知音が重なる。

画面には短く一行。

〈再会しよう。残響街で。〉

彼は弦を鳴らし、苦笑する。

「……やっぱり、逃げられねぇな。」


十年の沈黙を超えて、再び“音”が動き出す。

そしてその先で生まれるのは、次の世代と“街の残響”――

新たなる残響街。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ