二十四.一旦お別れ
「……いいえ、大丈夫です。大体、分かりました。」
暫し考え込んでいた椿が口を開いた。
「あとは此方で調べますので、」
ガタンと、階段の方から音がした。
言葉が途切れた。
それからギシ、ギシと恐る恐る降りてくる足音。
「……すみません、盗み聞き、なんかして……」
顔を出したのは梓だった。
椿の羽織を手に、俯きがちに椿達の前は歩み出た。
「いいえ、大丈夫です。寧ろ起こしてしまってすみません。」
「いえ、あの……、私……」
「松永さんの事、」
梓の肩が跳ね上がった。
「尋かなかったのは此方です。ですから、気に病まれる事はありませんよ。」
梓の手から、ありがとうございますと羽織を受け取る。
「それでももし、気にされるのであれば、一つ質問に答えて頂けますか?」
梓が顔を上げた。
「千夏さんは、どんな絵を描かれる方ですか?貴女と同じ油絵?それとも水彩画ですか?」
「……水彩、です。千夏は高校入ってから、油絵描いてない筈です。」
「なるほど、ありがとうございます。」
椿が微笑んだ。
「さて、では本日はそろそろお暇致します。梓さんもお疲れでしょうし、ね。」
「……」
「分かりました。……また後日来られますか?」
「はい。明日また伺います。今日と同じくらいの時間になると思いますので、その際は図書室開けて頂けますと助かります。」
椿と隙間の司書が話を進める中、再び俯いてしまった梓の傍に曲が寄る。
「ねーねー、つかぬ事を聞くんだけどさ、松永君って、梓ちゃんの彼氏?」
「……違います……」
「ほーん、じゃあ千夏ちゃんの?」
「……違うと、思います……」
言葉尻が小さくなった。
自信は無い、か。と思いつつ「ふーん」と適当な返事を溢す。
「じゃあさ、松永君の事、好きだった?」
梓が曲を見上げた。
その勢いに若干驚いた様子の曲だったが、次第にニヤァと顔が歪んだ。
「へぇ〜、そっかぁ、そっかぁ。へぇ〜?」
「なっ、そ、あな、た……っ、〜〜〜曲さんっ!!」
「えー?ちょっとちょっと照れちゃってるぅ?いいねぇ、いいねぇ、青春だねぇ。」
ケラケラと笑いながら、曲は怪訝そうな顔で二人を見ていた椿の方へと行ってしまった。
残された梓は、照れ臭さやら何やらで、頬を膨らませて身体を震わせていた。
「……曲、もう帰るからって梓さん揶揄うなよ……。」
「いやぁ、ごめんごめん。揶揄い甲斐のある子って楽しいよねぇ。」
喉奥で笑いつつ、玄関扉に手を掛ける曲に、椿が呆れた目を向ける。
「では、司書さん、明日はまた八時頃に。梓さんも、また。」
「あ、はい!お疲れ様でした!」
「お疲れ様です。また明日、お待ちしております。」
「んじゃぁ、またね、お二人さん。」
慌てて頭を下げた梓と、軽く会釈をするに留めた隙間の司書に見送られ、二人は図書室を後にした。
「じゃあ、後は体育館と美術室?」
「だね。でもあと、もう一箇所、行きたい所が出来た。」
「行きたい所?」
図書室の玄関を閉めた曲が駆け寄りつつ聞き返す。
「うん。旧校舎三階端の女子トイレ。……花子さんにもう一度、会っておきたい。」




