六.新校舎三階女子トイレ
「千夏さん、梓さん。……最近亡くなった生徒お二人の名前で?」
「そうよ、そう。ご存知無くて?」
「……昨今は個人情報の取り扱いとやらには厳しいモノでして。」
「まぁ、そうでしたの。では、そうねぇ。」
小首を傾げて片手を頬に当てていた花子さんは、何かを思い付いたのか足を組んで指を組んで、そこに可愛らしく顎を乗せた。
「お二人が話していたAとC、どちらが千夏さんで、どちらが梓さんか当てられましたら、私の知っている事、教えて差し上げますわ。」
椿の目が細まる。
「本当に、よろしいので?」
「えぇ、ちょっとした遊びですもの。嘘を言う必要は無くってよ。」
くすりくすりと笑む花子さんを見下ろして、暫し椿は沈黙する。
黙考。けれど次に口を開くまでにさして時間は掛からなかった。
「……Aが梓さんで、Cが千夏さんですね。」
「まぁ、正解。どうして分かったのか、聞いてもよろしくて?」
楽しそうに前のめりになる花子さんに対し、椿は肩を竦めて見せた。
「当てずっぽうです。根拠が無くて申し訳ない。」
「あら、」
にんまりと花子さんの目が細められる。
「随分とイケズな方。それとも身持ちが堅いのかしら。」
くすくすくす。花子さんがふわりと浮かび上がる。
「まぁいいわ。正解は正解だもの、教えて差し上げます。まず千夏さんと梓さん、何方の方の話を聞きたいかしら。」
そうですね、と椿が態とらしく視線を巡らせ、
「では時系列順に、まずは梓さんの方から。」
そう答えた。
「いいわ。なら其方から。……梓さんは今もこの学校に居らしてよ。」
瞠目する。
「……見つかっていないと、聞いておりましたが……」
「見つかっていないのは事実よ。でも居るのよ。」
くすくすくすと笑う。
「それからね、千夏さんが殺された日にね、私、聞いちゃったのよ。」
嗤う。
「千夏さん、ある子に呼び出されたのよ。あの日、あの油絵教室に。他の子達はそれを止めたのよ。結局聞かなかったみたいだけれどね。」
くすくすくす。
「随分怯えていたわよ。復讐に来たんだって言ったのは、お友達の……さて、誰だったかしらねぇ。」
三日月の隙間に昏くぽっかり空いた黒。
人の死を一通り笑った女怪は、逆さになって椿の顔を覗き込む。
「助け舟になったかしら?」
「えぇ、とても。」
そう、とても。
「また何か、別の誰かのお話とか、お聞きになりたかったらどうぞいらしてね。偶のお話し相手だもの、お相手するわ。」
椿は一歩下がって頭を垂れた。
「ありがとうございます。それでは、僕はこれで」
踵を返した椿に、「あぁ、そうだ。」と花子さんが手を打った。
「図書室には早い目に。ウチの司書さん、あんまり気が長い方じゃないの。」
振り返った先、既に花子さんは姿を消していたが、それでももう一度頭を下げて、椿は女子トイレから退出した。




