ざまぁではない。ヒロインを立派に教育()します。
執筆できてなかったリハビリに。
構想10分、執筆5時間、推敲3時間。
ふわっと思いついたものなので、背景とか設定とかいろいろふわふわ。
おまけにほとんど気分で書いたので、書き方もめちゃくちゃと思う。
『新たに第一王子の王子妃候補となったものへの教育を命じる』
要約するとそんな内容の辞令を受け取ったのが、昨夜の話だ。
もともと自分は、第一王子の婚約者である公爵令嬢の王宮での知識教育を担当していた。
才気煥発な王子と、勤勉で優秀な公爵令嬢の組み合わせは、国家の未来の安泰を示す、と家臣一同、安堵していたものだ。
それが変わったのは、王子がとある男爵令嬢に惚れこんでしまったせいだ。
あざといほどのかわいらしさは褒められる。
逆に言うと、それ以外に褒めるところのない令嬢だった。
だが、王子にはその可愛げがたまらなかったらしい。
気が付いた時には、男爵令嬢を中心として、王子とその取り巻きによる集団が出来上がっていた。
発覚が遅れたのは、そうなるように、王子が手を回していたためだ。
良識ある者達が気づいた時には、王子は公爵令嬢へと婚約破棄を突き付け、件の男爵令嬢を婚約者として据えるように手回しを終えていた。
こんなところで才気を見せずとも、と後で知った者達が肩を落としたのは言うまでもない。
だが、何はともあれ、ことは起こってしまった。
名誉を傷つけられた、と公爵は怒り狂い、国王と王妃が止めようとしたが、時すでに遅し。
王子の手によって、公爵令嬢との婚約は破棄され、男爵令嬢との婚約は整ってしまっていた。
あとで流れを見てみれば、よくもまあこんな穴をつくようなやり方を、と感嘆してしまうような、見事なやり方だった。
とにもかくにも、結果として、王子の婚約者は入れ替わり、将来の王子妃の教育係であった自分は、一から、可愛げくらいしか褒められない令嬢の教育を任されたわけだ。
*****
「何・・・・・・?」
教育を命じられた翌日、自分は辞令を発した宰相の下を訪ねていた。
教育をするにあたり、一つ思い付きがあったからだ。
「愚考しますに、件の男爵令嬢は、通常のやり方では教育が追い付きません」
「ふむ・・・・・・」
「とはいえ、無理やり詰め込んだところで、当人が嫌がってしまえば、やはり教育は進みません」
「・・・・・・難儀なことであるな」
「そのため、まずは授業を受ける気にさせるところから始めようかと」
「何か、秘策があるのか?」
「あります」
言い切った。
言い切ったからこそ、宰相も興味を持ったようだ。
「ほう・・・・・・?」
こちらの顔を見て、眉の片方を上げた。
「そのために、用意したいものがあります。つきましては、その用意と、使用を許可していただきたく思います」
そして、計画書を差し出す。
「・・・・・・正気か?」
「もちろん」
勢いよくうなづいたものの、原案は生徒が言うことを聞かないストレスから酒を呷っていた時に、半ばヤケクソで思いついたものだ。
酔いが覚めてからは、イラっとした時にスカッとする妄想のネタにしていた。
正直、正気で思いついた、とは言えないが、そんなことはおくびにも出さない。
ただ、これを拒否されたならば、力不足を理由に辞退するつもりだった。
というか、そちらが本命だ。
「・・・・・・まあ、いいだろう。やってみたまえ」
「は」
マジかよ。許可出ちゃったよ。
*****
数か月後。
「いやあ、うまくいきましたねえ」
同僚となる教育係と卓を囲んで、茶をすする。
同僚たちの顔も、晴れやかである。
理由は単純だ。
一年足らずの時間で、男爵令嬢の教育が、一定の成果を見せたからだ。
十年以上の教育を受けてきた公爵令嬢には遠く及ばない、としても、王子の隣に並んで、王子がフォローできる程度にはなった。
あとは、この教育を続けていけば、やがては十分になるだろう。
「・・・・・・しかし、ねえ?」
同僚の一人、行儀作法の教育を担当した侯爵夫人が、こちらへと視線を送る。
「一体、どういうからくりでしたの?」
「と、おっしゃいますと?」
「わたくし、いまだに、かのかたが授業にきちんと出てくれるようになった理由がわからないんですの」
教育が始まった最初のころ、件の男爵令嬢は、授業をさぼりがちだった。
だが、時間が経つにつれ、授業へ参加するようになっていった。
「たしかニ」
語学教育を担当した伯爵が、面白がるような表情をして、頷いた。
常に多数の言語を操る彼は、母国語のイントネーションが少々独特だ。
が、むしろそのイントネーションがアクセントとなって、言葉は聞き取りやすい。
「サボリが、いつの間にカ、なくなっていましたネ。それどころか、日を追うごとニ、授業態度も真面目になっていきましタ」
ふうム、と伯爵は、顎に手を当て、うなった。
ただ、難しそうな唸りをしつつも、視線だけは、面白がる色が乗っている。
「貴方が、宰相閣下に要求したのは、授業を行う部屋を固定することと、授業を行う時間を固定すること、でしたわね?」
「ええ」
「でも、それだけで、なぜ?」
「うーん・・・・・・。まあ、ちょっとした思い付きではあったのですが」
ふ、と笑う。
「宰相閣下に要求したのは、部屋と時間、それから、人員の確保でして」
「人員?」
「ええ。暗部の手を少々・・・・・・」
ええ・・・・・・、と、夫人は引いていた。
暗部、というのは、その名の通り、裏の人員だ。
いる、ということはまことしやかにささやかれるも、誰がそうなのかははっきりしない。
ただ、王の命令で、国に不利益をもたらすものをこっそりと消したりするという。
しばらく、夫人は考え込んでいたが、はっとした。
「まさか、洗脳・・・・・・」
「いえいえ、そんな乱暴な手には頼りませんよ」
「では?」
「ただ、犬のしつけを、少々応用しまして」
「・・・・・・犬の、しつけ?」
首を傾げる夫人へと、頷いて見せる。
「ほら、咆えたらひっぱたいて、無駄吠えをなくす、とかあるでしょう?」
「そんな様子はありませんでしたガ・・・・・・?」
「そりゃあ、そんなわかりやすいことをやったら、なおさら嫌がられますので」
そのための、暗部の人員である。
「簡単に言ってしまえば、常に監視をしていただいて、授業をさぼったら、それとわからないように不幸な目に逢ってもらったのです」
例えば、さぼって飲んだ紅茶が妙に渋かったり。
例えば、庭に出たら、虫に集られたり。
例えば、部屋が臭かったり。
常にそう、というわけではない。
何回かに一回、そういうことがあるのだ。
ただ、手を変え品を変え、授業をさぼった日には、何かしら、不快な思いをしてもらうようにした。
そして、授業をきちんと受けた日には、食事に好物を出したり、侍女にきれいなドレスを出させてほめさせたり、と気分よく過ごせるようにしてもらった。
「要は、アメとムチ、というやつですね。不自然にならないようにするために、ずいぶんと苦労をしてもらったと思います」
ただ、そのかいもあって、
「本人に自覚がなくとも、授業を受ければ気分がよくなることがあり、授業をさぼれば気分が悪くなることがある。それが重なれば、自然と授業に出るようになる、というわけです」
「・・・・・・そんな、犬猫にやるような」
「十分でしょう? 畜生並に、本能に忠実な・・・・・・おっと」
つい、本音が漏れかけた。
「ともあれ、授業を受けていただいたおかげで、件の令嬢は必要最低限の教養は得られ、我々の首もつながったのですから、これでいいではありませんか」
「それだけかイ?」
「いえいえ、授業に使った教室の机といすには、眠気防止になる匂いがある素材を使用しました」
「なるほど?」
「それから、教室全体に、教師の声が心地よく聞こえる仕掛けもしましたし・・・・・・」
「そんなことまで」
「あと、寝室ですね」
「寝室まで?!」
件の令嬢は、教育を詰め込むため、王宮へと泊まり込んでいた。
当然、寝室は王宮の中にある。
「悪夢を見せるように、ですね」
「・・・・・・悪夢、とは?」
「勉強をさぼった結果、断頭台で首を落とされる、という夢ですね」
「・・・・・・・・・・・・」
同僚の教師たちが、ぽかん、とした顔をした。
そんな夢程度で、と思ったのだろう。
実際のところ、自分としても、これはいくつかあるいやがらせの一つに過ぎず、一番効果を期待していなかったものだ。
だが、最終的には、どうやらこの悪夢こそ、最大の効果を発揮したように思う。
この悪夢は、暗部に頼んだ、
暗示などを利用した、幻覚を見せる技術の応用であったらしい。
普段、健康な人間に試す機会はない、とかで、嬉々としてやってくれた。
「他にも、少々こまごまとしたものを、令嬢が生活する範囲内に多数仕込みました。どれも、教育をきちんと受けていれば問題なく、さぼれば少々ひどい目に遭う仕掛けですね」
そうして繰り返していくうちに、自然と努力する、というか、努力しないとまともに生活できない状態になる。
「・・・・・・なんだか、聞いていると犯罪に巻き込まれそうな仕掛けですわね」
ふう、と夫人がため息を吐いた。
手間暇をかけ、そういう環境を作ったのだ。
実際、このやり方は、応用すれば、誰でも思い通りに操れるかもしれない。
「ですが、納得しましたわ。かのご令嬢が、日が経つごとにやつれていたのは、そういう理由でしたのね」
「ははは。そんなのは、前半だけでしょう? 後半に行くにしたがって、肌艶は戻っていたではないですか」
「代わりに、どこカ、鬼気迫った様子でしたが、ネェ・・・・・・」
「宰相閣下からは、今回は緊急時ゆえ、と許しをいただいていました」
暗示を使った、洗脳に近いやり方は、国の中枢に入るものに使うには、少々危険であった、とは思う。
だが、このくらいやらないと、国の未来が危ない。
もし、教育が足りず、件の令嬢が何かしらをやらかしていれば、婚約を破棄された公爵令嬢の実家が、王家に対して物言いをつける恐れがあった。
それだけならまだしも、ことと次第によっては、内乱の危険、あるいは、他国との外交問題に発展する恐れすらあったのだ。
それを回避するためである。
「ぶっちゃけ、問題の渦中の人物の心身の健康など、些細な問題ですよ」
まだ若いのだ。
多少無茶したところで、必要最低限の教育を施して急場をしのげれば、以降の教育はペースを落としてもいい。
ちゃんと休ませれば、後遺症も残るまい。
「あとは、王子妃となる前に、何かしら、公務でしっかりと功績を挙げていただければ、十分でしょう」
すでに、そのための仕込みは済んでいますから、と茶をすする。
ふと顔を上げると、同僚たちが、呆れたような視線を向けていた。
「なんというか」
「なんでしょうか?」
「貴方、教育係、というより・・・・・・」
そこまで口にして、夫人は何かに気づいたように口をつぐんだ。
自分はそれに対し、にこり、と笑みを返すのであった。
「世はなべてこともなし。なあに、今回の騒動も、いつか未来の王国史に、美談として記されることでしょう」
身分の低い令嬢が、王子の心を射止め、ふさわしい立場に昇るために不断の努力を重ね、やがては賢妃、と呼ばれるようになる、という感じで。
その功績のすべてが、誰かがおぜん立てしたものだとしても、誰にも知られなければ問題はない。
「しかし、それにしても・・・・・・」
「何カ?」
「最近の令嬢は、昔殿下が厭われた公爵令嬢のふるまいに似てきているように感じるのですが」
「それはそうでしょウ。最上位の貴族夫人に求められる所作など、それほど違うわけもないでスし」
「それにしては、殿下は、彼女のことを遠ざけたりは致しませんわね?」
ちら、と夫人の目がこちらを射貫く。
それに対し、意味ありげに笑みを浮かべてうなづくと、夫人の頬が引きつった。
察したのだろう。
男爵令嬢に施した『教育』と同じようなものを、王子にも行ったことを。
「・・・・・・よく不敬と問われませんでしたわね」
「許可は頂いておりますので」
「まあ、陛下が?」
「あとは、公爵と公爵令嬢からもですね。教育の過程を記録してお見せしたところ、だいぶん留飲を下げられたのか、婚約破棄によって公爵家が受けた不利益への賠償も、ずいぶんと譲歩してくださったそうで」
「それは・・・・・・」
まあ、と夫人は口元に扇を広げる。
伯爵も、少々目元がひくついていた。
公爵としても、もしかしたらこういう教育を自分の令嬢が受けていたかもしれない、と思えば、そこから解放してくれたことを受け入れてもいい、と思ったのだろう。
そうなるように、宰相が説得したのかもしれないが。
なにはともあれ、
「八方丸く収まり、将来の王太子夫妻として、きちんと教育が成果を上げたのです。それを喜びましょう」
うまくいった満足感とともに、そっと、カップを掲げた。
これくらいなら、まださらっと書けそう、と書いてみた。
洗脳じゃないよ。教育()だよ、とはいえ、幼少期から『こう』なれっていう教育って、マイルドな洗脳になるよなあ、と思いつつ、それを短時間でやるなら、結構きつめになるはず、という考察。
本当は、魔法とか使いたかったけれど、書いてるうちにごちゃごちゃしてきたので、省略し、物理的な手段のみでの教育にしてみた。
ヒロインは、転生で乙女ゲームやらざまぁ系小説で悪役令嬢逆断罪とかの知識があったおかげで、むしろ悪夢が未来予知のように感じられて効果が出た、という設定。
とはいえ、こういう教育を受けたやつらは、臣下となる貴族からの支持が得られなさそうな気もするし、優秀な第二王子とかできたら、なんだかんだと理由をつけられて、さっさと消えそう。
というか、いくらなんでもこんな教育法の実践を許されるやつって何者だよ。
むしろ国家に対する、最大の危険分子なのでは・・・・・・?
なお、悪役令嬢にされた公爵令嬢は、この教育()の顛末を見てドン引きした挙句、これまでの自分が受けてきた教育と思想に疑問を得てしまい、混乱しているところを父親が連れてきた謎の貴公子に求婚されて、幸せになります。という雑な設定があるけれど、割愛。