五.新校舎四階~新校舎三階~女子手洗
「未回収、ねぇ。地縛霊化してたってならそう資料に書かれてそうだし、別の要因でも二人が見つかってさえいるならそう書かれてるだろ。でも?」
「資料には未回収、としか書かれてない。」
カラカラと一組後方の戸を開けて曲が廊下へと出て、その後に椿が出て後ろ手で戸を閉めた。
「つまり、二人とも行方不明、と。捜索はされてるの?」
曲が次の二組の戸を開く。
「うん。ただ、僕達に案件が回ってくるまでの間、この学校、この街、範囲を広げて周辺の街を調べてもダメだったみたい。それらしきを見たモノは誰一人、何一つ、だって。」
「うへぇ、手掛かり零じゃん。……でも、ンて事は考えられる可能性は一気に絞られる訳だ。一つ、話の通り怪異化して、そもそも回収対象から外れてしまった。」
曲が椅子を引いて机の中を覗き込む。
「二つ、何かしらの妖怪異が事件当時に居て二人の魂を持ち去った。」
曲の言葉を聞きつつ、椿が教室後方のロッカーを流し見ていく。
「三つ、アレにやられた。」
ガタン、と最後の机に椅子を戻して曲が腰を反らす。
「椿的には?どれが可能性が高いと思う?」
再び後方の戸を開きつつ問えば、椿は口元に指先を当て、目線を泳がせる。
「僕としては、どれも等しく可能性があると思う。場合によっては全部が掛け合わさっているのかもしれないし、予期しない別の理由なのかもしれない。」
「予期しない?」
「うん。予期しない。だから兎に角」
片手で戸を閉め、もう片手の親指で次の教室を指す。
「地道に調査だよ、曲。」
「うひゃ~。早めに来て大正解案件~。」
ケラケラと笑ってはいるが、曲の肩からは羽織も肩紐も落ちてしまっていた。
それから椿達は一年の教室を一通り調べ、三階へと降りた。
その間にちょくちょくと窓から外を覗いては、階下の状況を確認していた。現在は駐車場からはすっかりと車が捌け、残す所おそらく見回り担当者の一台のみとなっている。
「教員ズももうほぼみんなご帰宅だねぇ。」
「でもまだ居るからね。鉢合わせだけは気を付けて続けようか。」
「ういうい。」
同じ窓から下を覗き込んでいた二人は、次の教室へと目を向けた。
「んで、ここが当のC達の学年の階、と。」
「うん。組の分け方と位置は一年生と同じ。目の前の此処は国際科の教室だね。六組。隣から普通科で、五組が共犯者F、更に向こう四組がDとG、三組にE、そしてCは二組、一番端の一組がAの教室だよ。」
一つずつに目を配っていく。
「んー、じゃあ取り敢えず六組から?」
目の上に手で笠を作った曲が言う。
「そうだね。できれば、何か手掛かりがあって欲しいところだけれど、」
現実そう簡単ではない。椿は三十分程度前の自身の発言を悔やんだ。
「何の手掛かりも無し、かぁ。」
「いっやぁ、ここまで来ると、なんか見落としてんじゃねぇかって思えてくるよねー。」
しゃがみ込んで項垂れる椿の隣で、同じくしゃがみ込んで頬杖をつき、椿を覗き込む曲が苦笑する。
「全員荷物は片付けられ済み。ロッカーは空。机も空。警察が持って行ったのか、はたまた学校が回収したのか……」
「どっちにしろ、無い物は無いねぇ。」
はぁ、と二人揃って溜め息を吐く。
「二階もやる?」
「一旦保留で……。先に旧校舎行く。」
「ちょっと休む?」
「いや、」
気合を入れる様に膝を打って立ち上がる。
ひらり裾が翻る。
「地道にって言ったのは、僕だから」
「……分かった。」
見上げた曲も、目を弓形に細めて立ち上がる。
「じゃ、旧校舎行こうか。」
また、椿の視界の隅で、ひらりと裾が翻る。
その先は、
「ごめん、その前に、お呼び出しみたい。」
椿は曲を手で制し、そのまますぐ傍の女子手洗へと立ち入った。
それから一つ目、二つ目、
「この学校の花子さんは、旧校舎の方が住まいと聞いていたのですが。」
「あらやだ。紳士が淑女の花園に鉄砲を向けに来たわ。品の無い方。」
「御無礼をば。しかし、先に花を差し向けたのはそちらでしょう?トイレの花子さん。」
三つ目の戸を開けば、蓋の閉まった座面に腰を下ろしたS高の古い、古い制服姿の美しいおかっぱ少女が一人、ニコニコと椿を見上げていた。
「こんばんは、何か我々にご用向きでも?」
「御用があるのは其方でしょう。それで?お探しなのは千夏さん、それとも梓さんの方かしら。」




