二十三.松永 芭蕉
「当該の刊は此方になります。」
二人が一階へ着き、物音がする方へと移動して来た時には、隙間の司書の手には先程上がった作品集と、新聞らしき物が二刊、それから地域誌が一冊あった。
それを受け取り、近くの貸し出しカウンターに広げた。
探すのは、東雲 梓の名前だ。
「……あった、これだ。」
作品集を捲る中、堂々と一頁を使われた作品に、梓の名前があった。
そして、
「間違いないね。」
「うん、あの絵と同じ、男生徒だ。」
姿形が、あののっぺらぼうの肖像画と一致した。
描かれていたのは柔和な青年だった。
真面目な顔をすれば凛々しく、ともすれば少々怖がられそうな程度に力のある目鼻立ちだが、描かれている表情は柔らかく和やかに、優しく笑っている姿だった。
構図は肖像画にしては少々不思議で、窓越しの様な、硝子一枚隔てた様な演出がされていたが、おそらくは、梓が普段見ていた図書室からの彼なのだろう事は、隙間の司書の話から推測出来た。
一応と他の物も確認していくが、どれも同じ作品であった。
「油絵って、こんなに緻密に描けるもんなんだ。もっとこう、抽象的でザックリ描かれてる感じかと思ったわ。」
「確かにね。」
冊子を閉じる。
「……司書さん、話は変わりますが、千夏さん達の方については、どの程度ご存じですか?知っている事があれば其方も、是非にお伺いしたいです。」
冊子を揃えつつ尋ねれば、嫌そうに顔を顰められた。
差し出された手に、全て返す。
「……梓さん達とは打って変わって、嫌な意味でよく知っている人達ですね。出禁になった件も、私が関わっておりますよ。」
「えっ!司書さんやっちゃった感じ?ダメだよ妖怪異がそのまんま人に接触しちゃ、せめて人に化けてからじゃないと……」
曲が茶化す様に注意する。
隙間の司書も、自身のやらかしについては反省しているのか渋面を作っているが、それでももにょもにょと言い訳を溢す。
「私、元が人に近いせいか、人に化けられないんですよ……。」
「あ、分かる。僕もそう。司書さんも隙間に居る以外は人ですもんね。ほぼ人の形なのに改めて人に化けるって、逆に難しいですよねぇ……。」
椿が隙間の司書の言い訳に同意する。
同調する椿と隙間の司書の一方、曲だけが「分からん」と一人首を傾げた。
「ま、そこら辺はいいや。俺らの管轄じゃ無いし、聞かなかったって事で。ンで、肝心な千夏さん達の話なんですケド、結局何やらかしたんで?在校生が図書室出禁て、相当でしょ。」
曲の言う通りだ。在校生ならば図書室で資料を借りる様な授業もままあるだろう。
もし、隙間の司書が関わった事が出禁の理由だとしても、隙間の司書の方に非があれば、千夏達どころか全員立ち入り禁止、或いは学校側がお祓いでも呼んで形だけでも大丈夫な体を整えるだろう筈。
つまり、千夏達は相当な事をやらかしている事は想像に難く無いのであるが、その『相当』が予想も付かなかった。
隙間から溜め息がまろび出た。
「事は今年の初めに起こりました。千夏さん達が、松永さんに暴力を奮ったんです。」
暴力の詳細は伏せます。それで察していただければと思います。
あの時、私が見つけた時にはもう、松永さんは引き倒されて、それを千夏さん達が押さえ付けている所でした。
抵抗はされていました。しかし、相手が女の子だからか、それとも抑えられている場所が悪かったのか、彼女達を退けるのに、苦戦している様子でした。
ですから咄嗟に、手を出してしまったんです。
最初に千夏さんを松永さんの上から突き飛ばして、それから取り巻きの人達も、掴み飛ばして。
場は当然騒然としました。
騒ぎを聞きつけた司書がすぐに飛んで来て、目が合いました。
それからすぐ、腕を引っ込めはしましたが、司書は確かに、私を見ました。見られてしまった。
しかし、元から千夏さん達が図書室で問題行動を繰り返していた事もあってか、私の事は伏せられ、彼女達だけが、図書室出禁という形で罰を課されました。
そして、松永さんも。
「……本来、当校の留学は二年時の二学期からとなります。向こうの新学期に合わせる為にその様になっていましたが、松永さんの場合、その様な事もあり、予定が半年繰り上げられたんです。」
「……被害者だったのに?」
「被害者だから、のつもりなんでしょう。それが良いか悪いかは結局、当事者に聞くしかありません。」
曲の疑問に淡々と答える。
「そうして三月、松永さんは英国へ立たれました。……私の知る、松永さんの話は此処までです。梓さんに関しては、その後も先程の席にて日々の日課を熟されてましたし、出禁になって尚、千夏さん達の素行が改善される事が無かった事も確かです。そうして今に至ります。……何かご質問、ありますでしょうか?」




