三.S高旧校舎四階〜渡り廊下
「で、どっちがこの学校の主な訳?」
そう訊ねた曲に、椿は「墨壺の付喪神」と返した。
「この学校……、今の図書室を建てた際に使われていた墨壺だそうだよ。その時にはもう付喪神として登録されているから、相当にお歳を召してるよ。」
階段を降りつつ資料を捲って見ているのは、この学校の妖怪異の一覧だ。その先頭には先程の墨壺の事が書かれている。
「わぁおホントに爺さん。もしかして俺らより年上だったりして?」
「そうかもね。」
中三階渡り廊下の戸を曲が開ける。
温い風が抜けた。
「図書室ってアレ?」
「アレ。」
曲が右を見れば、その視線を追って椿が肯定する。
そこには四方を校舎と渡り廊下に囲まれた木造三階建ての明らかに古い建物。渡り廊下を歩いて近寄ってみるも、不気味というより、灯りの落ちた何処ぞの家の様な、そんな誰かが居る場所特有の温かさを持っていた。
「で、こっちが件の専科棟。」
「そう。」
そのまま左へ視線を滑らせれば、二階建て、丁度椿達からは屋根の上が見えている此方は新しめの建物。
図書室の建物とは打って変わって無機質で冷ややか、無味簡素。今の時期でもって冷気を漂わせる様な、無意識を逆撫でされる感覚がして曲の腕に鳥肌が立った。
「うっえー。俺これ嫌いかもぉ。椿見てー、鳥肌ー。」
羽織を捲って椿に腕を差し出せば、べチンと叩かれる。痛みに肩が跳ねた。
「鳥肌ってしっぺで落ち着くらしいよ。」
「それ何処の都市伝説ぅ?結構いたぁい……」
椿の指の跡が赤くついた腕を摩り、ヨヨヨと鳴いて仕舞う。
そんな曲を放って先へ行こうと一歩踏み出した時、図書室の向こう、反対の渡り廊下の中を抜ける影。
影のスカートが翻る。
足が止まった。
「椿?」
「……生徒が居る。」
「最終下校時間過ぎてんのに?悪い子だねぇ。」
「いや……、」
暫し黙考。
「アレは違うな。」
駆けだす。
曲がその一歩先を翔け、渡り廊下先の戸を開く。
そこへ飛び込み、四階を無視して三階へ飛び、校舎反対へ抜ける。
抜けた先の階段を更に半階降り、先程見た渡り廊下の中に視線を巡らせるが、
「……居ない。」
「向こうの二階か三階にでももう入ったんじゃねぇの?」
「…あるいは一階、四階……。」
耳を澄ます。しかし、
「……逃がした。」
眉根を寄せた椿の肩を叩く。
「時間はあるんだし、ゆっくりやろうや。周ってる内に会うかもよ。」
「……うん。」
もう一度肩を叩いて曲は踵を返した。
椿はじぃ、と渡り廊下の先の暗がりを見つめてから、曲の後を追った。




