表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響(連載版)  作者: yashiki2005
12/20

スピンオフ短編:宮城タカコ「声の棲む場所」

深夜一時。

レコーディングを終えた宮城タカコは、誰もいないスタジオに残っていた。

マイクスタンドの前に立ち、声を出さずに深呼吸をする。

静寂に包まれた空間の中、空気の震えだけが耳に届いた。

ガラス越しの調整室には、もう誰もいない。

だが、タカコには聞こえる——かつての音。

平のスネア、岸のベース、大谷と芸屋のギター。

あの「残響街」の音が、まだこの部屋のどこかに息づいている気がした。

「ねえ……まだ、聴こえるよね。」

呟きながら、彼女は小さくハミングを始める。

メロディは新曲の断片。

ところが途中で、別のフレーズが自然に混ざる。

——十年前、芸屋が作った“未完成のサビ”だった。

思わず笑ってしまう。

「勝手に混ざるなんて、ずるいな。」

彼女はマイクボタンを押した。

録音を開始して、部屋の灯りをひとつ落とす。

ピアノのリズムを軽く打ち込み、そこへ自分の声を重ねていく。

夜の静けさの中で、誰にも聞こえない小さなセッションが始まった。

歌い終えると、モニターの波形が穏やかに揺れていた。

タカコはしばらくそれを見つめ、ヘッドホンを外す。

口元に静かな笑みが浮かぶ。

「……思い出じゃなくて、今を歌えた。」

モニターの隅に残った赤い録音マークが消える。

その瞬間、窓の外から夜の風が入り、譜面の端をめくった。

その紙の上には、手書きの文字があった。

〈Zankyogai - Refrain〉

彼女はそっとペンで一行書き足す。

——“声は、まだここに棲んでいる。”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ