十七.S高敷地内焼却炉跡
S高焼却炉跡は旧校舎の裏へ出て、更にそこにある体育館を過ぎた先にある。
ほぼ敷地端の部室棟のすぐ横に、蓋の無い錆びた焼却炉が残っており、その傍らにはゴミ置き用の箱小屋が設置されていた。
「まぁずは焼却炉跡の方?ってってもほぼ物無しだね。」
跡と言われるだけあり焼却炉内には乱雑に放られた雑草の入ったゴミ袋数袋が曲の筆箱電灯に照らされただけで、あとは特段何も無い。
「この手のゴミはすぐ片されるだろうし、あんまり見ても意味無いかもね。そっちの箱小屋開けようか。」
カチカチと電灯の鈕で遊びながら言えば、そうだねと椿が数米後ろから答えた。
「……なんでそんな遠くに居るの?」
「曲が頑張ってくれるなら、見守ろっかなぁって。」
ニコニコと椿が答える。
「えー、頑張るけどもうちょっと近く来ないー?なんか寂しいなー?」
「やだー。僕が近く行ったら、」
スッと真顔になる。
「お前サボるだろ。」
「いきなり真顔はやめろよ怖いだろあとサボりません頑張りますんで近く来て。」
一息にお願いしますと九十度の礼をされて、しょうがないなぁと椿が距離を詰める。
「今回だけだよ。」
「アザァス。」
ノリ良くやり取りしつつ、曲が箱小屋の戸を開けた。
中は埃ぽく、少し煙たい。砂やら何やら色々混じった重い空気に呼吸の通りが悪くなる。
置かれていたのは主に段ボールや古紙類、それから画材らしい類に何処かしらが欠けた造形物などだ。それぞれ四隅に、木、紙、金属、その他の様に分けられて置かれており、入り口はどうにも狭く感じたが、中は入ってしまえばそれなりにスペースがあった。
ぐるっと全体を見回す。椿が入り口に鋏を引っ掛けてモタモタしているのがチラチラと目に入る。
ふと、木の部類の中に、木というより布、その他類に含まれるだろう四角いものを見つけた。
サイズからして画布の類だろうか。しかし、他の画布はそのまま曝して置かれているのに何故これだけ?と筆箱電灯は耳に掛け、包みを手に取ってみる。
思いの外重さがある。仕方無しに床に置いたまま包みを剥がそうとするが、
「カッ……ッテェな。剥がれねぇ。」
端を探さず適当に剥がそうとしたのが悪かったのだろう。ギチギチと鳴る包みは固く破ける気配が無いのに、グチャグチャに縒れて端は尚更見つからない。
このままだと中身を壊しそうだとまだガタガタやっている後ろの椿に声を掛ける。
「つぅばき、ゴメン鋏でこれ切ってぇ。」
「待ってぇ、僕今中に入れてもないからぁ。」
「いや、入る前に鋏下ろせって。なんでまだ背負ってんの。」
流石に振り返れば、「あぁ」と今気付いたのか目を丸くした椿がベルトを外し出した。
「……お前って、バカでは無いけどアホだよなぁ……。」
「お前はアホじゃないけどバカだよね。」
下ろした鋏だけ先に中へ入れて、曲へと柄の方を向けて片手で渡す。
それを両手で受け取った曲は、刃先のほんのちょっとで画板の端をちょきんと切った。
ほんのちょっとと言えども、椿の身の丈はある鋏だ。中まで切れてないとイイけど、と鋏は適当な場所へ立てかけて曲は包みを破り出す。
「何が入ってた?」
「……男の……絵?」
漸く入ってきた椿に、包みの中が見える様に掲げるが、曲自身も確証は無かった。
その絵は明るい色彩の水彩画だった。描かれているのはS高の男生徒の制服を着た、短髪の人物。
それだけ見れば、凡そ男だろうと思う所だが、その絵にはそれを断定出来ない要素があった。
「顔……無いね……。」
「うん。のっぺらぼうの、肖像画だ。」
健康的に焼けた肌の色で塗り潰された顔。僅かな陰影がある分、それは紛れも無く、のっぺらぼうの肖像画だった。




