十一.図書室二階-四
「妖怪異、調査部……。つまり、捜査一課的なアレですか?」
「だから警吏じゃないんだってば。」
席に戻りつつ、曲のツッコミが飛ぶ。
苦笑する椿は裁ち鋏を背負い直す。
「調査部に逮捕権は基本的に無いンです。それに警吏は基本的にその世の、その担当地区の事しか対応しない。この世やあの世で起こる事は、それぞれがそれぞれの界で抱える警察組織が対応します。この世だって、国や地域で警察組織はそれぞれでしょう?それと同じです。」
ベルトを締め終える。
「なるほど。じゃあ調査部はこの世とあの世と……その世?の事全部やるって事ですか?」
「そだね。基本的にそう。」
曲がガコガコと椅子を揺らし、椿は席に着く。
「噂に基本垣根無しだ。そういう手合いに世界の境界線なんて関係無い。だからどこで起きようが聞こえたならば調べに行く。そんなもんだよ。」
背凭れに顎を載せた曲に、「へぇ」と気の無い返しをする。
「でも、怪異にも噂なんてあるんですね。どっちかと言えば、噂捻じれて妖怪になるというか。あ、幽霊の正体見たり枯れ尾花!」
思い出したと手を打つ。
「まぁ、確かにそういう場合もあるけどな。でも枯れ尾花だったと思い込んでるだけで、実は幽霊が隠れてましたって場合もあるし、枯れ尾花が幽霊になる事もある。実際君が、その口だろうし。」
「え、私?」
自分を指差せば、「そうそう」と頷かれる。
「梓ちゃんが怪異に変異した理由も凡そ『噂』のせいだろうさ。噂捻じれて妖怪になる。正しく君の言う通りだよ。」
弓形に曲がった双眸と口。
「君は、君の知らない誰ぞの噂に、自分自身を捻じ曲げられて怪異に変わってしまった枯れ尾花、それそのものだよ。」
知らない無数の手が、自分の身体を掴んだ様な錯覚を覚えた。
ゾッと総毛立つ。感覚を消そうと腕を摩れば、まだ背にあった隙間の司書の手が同じ様に背を摩ってくれた。
「曲、まだ確定してない事を言って脅す様なしないの。」
コツンと曲の頭に椿の拳が落ちる。
「あいあい、ごめんなさいね。」
そう言いつつも反省はしていなさそうに笑う曲の代わりに、「ごめんね。」と椿の方が申し訳無さそうな顔をした。
「いえ、大丈夫、です。」
いまだベタリと何かに触れられている様な、そんな気持ち悪さが所々残るものの、さぶいぼの立っていた肌は落ち着いてきていた。
「とは言え、曲の言っている事も全く荒唐無稽という訳じゃありません。確定していないだけで、その可能性は十分あります。なので、ここからが本題です。まずは情報共有をしましょう。今分かっている事、分かっていない事、その整理から始めましょう。」




