十二.事件の整理
机を隙間の司書の居る本棚に寄せ、残った三辺を左から梓、曲、椿の順で囲う。
机には椿が持っていた資料と、トイレの花子さんから得た追加の情報が書かれた付箋、それからだらしなく着かれた曲の肘。
梓と隙間の司書は、身を乗り出して資料を覗き込んでいる。
「じゃあまず始めに、客観的事実を時系列順に。」
まず、始まり。
第一の事件ではAこと東雲 梓が、Cこと金崎 千夏に殺された。
殺害方法は不明、凶器も不明。証拠は見つかっておらず、犯行そのものに関する証言も無し。
ただ、その後千夏が梓の死体をバラバラにする際、協力を仰いだ友人四人による「自分達が呼び出された時には既に、東雲 梓は死んでいた」と言う証言だけがこの事件に関する唯一の手がかりである。
梓をバラバラにするにあたり、使用されたのは学校技術科室の備品である鋸。—これについては既に確認が取られており、確かに東雲 梓のDNAが付着した鋸が一つ、備品の中に紛れ込まされていたそうだ。
そして、バラバラにされた梓の死体は、千夏達によってそれぞれ埋められた。
死体はそれぞれ、Dが胴体、Eが両腕、Fが右脚、Gが左脚、そして千夏が頭部を担当した。埋め場所についてはそれぞれがそれぞれの場所しか知らず、互いに何処に埋めたかを打ち明け合った事は無かったと言う。
そして全員が秘密を抱え沈黙した事により、東雲 梓は行方不明として、後日捜索願いが出される事となる。
第二の事件。
次の事件が発生したのは梓の事件から約半月後の事である。
金崎 千夏が殺害された。
犯行時間は夕暮れ時。通常であればまだ部活動が活発な時間帯である中で犯行は行われた。
油絵教室内中央で、備品のロープで首を括られ、吊るされていた。
身体からは血やそれ以外の体液が滴っていた。
直接的な死因は絞首による窒息死、しかし身体には複数の刺し傷が残っていたそうだ。
後ろにも、前にも。
凶器は二つ。一つは油絵の具用のパレットナイフ。もう一つは油絵教室隣の、彫刻室備品の彫刻刀だった。
犯行現場はその当時、混乱を極めたそうだ。
教室内は千夏の死体を見て上がった、D達の悲鳴を聞きつけた教員らによる混乱。教員らは千夏を早急に下ろし救命措置を取ったという。しかし、その時点で既に千夏は既に死亡しており、結果として教員達の行動は、現場を荒らす行為となってしまった。
教室の外も教員らと同様に、悲鳴を聞きつけた生徒による混乱が発生していた。
死体を見せない様に、また、到着した救急が通れる様に教員らが誘導するのも、かなり労を要した旨が証言の一つとして残っている。
千夏は発見から一時間後に死亡判定が下された。
そして同日、東雲 梓の事件もまた明るみに出る事となる。
切っ掛けは千夏発見時の出来事によるもの。
発見者であるD、E、F、G、そして当時行動を共にしていた女教師が、Cを発見した際に人影を見た事が切っ掛けだ。
—正確を期すならば、その人影を見たのは女教師のみであるが。
彼女達は戸の軋む音と、足音を聞いたのだそうだ。
戸の軋む音は油絵教室奥、彫刻室に繋がる扉の音。普段は使われる事の無いその戸が開いて軋む音。
足音は、その先から聞こえたのだと言う。
咄嗟に追ったのが女教師だった。
奥の戸から隣室を覗いた女教師はそこで人影を見た。しかし、「顔は見えなかった」と当時証言している。
そして、その人影を理由に金崎 千夏の事件当日中に、D達が出頭。そうして東雲 梓はCが担当した頭部以外が翌日までに発見されるに至り、更に五日後、金崎 千夏殺しの犯人として女教師が逮捕された。
証拠は金崎 千夏を吊るしていたロープ周りの機器、彼女を刺した凶器それぞれに残っていた女教師の指紋やDNA。
犯行動機は、彼女の教え子である東雲 梓殺害への復讐だったと話しているそうだ。
そうして事件は一先ず幕を閉じたとされている。
けれど謎は残っている。
一つ、東雲 梓の頭部は何処へ行ったのか。
事件後、今尚捜索されているにも関わらず、何故頭部のみこうも見つからないままなのか。一体金崎 千夏は何処に東雲 梓の頭部を隠したのか。
一つ、女教師が見た人影は誰だったのか。
事件当初、金崎 千夏殺しの最有力候補であった誰とも分からない人影は、結局誰であったのか。何故当人が表へ出て来ないのか。
一つ、女教師の行動の矛盾。
女教師は人影について証言をしながらも、その人影を盾にする様な事はしなかった。事件当時、態々追って、姿を「見た」とまで言ったにも関わらず、顔は「見えなかった」として追い詰めはせず、そも人影に関する証言は逮捕前の一度に留まり、以降は一度も話題に上げていない。
自分から捜査の目を逸らす絶好の機会でありながら、それを使わない。まるで誰かを庇う様な行動が矛盾として残っている。
そしてもう一つ。
「トイレの花子さんが言っていた、『金崎 千夏は殺された日、その当日に誰かに呼び出しをされていた。そして、その呼び出しをD達に話し、止められてもいた。』加えてその際、どうやら彼女達はこう言ったらしい。『復讐に来たんだ』と。この話において問題は二つ。」
椿が人差し指を立てる。
「一つ、誰が金崎 千夏を呼び出したのか。」
次いで中指を立てる。
「二つ、呼び出しの話を聞いたD達は、どうして『復讐』だという発想に至ったのか。」
手を机に戻す。
梓がそれを顔で追って、それから椿へ顔を戻した。
「僕達が知っている事はこんな所です。……次は梓さん、貴女の話を、聞かせて貰えますか?」




