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外伝のその2 テキサスからのあばれうま

「ひゃっはー!!」


 黒いライダースーツにフルフェイス型のヘルメットを被った女が、現金輸送車を襲撃していた。周りは草原でアスファルトの道路がスケッチに鉛筆で線を引いたように見えた。輸送車は左の前輪を破壊されており、黒い煙を上げていた。

 警備員はぼこぼこに殴られて、気絶して草わらの上で寝かされていた。手下が輸送車から離れた大岩の影に置いた。いざ爆破しても被害が及ばないようにするためだ。

 周りは赤毛のモヒカン女に、アイスホッケーのマスクを被った女などが20人ほどバイクに乗っており、映画の撮影と疑うほどだ。

 彼女らはテキサス・トレイル・レイダースという窃盗団だ。リーダーはヴァレンティナ・ベガといい、ヒスパニック系の子孫である。

 黒髪にギブソンタックで、細長い顔に垂れ目が特徴的だ。


「おいベガ!! もうすぐ警察が来るぞ、早く金を回収しろ!!」


 アングロ系の女性が叫んだ。引き締まったアスリート体型で、シュートカットのブロンドヘアに鋭い青い目、右頬に古い銃創の傷跡があった。黒い防弾レザースーツに肩パットをつけていた。愛車は重厚なハーレーだ。彼女の名前はリディア・ハントで、スティールというあだ名で呼ばれている。

 ベガと呼ばれた女性はセントールと呼ばれている。マスコミが勝手につけた名前だ。本人はその意味を理解していない。


「おまいら、持てるだけ銭を持ちだすんや!!」

「おー!!」


 ベガが指示すると手下たちが片手と一緒に歓声をあげた。そして暴れ馬を引き連れるカウボーイのように走り去ったのだった。


 ☆


 テキサスにある寂れた街にやってきた。かつては鉱山の採掘でにぎわっていたが、鉱石が取れなくなり、価値が下がったため、ゴーストタウン一歩手前となっていた。

 街中はひと昔の西部劇みたいな建物が並んでいる。人気がまったくなく、車すら通らない。

 ベガたちはある雑貨店に止まった。そして中に入る。


「おっ、元気にしとるか!!」


 ベガは乱暴に扉を開けた。ハントや他の手下たちも入ってきて、一気ににぎやかになった。カウンター席では丸坊主で50歳ほどの店主が新聞を読んでいた。この店は町の人間すら買い物に来ない。今はネットの時代だから日常品すら買いに行く必要がないのだ。


「ふん、嫌味かいな。銭をしこたま稼いでさぞかしご機嫌やろうな」


 店主は嫌味を言った。手下たちは缶詰などの食料や、日常生活品を片っ端から取っていき、レジに持っていく。


「んなもん、バイクの修理費でおけらになったわ。闇のやつらは銭ゲバで敵わんわ」

「せやから真っ当に働きや。まあわいみたいにゆったり死んでいくのもどうかと思うけどな」


 店主はレジ打ちをして、金を受け取った。彼女らは毎月キャッシュレスのない店で買い物をする。ひと月といえど店の品物をすべて持っていく彼女らを売るつもりはない。


 がちゃりと扉が開いた。ぼさぼさの茶髪で陰気臭い男だった。男は店内を見回し、缶詰や日常生活品を手に取っていく。それをレジに持っていき、清算すると持っていたバッグに入れて店を出た。


「なんやあの男。見たことあらへんな」

「あいつは蒐集家コレクターや。奇跡ミラクルを見つけるのが趣味らしいわ」

「なんやそれ。起きとるのに夢を見るなんて器用やな」


 ベガと手下たちはげらげら笑っていたが、ハントだけは真顔であった。

 

「せや、ここから北にあるゴーストタウンにいったらあかんで。奇跡とばったり出会うかもしれへん」


 清算が終わると、店主は黒電話の受話器を取った。業者に頼んで品物を注文するためだ。

 ベガは何言ってんだこいつという表情になった。すると手下の一人が入ってきた。豚のように太った赤毛のオールバックに丸いサングラスをかけている。


「たいへんや姐さん!! ポリどもがぎょうさんやってきよったで!!」

「なんやて!? 暇なポリ公どもがうちらを狩るつもりやな!! そうはイカのキャンタマや!! とんずらするで!!」


 ベガたちは急いでバイクにまたがると、一気に走り出した。店主はカウンター席から出ることなく、新聞を読み始めた。

 外からパトカーのサイレンの音が鳴り響いていたが、我関せずといったところだ。町の連中は誰も顔を出さない。もう自分以外どうでもいいのだ。


 ☆


 ベガたちは北の町に流れ着いた。警察は思った以上にしぶとく食らいついてきた。手下たちはバラバラに走行し、かく乱させようと目論んだ。ベガとハントの二人だけになった。

 周囲は真っ暗で月あかりすらない。この世にいるとは思えなかった。二人はバイクを止めて、空き家の一つに入ると、ハントはランプに火を灯した。部屋は思った以上に痛んでいた。人が住まなくなると家は腐っていくのかと思った。


「ふぅ、今日のポリ公はマムシみたいやったな。ほんままいるで」


 ベガはボロボロのソファーにシーツを敷くとどっしりと腰を下ろした。ハントは埃まみれのテーブルをティッシュでふき取ると、椅子に座って、バッグから缶詰とミネラルウォーターを取り出した。

 簡単な食事をとるためだ。


「まるで昔の私だな。お前さんを追いかけるのが生きがいだった」

「せやけどポリクビんなって、うちらの仲間入りや。人生何起こるかわからへんわ」

「クビじゃない。辞めたんだよ」


 ベガの言葉にハントは憤慨した。ハントは8年前はテキサスの刑事で、ギャング対策のエースだった。

 ベガたちを追い回していたが、まったく捕まらない。その内、警察の腐敗、上司の裏金絡みに絶望して辞職したそうだ。それを誘ったのがベガである。追い回された側だがその内親しみを覚えたらしい。現在はベガの参謀役になっていた。


「あなたってなんで窃盗に手を出したのよ」

「うちの家系はバイク系のサーカスやった。今じゃ誰もサーカスなんてみいへん。白人どもがサーカスは虐待やとケチつけるんよ。まったくまいったわ」

「まあ、無関係な人間ほど、無責任なことばかりぬかすからね。ビーストテイマーみたいに殺人に走らないだけましと言えるわ」


 ハントがしみじみといった。ビーストテイマーはロシア系の移民だ。動物を使った曲芸が人気だったが、過激な動物愛護団体によって潰されたのだ。法律では問題ないのだが、自分たちの意見を押し通すことで、周囲に偉大な人物と思わせるのが目的だった。SNSでサーカス関係者を晒し、罵詈雑言を並べ住所を暴露して攻撃させる。自分たちは正義だから何をしても許されると思い込んでいるのだ。

 ビーストテイマーはそんな彼らに復讐するため、動物を操るフェロモンを利用し、野犬をけしかけて愛犬家を噛み殺し、ある時は牧場の牛や馬を興奮させて十数人踏みつぶさせるなどしていた。


 テキサス・トレイル・レイダースは襲撃はしても殺害はしない。白人と同じように先住民を邪魔だと言って殺害するような真似をしないことが矜持であった。ボニーとクライドのようにベガたちはテキサスでは人気が高かった。もっともベガたちは人気など気にせず、好き勝手に活動していた。


「それはそうとここには長居しない方がいいわね。ミラクルと出会う可能性が高いわ」

「なんやねん奇跡って。ロトくじに当たるほうが奇跡やで」

「違うわよ。ミラクルとはアメリカの病原菌、先住民が残した呪いのようなものよ」


 ハントが説明すると、ミラクルとは死人に乗り移った存在だという。ならゾンビのようにのろのろとしながらも集団で襲ってくるのかとベガは訊ねたが、ハントは首を横に振った。

 ミラクルは人間と区別がつかない。死んでいるのだが、生前と同じようにふるまうのだ。そして傲慢な原住民たちを殺害して回るという。特に白人は狙われやすく、警察機関ではミラクルの学習が必須と言われているそうだ。ハントは元警察関係者だから知っていたのである。


「だからゴールドバーク大統領は馬鹿の振りした賢人と呼ばれているわ。今までミラクルを暴露したものは次の日の朝刊に載っている。奴隷解放をしたリンカーンに、テレビ中継中に射殺されたJFKとかね」


 ろくに学校に通っていないベガでも知っている偉人の名前が出て、驚いた。ゴールドバーク大統領は陰暴論をぶちまけ、アメリカはセブンスペシャルズに支配されているだの、他国の関税を引き上げており、SNSでは嫌われていた。


 するとコンコンとドアのノックの音がした。誰だろう、警察なら問答無用で銃撃するはずだ。

 ハントは愛用のグロッグを腰に差し、特製トンファーを持っていく。そしてドアを開く。そこには保安官らしい男が三人ほど立っていた。


「明かりがするから見てみれば、ここはお前の家か? 奥に女が一人いるようだな」

「違います。空き家と思って休んでいただけです」

「まあいい。銃を持っているな。許可証を見せてみろ」


 するとハントはグロッグを抜き、保安官の額に虫穴を開けた。とどろく音にベガは何かあったと推測し、すぐに割れた窓から飛び出して、バイクに乗って走り出した。

 パンパンと銃声が響いた後、ハントも無事に逃げ出したのか、バイクの音がした。ベガはハントと合流する。


「ハント!! いきなりチャカぶっとばすとは何考えとるんや!!」

「あれは保安官じゃない!! ミラクルよ!!」

「保安官いきなり撃ったんか!! 頭おかしいんちゃう!!」


 ハントの行動をベガは批難した。さすがの彼女も保安官をいきなり撃つことはない。


「違うわ!! あいつら銃の許可証を見せろと言ったのよ!! でもテキサスじゃ許可なんか必要ないわ!! それにあいつらは女がいると言ったのよ!!」

「!? 覗かれとったら気づいとるわ!! そいつらはただもんやあらへんことやな!!」

「正解でーす!!」


 ベガの前方に保安官がいきなり降り立った。ベガは保安官たちを見ていないが、そいつらが異形であることはわかる。身体が黒く角と牙が生え、背中に蝙蝠の羽が生えており、しっぽも生えていた。

 まるでカートゥーンに出てくる悪魔そのものであった。こいつがミラクルと呼ばれるのか。


「へへへ、この地を汚す侵略者は殺さなきゃね!!」


 悪魔は走行中のバイクの上に立ち、器用にベガの顔面を蹴ろうとした。だが彼女は器用にかわしていく。サーカスで磨いた腕は今も健在だ。ハントも同じくミラクルを相手にしていた。まるでサーカスの曲芸だ。

 それでも走行は辞めない。パトカーに追われる苦難に比べれば大したことはない。


「ハント!! こいつら撃ったんやろ!! ぜんぜん死んどらんやん!!」

「ミラクルは死人だ!! 銀の弾丸がなければ撃っても足止めにしかならない!!」

「なんでそれ携帯しとらんのや!!」

「ミラクルに会う確率はカジノでジャックポット当てるほどの確立だ!! そんなのに金かけられるか!!」

「ごもっともや!!」


 ベガたちはバイクを走らせる。暗闇が支配する世界で、バイクのヘッドライトのみで走行するのは危険行為だ。だが二人はまるで昼間のように走らせている。こいつらを殺さない限り止まることはないだろう。


 どぉんと銃声が響いた。するとミラクルは糸の切れたマリオネットのようにくたくたになった。そして地面に転げ落ちる。

 銃声は合計3発。ミラクルたちは地面に転がり落ちた後、じたばたさせて消えていった。


「あんた、店にいた」

「アンタら何してんだ?」


 ハントが声をかけたのは昼間雑貨店で出会った男だった。


「アンタさんこそ何しとるん? おっと助けてくれてありがとさん。この礼はかならずするわ」

「ならいますぐしてくれ。俺の車はエンコしてな、身動きが取れないんだ」

「そんなら、うちが修理したるわ」


 ベガがのんきに言っていると、背後から気配がした。それはミラクルの大群だった。この町に住んでいた人間らしく、老若男女問わず先ほどの悪魔のような姿をしていた。彼らは走っているが、人間をやめたので疲労はない。例えバイクに乗っても、彼らは決してあきらめない。文字通り地獄の果てまで追いかけてくるのだ。


「…うちのケツに乗りや。多少荒っぽいけどな」

「文句は言わないよ」


 そう言ってベガは男をバイクの後ろに乗せると、バイクをフルスロットルで走らせた。ジェットコースターのように走り去った。ハントもそれに追いかけていく。ミラクルたちは前方からとびかかってきたが、二人とも巧みにかわしていく。夜の闇は一寸先も見えず、深海を走っている気分だ。


 ☆


 朝日が昇るとベガたちはあるガソリンスタンドにたどり着いた。一心不乱にバイクを走らせたのだ。

 ちょうどガス欠を起こしたので、スタンドで補給する。ハントはスマホを取り出し、仲間たちに居場所を教えていた。


「おかげで助かった。ありがとう」

「お互いさまや。あの化け物倒してくれてありがとさん」

「まったくだな」


 男は懐から飴を取り出して舐め始めた。そして公衆電話で何か連絡をしたようだ。


「うちらはこれで帰るけど、もう会うことはあらへんな。わいはバレンティナ・ベガや。自分の名はなんや?」

「クリスチャン・ジョンソンだよ」

挿絵(By みてみん)

 クリスはそう言った。ハントはクリスを蒐集家だと思った。後日雑貨店の店主も蒐集家の協力者だと知ったのはずっと後だった。

 二人はロサンゼルスで再会することを、この時の二人は知る由がなかった。


 なぜベガは大統領と協力したのか。後日彼女はこう語る。


「向こうが命令してきたんや。断ったら顔面をどつかれてふっとんだわ。それに惚れてもうたんよ。あのおばはんはぜになしでも、動きたくなるわ」

 セントールはマスコミが付けたあだ名で、彼女自身はベガと呼ばれてます。

 クリスと絡ませるのがいいと思いました。

 クリスはテキサスと関係しており、セントールもなんとなくテキサス出身にしてました。

 なら二人を組ませるのは面白いと考えました。

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セントール。ケンタウロスですか。
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