十五.与太話記事
「で、椿は頭纏まったの?」
顔を上げ様椿へ問えば、「まぁ、」と少し歯切れの悪い返答。
「でも、その前にもう一つ、僕達から貴女方へ共有しないといけない情報があります。」
「え?なんかあった……あぁ、あの与太話記事か!そういやまだ話してなかったネ。」
一瞬首を傾げかけた曲がすぐに思い当たったのか跳ね起きた。
「与太話記事?」
代わりに梓が首を傾げた。
「そう、与太話。千夏さんの事件後に書かれたものです。時系列的には梓さんが怪異として目覚めた日より前、そして、貴女方の言うすず先生が逮捕された後に書かれた邪説です。……下世話なものだから無いかもですが、ダメ元で司書さん、週刊心霊・オカルトマガジンっていう著書は置いていますか?」
椿の問いに、隙間の司書は「あるにはありますが、」と前置いた。
「先週からの分は取り扱っておりません。……話からして今回の事件の事が書かれていたのでしょう。生徒の目に触れない様に、おそらくは、取り寄せのリストから外したのだと。」
「なるほど、雑誌の方が読み易いかと思ったのですが、それなら仕方無いですね。じゃあ、此方の資料どうぞ。」
机に広げていた資料の中から一枚紙を抜き取って、梓へと手渡す。隙間の司書も合わせてその紙を覗き込む。
「『のっぺらぼう殺人事件』。S市S高女生徒殺害事件は、国家機密隠ぺいの為か……。盛るとかそういう次元の話じゃないですね。なんです?この……陰謀論ともつかないトンデモは……」
資料に印刷されていた記事の見出しを読み上げて、微妙そうな声音になった梓に、隙間の司書と椿も釣られて微妙な表情になる。
記事の見出し自体は初めて聞いた曲に関しては、噴き出したきり、ゲラゲラと笑って机を叩いている。
「っちょ、椿からざっくり話は聞いてたけどっ、マジで下世話ぁっ!中身が無い邪説だろって思ってたけど、予想の斜め上すぎぃ!なんだよ国家機密隠ぺいって!やば、お腹痛……っ!」
笑いに笑う曲を無視して、梓と隙間の司書は嫌々記事を読み進めた。
内容はざっくりと、椿が教えてくれた事件の通りだ。
千夏だろうCという女生徒が殺された事、そして犯人として女教師が逮捕された事。
同時に梓自身だろうAという女生徒が事件の更に前に殺されていた事が発覚した事。
発覚したのは、女教師と共に居た、D、E、F、Gという四人の女生徒達の自首が切っ掛けだった事。
自分は本当にバラバラにされて、頭はまだ見つかっていない事。
そして、
「共犯者達が聞いた足音、女教師が見たという人影こそ、事件の真犯人であり、その犯人は顔を奪われのっぺらぼうとなったA。しかし、妖怪と言う機密を隠ぺいする為に、警察は見てしまった女教師を逮捕したのではないか……。なんで頭が見つかってないのに、頭は在るけど顔だけ無いのっぺらぼうなんです?頭の無い妖怪っていないんですか?」
「いや、居るよ?抜け首とかね。海外だとデュラハンなんかもそうだね。でもまぁ、そこは筆者の教養ってヤツでしょ。有名所しか知らなかったんじゃぁないの?」
「ホントにそうなら、オカルト誌の編集者にも向かないですね。」
復活した曲が貶しを込めた注釈をし、それに乗って隙間の司書も毒を吐き捨てた。
散々な言われ様だと椿も感じたが、しかし実際、そこまで言われても仕方無い程度には下世話で無駄に壮大だ。然もありなんと梓の手から資料を抜き取った。
「貴女からしたらイヤでしょうけど、この記事が貴女がそうなった原因とも現状考えられます。実際、噂話やこういう記事で生まれた怪異も世の中多く存在する。まぁ、ホント、貴女からしたらイヤでしょうけれど。」
先程、曲から枯れ尾花そのものと言われた時も怖気を感じたが、それとはまた別種の怖気が全身に走った。学校のお知らせで出回る様な変質者に遭遇した気分だ。
「なんか、霊感ある人が『生きてる人間の方が怖い』ってよく言う理由が、分かっちゃった気がします……。」
「不快な思いさせてごめんね。でも後で知るよりまだマシだと思って許してくれると嬉しいな……。」
「大丈夫です。椿さん達のせいじゃないですし。」
「ありがとう。そう言ってくれると助かります……。」
まだクツクツ笑っている曲以外全員が微妙な空気になる。
しかし、そんな事で時間を潰してもいられない。
椿は羽織に手を入れ、裏衣嚢から懐中時計を取り出す。時刻は間も無く、午後の九時だ。まだまだ時間が有る様にも感じるが、調べていない場所の数と、まだ彼女達と話したい事を考えれば少ないかもしれない。
「まぁ、ちょっと嫌な思いさせちゃったしね。一旦話は此処で切ろうか。」
曲が椿の切り出しに反応して、窓際へと移動する。
「梓さんはこのまま司書さんと此処に居てください。僕達はまだ、調べ切れていない敷地を調べに行かないといけませんので……。」
それを目で追っていた梓が「えっ」と声を上げた。当の椿は、トントンと角を揃えた資料を懐に仕舞い込んでいる。
「椿さん、でも、外にはアレが居るんですよ?さっき、倒し方分からないって言ってたじゃないですか。それなのに此処を出て行って、大丈夫なんですか?」
「ま、大丈夫だと思うよ。倒し方は分かんないだけで、回避出来ないって訳じゃないしね。」
カーテンを僅かに開いて外を見た曲が、梓の心配に答える。
曲に視線が集まる。
「曲、どう?」
「居なくなってるよ。消えたのか、校内に戻ったのか、それとも隠れてるのかは分かんないけど。」
傍に来た椿にも外の様子を見せれば、確かに外にあの頭部の群れは居なかった。
この分なら捜索に出れるだろうと頷く。
「椿さん……」
不安そうな梓の声が椿の背に投げかけられる。
それに微笑んで、一度梓の元へ戻って膝を着いた。
「大丈夫です。調べ終わったら戻ってきますから。司書さんと此処で待っていてください。彼女ならきっと、貴女をちゃんと、護ってくれますから。」
視線を投げかければ、しっかりと隙間の司書が頷いた。
「僕達の事は大丈夫です。曲の言う通り、またアレらが現れても、回避する為の術を持っていますから。貴女は此処で、そうですね、司書さんと色々お話でもされててください。妖怪異の事とか色々。これから先、貴女に必要な事を、彼女もよく知っていると思いますから。……司書さん、お願いしますね。」
「分かりました。」
椿と司書のやり取りを見遣って、梓はおずおず頷いた。
「ちゃんと、戻って来てくださいね。」
「はい。戻ってきます。……それじゃあ、行ってきます。」
「お気を付けて。」
司書の言葉を背に、椿が曲の元へ戻る。
「梓ちゃん、俺にはぁ?」
「曲さんは別に大丈夫そうなので、大丈夫でしょ?」
「え、何それ俺だけ塩やぁん……」
「いいから行くよ、曲。」
えーん、と泣き真似する曲の背を叩いて、椿が窓の鍵を下ろした。
「じゃあ、僕達出たら、此処締めるのだけお願いします!」
「えーん、行ってきまぁす!」
二人が窓の外へ飛び出した後、窓は音も無く閉められた。
それを見つつ、一階へと着地した二人は、さて、と何方とも無く呟く。
「調査再開、第二部だね。まずは旧校舎三階?」
「いや、先に行くのは焼却炉跡だ。」
折角獲た情報だ。優先して見たかった。それに、
「現状の僕の考え、聞いてよ曲。」
「あいあい。幾らでも、何度でも。」
カランと曲が下駄を鳴らした。




