二.S高旧校舎四階
「さて、と。そんでどう回るよ。多分一階はまだ教師連中残ってるだろうし、見回りも避けながらになるんじゃねぇの?素直に四階から一階までぐーるぐるって訳にはいかないだろ。」
屋上からの階段を降り、椿と曲が最初に着いたのはS高旧校舎四階、その廊下。
「まぁそうだね。しかもこの学校、作りがかなり特殊だよ。階や教室によって通れる所、通れない所、行き方が不格好なところがある。」
「ほぉん、例えば?」
「曲、灯り。」
「ほいさ。」
指にひっかけていた筆箱電灯で椿の手元を照らす。
椿が持っているのはS高の校内地図だが、一目でその不格好さが曲にも分かった。
「これ、旧校舎の一階と三階の真ん中に壁があンのか。これじゃ新校舎回るか、別の階からじゃねぇと反対側行けねぇな。」
「うん。ついでに言うならここの視聴覚室と、」
椿が左を指差す。
「一つ下の、中三階の渡り廊下、反対中二階の渡り廊下は外に出るからか、開放時間に制限が掛かってるね。普段からずっと開いてるって訳じゃないのは不便そうだ。」
「それ、俺が居るのに関係ある?」
「関係ある、かもね。まぁ無きゃ無いでいいんだよ。」
椿が地図の校舎を指で四角くなぞる。
「旧校舎、渡り廊下、新校舎で四角く囲われてるこの真ん中が図書室。三階建てで旧校舎より更に古い校舎を残して使ってるんだって。」
トントンと図書室を指先で叩き、渡り廊下を飛んで反対の建物をトンと叩く。
「で、こっちが今回の事件が発生した油絵教室含む専科棟。どっちも一度校舎を出ないと入れない構造になってる。」
「ホントに面倒くせぇ構造だな。」
そして最後に現在二人が居る位置を指す。
「ちなみに現在位置はここ。旧校舎四階端。右手奥から、社会科室、社会科準備室。正面は手洗。」
「花子さんは?」
「左向こう三階。左手側手前から視聴覚準備室、視聴覚室。視聴覚室を突っ切った先はもう一つ視聴覚準備室、手洗があって、美術準備室、美術室になってる。」
「視聴覚室は突っ切れるから反対側は後でもいいな。……向こうって屋上に出る階段ある?」
「ある。だから曲の言う通り後でも、あるいは最後でもいいと思う。」
「なら社会科室から行こう。その次は渡り廊下から新校舎四階、反対側回って向こうの渡り廊下から旧校舎三階って感じで回ってみっか。」
「そうだね。お陰様で今日は時間あるしね、のんびり行こう。」
「えー、ごめんてぇ……」
書類を仕舞ってさっさと歩き出す椿に、肩を落とした曲がりが一歩遅れて付き添った。
まずは旧校舎四階端、社会科室。
曲がガランと戸を開く。
「んー……、まずはぐるっと一周?」
「そうだね。」
二手に分かれる。
そうは言ってもそこまで広い教室では無い。むしろ通常の教室の印象よりもこじんまりとして見えた。
机は横に四列、奥に五列の二十席程度。教室入って手前と奥の壁には黒板。左右と奥の壁には棚が置かれ、手前の壁側は教卓がある。
入ってそのまま、右へと進んだ椿の視線の先には準備室に入る扉がある。
ひょいと扉の窓を覗けば、準備室の中が見えた。
そのまま壁に沿って左へ。棚の上には地球儀や書籍が同種幾何ずる並べられていた。中の方には古めかしい道具類が同じ様に同種別に収められている。が、目ぼしい物は特に無し。至って普通の特別教室と言った風だ。
グルッと一周した椿がふっと息を溢すと、机の中を覗き込んでいた曲が寄って来た。
「椿、なんかあった?」
「いや、特には。曲は?」
「こっちも特になーし。忘れ物一つないよ。ここはみんなしっかりしてンだね。」
その言葉に椿は僅か首肯した。
「準備室行こう。」
「あいささ。開けるよ。」
「頼んだ。」
曲が椿の横を抜けて準備室の戸を開く。
「おや、お客さんじゃないか。こんばんは。」
唐突な声に一瞬曲がりと椿の挙動が止まった。
「安心しなさい、人じゃあないよ。君達同様ね。」
声はするが、姿が見えない。
天井から順に視線を走らせれば、「ここだよ」と机の上に置かれた道具がカタリと揺れた。
「……墨壺。付喪神?」
「正解。そういう君達は妖怪かい?それとも怪異?」
カタリ、カタリと揺れるそれに二人が近付く。
「怪異だよ。俺は曲、こっちは椿だ。よろしく、墨壺のじいちゃん。」
曲の紹介に椿がペコリと頭を下げた。
「ほほ、ご丁寧にありがとう。して、この学校に何用かな?」
「調査だよ。妖怪異が関わってるかもしれない事件がこの学校で起きたもんで、俺達が調査しに来たんだ。じいちゃん何か知ってる?」
しゃがんで墨壺の位置まで目線を下げた曲が問えば「はてなぁ」と墨壺が動きを止める。
「生憎と儂はずっと此処に居るでな。ここで起きた事以外は知らんなぁ。」
「……そうですか、ではこの学校の妖怪異についてなどは何かご存知ですか?噂でも何でも構いませんので。」
「うーん、それも生憎となぁ……。」
「なんだよ、使えねぇ爺さんだな。アダッ」
「あぁ、だがこの学校の事を聞くなら図書室へ行くといい。隙間の司書なら色々しっているだろうて。」
「隙間の司書?」
曲の頭を殴った拳もそのままに問う。
「この学校の七不思議の一話じゃよ。あの子ならこの学校の本のある場所何処にでも出れるからのぅ。知ってる事も多いじゃろうて。」
「……なるほど。情報提供ありがとうございます。是非に声をかけさせていただきます。」
そう答えた椿を、殴られた頭を抱える腕の隙間から曲がジッと見つめる。
「では、我々はこれで一度失礼致します。ほら、曲次行くよ。」
「あいあい。じゃあまたね、じいちゃん。その司書さんにもよろしく言っといて~。」
扉の前で椿がもう一度頭を下げ、曲はひらと手を振ってから戸を開ける。
ピシャンと戸が閉まった後、ほほという笑い声と、パタリと一冊、本が倒れた。




