アフターストーリー:残響の灯
東京・下北沢。
夜風が吹き抜ける路地に、小さなライブハウス〈echo base〉があった。
壁には古びたポスターが貼られている。
——「残響街 Final Reunion Tour」。
あの光景を覚えている者は、もう多くはない。
ステージに立つのは、若い三人組。
ギターの少年がリハーサルの途中で言った。
「先生、もうちょっと聴いてくれませんか?」
その“先生”こそ、平幹夫だった。
彼は笑ってスティックを指に転がす。
「いいな、そのリズム。ちょっと荒っぽいけど……昔の俺たちみたいだ。」
数日後、岸がスタジオに顔を出した。
「おい、あの曲、残響街っぽいな。ベースもっと攻めていいぞ。」
若いベーシストが目を丸くする。
「残響街、知ってるんですか⁉」
「ちょっとな。」
そう答える瞳に、あの頃の熱が微かに宿っていた。
その夜、宮城タカコはレコーディング後にひとり街を歩いていた。
通りのスピーカーから、偶然、若いインディーズバンドのデモが流れる。
柔らかい声に、透明なギターの旋律。
思わず立ち止まって呟いた。
「……あの子たちも、“響き”を継いでる。」
携帯に一通のメッセージが届く。
——「久しぶり。今度、日本に帰る。数日だけ、セッションしよう。」
差出人は芸屋博。
彼の手元のギターには、相変わらず傷がいくつも残っていた。
そして週末。
旧メンバー四人と芸屋が、十年ぶりに同じスタジオに並ぶ。
宮城がゆっくりとマイクを握り、平がドラムを叩く。
音が重なるたびに、青春が蘇るようだった。
岸がふとつぶやく。
「なぁ、俺たちの音、まだ街に響いてると思うか?」
大谷が小さく笑う。
「響いてるさ。誰かが、その続きを鳴らしてる。」
宮城の声が重なり、芸屋のギターが最後のフレーズを奏でる。
その音は窓を抜け、街へと溶けていった。
ビルの谷間、住宅街、深夜の電車の線路。
どこかで誰かが、それを聴いている。
——それが、〈残響街〉という物語の終わりで、
そして、すべての“はじまり”だった。




