二十二.彼彼女について
梓さんと松永さんは、随分と仲の良いお二人でした。旧知の仲、だったのかもしれません。少なくとも、私が二人を意識する様になった時には、もう二人は随分と気心知れたやり取りをしていましたから。
松永さんも、図書室をよく利用される方でした。彼の場合は外国書籍や、国外新聞、外国語辞書などをよく借りられて。でも、本質的には梓さんと同じ、自分の今居る場所で、直向きに頑張ってるとよく分かる、そんな子でした。
ただ、お昼間に此処で二人がやり取りをする事はあまり無く、基本的に、彼は昼休みの時はあのテラスの方で、別の級友方と過ごし、梓さんはそれを此処でスケッチしている事が常でした。
そんな二人がそれでも、昼休みに時折此処に居合わせれば、決まって小さく喋りながら、梓さんが彼をスケッチしていました。
丁度、そう、椿さんが座られている席です。
そこに松永さんが座っていたんです。
それを繰り返し、繰り返し、繰り返して去年の末頃、一枚の絵が賞を獲りました。
梓さんが描いた絵です。
描かれたのは松永さんの肖像画でした。
「!椿、今の話は?」
「いや、資料に無かった。僕も初耳。」
去年の話だからか?と眉を顰める。
しかし、かなり重要な話だ。間違い無く、今回の事件の原因の一つは其処にある。
「司書さん、ちなみにその絵って今何処にあるか知ってます?俺達一通り校内見て来たけど、どれがそれです?」
曲達は当の松永 芭蕉の顔は知らない。
校内を回る中、各所に飾られた絵は見て来たし、その中に肖像画、人物画は何点かあった。
しかし、頭の中を占めるのは箱小屋で見つけたあの絵の方だ。
あれは梓が描いたものでは無いだろうが、描かれていた人物は、間違い無く松永 芭蕉である確信があった。そして、その絵と同じ姿の絵は、曲達が見て来た中には無かった。
つまり、残るはまだ回っていない教室か、あるいはそもそも、
「……元々は新校舎二階の、ホールに飾られていました。しかし、一月前の梓さん失踪後、学校の判断で、梓さんの作品は校内から取り下げられ、全て、梓さんが使っていた油絵教室に、持ち込まれました。ですがその更に後、当の油絵教室で金崎 千夏が殺された際、作品が彼女の血で汚れていた様で、警察が押収したと聞いています。ですので現状、この学校には無いかと。」
「曲、油絵教室に人物画あった?」
「一通り画布見たけど、それっぽいのは無かったよ。」
当たりだ。
「司書さん、その絵、どうにか観られる方法ってありますか?」
暫しの沈黙。
「当該の賞の作品集、それから確か、市と校内の新聞、あとは地域広報に写真が載っていたかと。閲覧されますか?」
「宜しければ。」
椿が頷く。
「でしたら当該書籍は全て一階にあります。ご案内致します。」
「お願いします。」
カーテンを閉め、椿達が立ち上がる。
「では、此方へ。」
腕を引っ込めた司書の気配が再び動き出す。
椿達もそれを追って、次は一階へと降りて行った。




