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「Guiest」  作者: 木卯 空
第一話「のっぺらぼう殺人事件」

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七.新校舎三階廊下〜図書室

「漸くだね変態さん。」

「……」

 変態じゃないと言おうとして止まる。上手い言い訳が思いつかなかった。

「うるさいなぁ。情報持ってきたから許してよ。」

 漸く捻り出した声はブツブツと小さいが、曲にはしっかり届いたようだった。

「何か分かった?」

「AとC、どっちに関しても幾らかね。……この後を考えあぐねてるんだけど、」

「あぁ、最後の人はさっき帰ったよ。」

 チラと目線を外へ流した椿に曲が先手で答える。

 待ってる間に見ていたと言えば「ありがとう」と返ってきた。

「じゃあ、先に図書室行きたい。多分、隙間の司書が、首を長くして待ってるよ。」

 得た情報は歩きながらと歩き出せば、曲は後ろに付いてきた。

「で、何が分かったの?」

「Aの行方の範囲と、Cの殺された日の話。」

「結構だね。やっぱ女子手洗って秘密の花園か。」

 カコカコカコンと階段を降りる。

「あぁでも、花の園ならまぁ、お前が入る分には問題無いのかもなぁ。な、つ、ば、き?」

「……揶揄うなってば。」

 ニヤつく曲に対し、椿は口をへの字に曲げて、溜め息一つ。

「まず、Cが殺された当日の話だ。花子さん曰く、事件当日、Cは誰かに呼び出されていた。それを共犯者達に話していたんだって。そして応じる事を共犯者達に止められてもいた。止めた共犯者達曰く、『復讐に来たんだ』って。」

「復讐?」

「そう。復讐。」

「んー、」

 曲は手摺を掴んで踊り場でグルンと方向転換した。

「そのまんまで受け取るなら、死んだ筈のAからの呼び出しが来て他が止めた。でもそうだとしたら反応が変だ。人間なら死んだ奴からの呼び出しなんて、復讐より先に『誰が成りすましてるか』を疑いそうだと、俺は思うけどなぁ。」

「そうだね。そして呼び出したのが生きている誰か、そう、例えば犯人として捕まった女教師だとしてもおかしい。そもそもAの件が発覚したのはCの事件の後だ。その時点でAの事を知ってる人間はおそらくC達のみの筈。それなのに、そんな発想が出るのも不自然だ。」

 二階へと降り立つ。

「でも、もしもAがまだ居る事を、C達が何かの拍子で知っていたのなら、話は噛み合う。」

 曲が振り返る。

「花子さんが言っていたもう一つの話だよ。……Aはまだ、この学校内に居るそうだ。」

 口笛一つ。

「これは完全に変異した口だな。Cが誰に呼び出されたにしろ、Aと呼び出しそのものが無関係にしろ、まだここに居て、なのにその魂が未回収って事は。」

「……その辺り含めて、隙間の司書に話を聞きたいね。」

 急ごう、ともう一つ階を降りようとした時、タタタ、と足音が聞こえてきた。

「……曲、最後の人って」

「もう帰ってるって言ったろ。一旦隠れよう。」

 階段傍の男子手洗に二人は静かに入り込む。

 足音は中二階の渡り廊下の先、つまり、椿が人影を見た渡り廊下の先から聞こえてくる。

 しかし、

「……こっちへは来ないな。」

「音的に、旧校舎二階に入ったぽいね。……追ってみよう。」

 椿が手洗を出て走り出す。その後を曲が追いかける。

 足音は依然と聞こえているが、二人が旧校舎側に着いた時には、姿はもう見えなかった。

「どこ行った?」

「……」

 曲の言葉に答えないまま、椿が二階の廊下を駆け抜ける。

 耳を澄まし、僅かな音を拾う。

—上。

 反対端の階段の踊り場へ一足飛びに飛んで、また音を探す。

—渡り廊下の先。

 其方へ走れば、新校舎三階廊下の方から、小さな悲鳴がした。

—居た。

「曲!」

「応さ!」

 椿が背中の裁ち鋏の柄を掴み、曲は椿の前へ飛び出した。

 その先にはS高制服を着た女生徒と、宙を飛ぶ頭部の群れ。数は四つ。女生徒を挟み撃つ様に飛んでいる。

 窓の留め金に手を伸ばすその女生徒に頭の一つがぶつかる寸前、曲が女生徒を掬い上げ、そのまま頭を掻い潜って抜ける。

「椿!」

 勢いのまま振り返る。

 丁度、ベルトから抜き取られた裁ち鋏が、女生徒にぶつかろうとした頭を叩き潰した瞬間だった。

 下駄の歯を削りながら勢いを殺して止まる。その前に、勢いで飛び上がった椿が頭を越えて降り立つ。

「ちょ、なになに!?今度は何!?」

 曲の小脇に抱えられた女生徒が顔を上げた。

「!君は」

 が、そこには顔が存在しなかった。

 目も鼻も口も無い。つるりとして凹凸も無い。

 のっぺりとした、相貌。

「椿、前!」

「!」

 二つの頭が椿に突っ込んできた。

 それを追い払う様に鋏でもって横殴りにすれば、骨と肉がひしゃげる感覚と入れ替わりに頭部達は廊下の壁を、床を、跳ね転がっていく。

 しかし、

「おいおい、再生機能付き?やぁらしいねぇ。」

 曲が頬を引き攣らせる。

 視線の先では、割れた頭がミキメキと元通りになっていく。

 椿が他の頭へ視線を走らせれば、他も同様に元に戻ってふわふわと宙へと浮かび上がる。そしてクルリと椿達の方を向いた。

 頭達には、それぞれ顔のパーツが一つしか存在していなかった。

 左目、右目、鼻と口。

 それぞれそれしか無い頭達が、椿達にゆらりふらりと近付いてくる。

「……」

 椿は鋏の根元の留め具に目を向け、次に廊下を見やって顔を歪めた。

 曲達を庇う様に鋏を構える。

「曲、時間稼ぐから、逃げ道作って。」

「了解。」

 椿の言葉に、曲は周囲へ視線を廻らせた。

「上の渡り廊下、外に出てそのまま図書室に飛び込む。開け放つから十秒は空けて。」

「分かった。」

 応えと同時に二人は走り出す。

 女生徒を横抱きに抱え直した曲は階段を半階上がって外へ、椿は曲の方へと、椿を無視して行こうとした頭を打っ飛ばして遠ざける。

 五、外へ出た曲が欄干に足を掛ける。

 四、全ての頭を叩いた椿が階段を飛ぶ。

 三、図書室二階の窓へ目掛けて曲が跳べば、窓が自然と開かれた。

 二、それに瞠目するも、そのままそこへ飛び込む。

 一、椿が曲を追って、欄干を蹴る。

 零、再生しかけの頭がそれを追う。しかし、

「貴方方は図書室出禁です!下がりなさい!!」

 頭の群れがビタリと動きを止める。

 椿が図書室に飛び入れば、ピシャンと窓は閉められ、即座カーテンも閉められた。

 室内が真っ暗になる。

 カチ、と灯りが一つ、すぐに点けられた。曲が持っていた筆箱電灯ペンライトだ。

「椿、大丈夫か?」

「なんとかね。」

 手に持ったままだった鋏を背に戻しながら立ち上がる。

「ありがとうございます、助かりました。」

 椿の目線の先、そこを曲が照らすが、あるのはカーテンを引かれた窓と、本棚だけ。

 ただ、よくよくと、よくよくと見れば居る。

「礼は不要です。寧ろ、お礼を言いたいのは此方の方です。その子を助けてくださってありがとうございます。」

 声はカーテンと本棚の隙間から聞こえてくる。

 よくよくと見れば、そこに居る。

 本棚の後ろから、横向きになった目元が椿達を見つめている。

「アンタが、隙間の司書サン?」

 女生徒を床に下ろした曲が、カラコロと椿の隣に並び立つ。

 目が曲を一瞥した。

「はい。お待ちしておりました、御二方。それで、私は何からお答えすれば宜しいですか?」


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