表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/21

外伝その1 メキシコからのかぜ

「よーし、今日はこれまで!!」

挿絵(By みてみん)

 169センチほどの30歳で茶髪の坊主頭にブルーの瞳を持つ陽気そうな男が声をかけた。

 彼はレジー・タピア。元プロボクサーだ。ここはニューメキシコ州にあるアルバカーキにあるレジーの自宅だ。

 アルバカーキは米国ニューメキシコ州中央部の都市でリオグランデ川沿いに位置する。19世紀末に鉄道が通じて商工業・交通の中心地となり、同州最大の都市となった。ニューメキシコ大学、アルバカーキ大学がある。18世紀初頭に建設された教会などが残っている。


 レジーの家はかなり広く、レジーと妻、息子二人の他に十数人が住めるスペースがあった。これは教え子たちを住み込みで鍛えるためである。

 プレハブ小屋にはリングが設置してあり、サンドバッグやチンニングマシンなどのトレーニング器具が並んでいた。

 リングの上に立っているのは、レジーと赤毛の180センチの大女、サンタナだ。彼女はメキシコからの不法移民だったが現在は永住権を会得している。彼女は孤児で名前を与えられず犬猫のように捨てられた過去がある。それを他の孤児仲間たちと肩を寄せ合って暮らしていたのだ。アメリカンドリームというわけではないが、アメリカに行けば何とかなるとサンタナを含めた13人はメキシコから命がけで来たのである。ちなみに彼女は15歳だ。


「お姉ちゃんすごーい!!」「おじちゃんもつよーい!!」


 黒髪のショートヘアで小柄で無邪気な表情を浮かべた10歳ほどの少女が、サンタナのスパーリングを見て手を叩いていた。レジーとは頭一つ差があるが、恵体のサンタナの拳をうまく受け止めていた。


 名前はチキータ。ぼさぼさの黒髪で10歳だが爆発物を扱うのがうまく、仲間たちが盗みをするときの煙幕を作っていた。


 もう一人はピコリータといい、舌を少し出ている8歳の少女だ。いつもキャンディを舐めている。

 植物が大好きで植物の事なら何でも知っていた。


「サンタナの方がでかいのに、レジーのダンナもなかなかのもんだな」

「ええ、さすがは本職ね。ほれぼれしちゃうわ」


 声をかけたのは虎のように髪を刈り上げた18歳ほどの筋肉質の女だ。ラ・ティグレサと呼ばれている。体中傷が刻まれている。

 もう一人はフラメンコのような衣装を着た19歳ほどの女性で紅いリップをつけ、ハイヒールを履いていた。ダンサと呼ばれており、ラ・ティグレサとともに幼少組の面倒を見ていた。


 彼女らはロサンゼルスのリトルトーキョー襲撃に参加して、住民にぼこぼこにされて逮捕された。しかしイレーネ・ウクライネツという弁護士が来て、彼女たちは釈放されたのだ。そもそも永住権を渡し、ロサンゼルスのダウンタウン地区のアニメショップ襲撃を命じたのも彼女である。正確には彼女の依頼人だ。


「そりゃあそうだ。年季が違うんだからな。まあ途中で麻薬をやっていた時期もあったし、全盛期とは程遠いよ」

「確かに旦那は強いけど、どこかぎこちないもんがあるな。私にはわかる」

「ひゃはは、ルナティカは夜目がいいからな。旦那の夜の生活もお見通しか」


 ギターを奏でながら笑っていた。ポニーテールを三つ編みにした髪に丸眼鏡をかけた20歳ほどの女性だ。額に瑕がある。

 マリアチという名前で、盗んだギターを演奏するのが好きだ。

 ルナティカは14歳でメキシコ生まれにしては色白で、どことなく死人に見えた。代わりに夜目が利き、夜中の窃盗は彼女が担当していた。


「俺の生活なんかどうでもいいのさ。とにかくお前らが無事出られてよかったよ。しばらくはここにいて働き口を探すといいさ」

「んー、あたいらは今勉強の真っ最中だね。家庭教師と教育AIを併用して、英語の読み書きを勉強しているのさ」

「うんとねー、あたちABCをおぼえたよー!!」

「きょういくAIってすごいよー!! やさしくおしえてくれるのー!!」


 ドレットヘアでタバコを吸っている20歳の女が答えた。セニョリータ・スモークといい、サンタナたちの、ヘフェ《メキシコでボスを意味する》と呼ばれている。

 次に答えたのがムチャチータで7歳の女の子だ。はりねずみのように毛が逆立っており、ワイヤーを使って遊ぶことがある。

 となりは9歳の少女でフリホリータと呼ばれていた。天然パーマで豆粒のように身体が小さく、狭い場所も難なく潜入できる。豆菓子を食べながら答えていた。


「不法移民なら低賃金で働けるけど、永住権を得ているからな。妹たちを学校にやって真っ当な仕事に付けるよう、育てるのが俺らの役目だよ」

「んだんだ。おらは頭悪いけど、チキータたちを守るくらいはできるで」


 前髪が隠れる程度に伸びた黒髪のポニーテールにサングラスをかけた17歳の少女が答えた。手には拳銃を握られている。ピストーラといい、拳銃の扱いは慣れている。

 隣は肉ダルマのようなパーマの16歳の女性がいた。カルニータと呼ばれており、肉弾戦が得意だ。

 その背後にはショートヘアで17歳の薄めの女性が立っている。顔に傷があった。ソンブラと呼ばれており、口数が少なく、ほとんどしゃべらない。ルナティカとコンビを組むことが多かった。


「だがなんで大統領はお前らに永住権を与えたんだろうな? 他にも手先になりそうなやつらはいくらでもいるのに」

「難しいことはわかんね」


 レジーの疑問にサンタナが答えた。彼女は現在ジェーン・ヤングという名前だが、全員昔のあだ名で呼んでいた。

 そもそも数か月前にレジーの家を襲撃し、彼にぼこぼこにされた後、彼の家で食事をして改めてロサンゼルスに向かったのだ。

 だがLAは不法移民の追放運動が盛んで、彼女たちはダウンタウン地区のスキッド・ロウに身を潜めていた。暴行や窃盗でわずかな金と食料を得ては幼少4人組に率先して与えていた。


「最初、大統領は仮面ゴールドという黄金の仮面をつけて接触してきたな。ちょうどムチャチータが風邪をひいて苦しんでいるときだった。あの女が現れて永住権が欲しくないかと持ち掛けてきたんだよ」

 

 スモークが答えた。あの日のことは全員が忘れられるわけがない。最年少のムチャチータが風邪で苦しんでいたが、病院に行くことができず、苛立っていた。病院を襲撃して医者を脅すことを考えていた。

 そこに仮面ゴールドが現れたのだ。黄金の仮面をつけた赤いスーツの女だった。

 永住権が欲しくないかと問われたが、サンタナたちは本気にしなかった。馬鹿にされたと思い、ピストーラが売人から買ったサタデーナイトスペシャルを撃とうとした。しかし彼女は瞬時でピストーラに詰め寄り、右足で銃を蹴り飛ばし、宙に漂った銃を燕のようにひったくって、銃口をピストーラに突き付けたのだ。

 そこにソンブラが背後からナイフを手に、仮面ゴールドを刺そうとした。だが、銃の弾丸を抜くと、後ろを向かずにソンブラの顔面に拳銃を投げた。たまらずソンブラは地面に倒れたのだ。


 圧倒的な力にサンタナたちは恐怖した。仮面ゴールドがいうにはダウンタウン地区にあるアニメショップを襲撃すれば永住権をくれてやると持ち掛けたのだ。そうすれば報酬もやると。懐から100ドル札の札束をスモークに差し出したのだ。この金があればムチャチータを医者に見せることができる。

 スモークはサンタナたちを見回して、無言でうなずいた。得体のしれない黄金魔人の言いなりになることを決めたのだ。


「おっと、忘れていた。ラ・ティグレサくんとダンサくん、チキータちゃんにピコリータちゃん、ムチャチータちゃんにフリホリータちゃんの永住権は作ってあるんだ。ついでに医療保険にも加入してある。すぐに医者に診せられるよ」


 そう言って仮面ゴールドはラ・ティグレサたちにカードを渡した。ラ・ティグレサは英語は読めなかったが、ダンサは読めた。そこには自分たちの顔写真とアメリカでの氏名が書かれていたのだ。

 さらに仮面ゴールドは住む家を用意したと言い、6人はそこで暮らせるとダンサに書類を渡したのである。


「なんだそりゃ。最初から永住権を用意していたのかよ。回りくどいな」

「いやいやいや、あいつはラ・ティグレサとダンサが面倒を見ていると調べてたんだよ。はっきりいって背筋が凍ったね。本気になればあいつはあたいらをキノコみたいに踏みつぶすことができる。従うしかなかったのさ」


 レジーは深く考えていなかったが、現在のアメリカで永住権を得るのは難しい。大統領が認めないからだ。永住権を簡単に発行できるのは、大統領しかいない。スモークはそう感じていた。

 結果、サンタナを中心にスモークとカルニータ、ルナティカとピストーラ、ソンブラとマリアチはダウンタウン地区のアニメショップを襲撃した。それをブラッククノイチに見つかり、ぼこぼこにされたのである。


 その後彼女らは警察に逮捕され、セントラル中央分署の留置所に入れられた。ところが数日後、ウクライネツという弁護士が来て、自分たちの保釈に来たというのだ。さらに自分たちは永住資格があり、強制退去は不当だと訴えた。だがサンタナだけが取り残されたのだ。スモークたちは納得できなかったが、ウクライネツはまだその時ではないと、スモークたちを説得したのである。


「最初から永住権を作ってたのか。大統領は出し惜しみをしすぎだな」

「あたいらも成功報酬と思っていたから驚いたよ。その後、ラ・ティグレサたちと合流して、時を待った。その間大統領が雇った家庭教師と教育AIを使って、勉強していたよ。おかげで自分たちの名前を書けるし、他のみんなの名前も理解できた」

「俺も書けた!!」


 スモークの言葉にサンタナは右手を上げて笑っていた。教育AIはサンタナのような野獣でもわかりやすく勉強を教えてくれたのだ。知的障碍者もこのAIのおかげで真っ当な生活ができるようになったという。


「サラ・コーエンが新しい大統領になったが、すぐに変わるわけじゃないからな。お前らは普通の生活を送れるようにがんばれよ」


 レジーが言った。サンタナたちは現在こちらに引っ越している。目下チキータたちを学校に通わせ、スモークとダンサは大学受験の真っ最中である。

 サンタナたちは週に三回、レジーのジムの練習風景を動画配信していた。彼女たちはどれも個性的でマリアチがギターを演奏したり、カルニータとラ・ティグレサがガチンコ勝負の撮影をしていた。


「おっ女房が飯を作ったと連絡が来たぞ。みんな来い」

「おー!!」


 レジーの言葉にサンタナたちは同意した。彼女たちは親どころか親戚もいない元不法移民だ。例え永住権を得られても、芸のない彼女らは真っ当な仕事を得られない。不法移民の方が何の資格がなくても低賃金で働ける。だが彼女たちは深く考えない。困難が立ちはだかれば乗り越えるどころか、破壊すればいいと思っている。

 レジーは元大統領、ハンナ・ゴールドバークが彼女たちを選んだことに納得していた。血の繋がった家族でも親が子供に暴行し、死なせることがある。血の繋がりよりも、魂の強固なつながりをサンタナたちから感じ取っていた。


「今日のメニューはグリーンチリ・シチューだぞ!!」


 レジーの言葉にサンタナたちは沸いていた。

 やたらと登場人物が多いですね。

 ゲーム的にセニョリータ・スモークとカルニータ、ルナティカとピストーラ、ソンブラとマリアチが敵キャラとして登場する感じですね。ファイナルファイトみたいな感じです。

 12人全員出さないのは、幼少組の子守をする人間が二人必要だと思いました。

 レジーはあとから出演したので、外伝で活躍させました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここでレジー登場。 良い感じにレジーを描写した上に、 他のキャラとも上手く絡ませてますね。
すごくアメリカの世情をちゃんと取り入れてますよね。 レジーたちをとおしてヒスパニックの現実を学べた気がしました(^^) でも、ここはブラッククノイチの世界。ブレてないですね(^^)
この世界の大統領はいい大統領ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ