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第八話 魔女御用達の紅茶店で

「ルフナ紅茶店」

木製の古びた看板を横目に店の扉に手をかける。


カランカラン

扉に取り付けられた鈴が音を鳴らす。


店内は温かみのある落ち着い雰囲気で統一されており、商品の置かれた机には、それぞれの紅茶の特徴やお勧めの淹れ方が書かれた小さなカードが置かれていた。


二回に続く階段の手前に作られたカウンターには、普段いるはずのお婆ちゃんの姿はなかった。


「お、お(ばあ)ちゃん、、やっほー?」


もしかして、ちょうど出払ってたりして、、、。


「老人をいつまでも待たせんじゃないよ!この小娘が!」


背後から突然現れたお婆ちゃんは手に持っていた杖でグリグリと私の頬を突いてきた。


「お婆ちゃん痛い、痛いって。ごめん!謝るから許してよぉ!」


「ふんっ、馬鹿娘がこの私をこんなに待たせるなんて何様だい!」


やっぱり居たの!?ちょっと期待した私の気持ちを返して欲しいわ。まぁ遅れたのは私の方だけど。


「ごめんごめん、ちょっと急な来訪者が来たのよ。」


お詫びのクッキーを渡しながらお婆ちゃんにそう言うと、お婆ちゃんは怪訝そうな顔をして私を見つめた。


「来訪者?アンタの所にかい?あんな山小屋に一体誰が来るっていうのさ。」


「この国の第三王子、ルドベック・アスティルよ。」


お婆ちゃんが目を見開く。そりゃそうよ、あんな高貴な身分の人がこんな村外れどころか山奥の小屋にわざわざ訪れるなんて、非日常にも程があるもの。


「アンタまさか、、」


「バレたわ、王子がブローチ型の魔道具を持っていたの。一応王子に人払いをお願いしたから私が魔女なことを知っているのは王子だけよ。」


「馬鹿アンタ!一番バレちゃいけない奴に何バラしてんだい!?王族になんてバレたら一生王宮で拘束されるから絶対に嫌だとあれだけ言ってたじゃないか!」


「事前に王子から王宮勤めにはさせないって言質(げんち)は取ってあったし、まぁ王立学園には行くことになったけど、Win-Winの条件だったし良いかなって。」


お婆ちゃんの動きが止まった。


あらら、流石にこれだけ情報が入ると老体には響くのかしら?寿命縮んで無いと良いけど。


なんて考えてたら、それを察したらしいお婆ちゃんに杖でもう一度ぶん殴られて、その後お婆ちゃんは呆れたように言葉を続けた。


「アンタねぇ、、全くアンタたち師弟はいっつもこうなんだから。」


「アンタが不老不死になったかもしれないってエーデルの馬鹿が伝えに来た時以来の驚きだよ、全く。」


「その条件とやらは知らないけど、まぁ案外色々考えてるアンタが許可したんだ、あたしはもう何も言わないよ。」


「ちょっと、案外って何よ案外って!」


「うるさい馬鹿娘、話はそれで終わりかい?ならとっとと買うもん買って帰りな。」


全く、私と師匠に対して毒舌な割には、お婆ちゃんだって素直じゃ無いんだから。


「わかったよ、学園に行くからしばらくは店に来れないし、今日たくさん買ってくつもり。」


「いつもの紅茶ある?アルビオン王国のやつ、あれ美味しいから多めに欲しいんだけど。」


「はいはい、ちょっと待ってな。奥の棚から取ってくるからその間に他のも決めときな。」


「はーい、わかったよ。」


お婆ちゃんの紅茶店はまさに幻で憧れの店。


人それぞれの悩みに沿った特別ブレンドや、遠方の入手困難な茶葉、女性以外の男性にも人気なコーヒー豆も一部取り扱ってることから、王都に店を構えれば超人気店になること間違いなしだ。


それでもこの店が私や村の一部の人たちにしか利用されていないのは、お婆ちゃんの性格や生い立ちに関係する。


お婆ちゃんは性格もあまり人と接するのに向いていないし、高齢なこともあって王都に店を構えるのは難しかった。


けど、お婆ちゃんの選んだ茶葉や淹れる紅茶は誰もが舌を唸らせるほどに絶品だった。


それにお婆ちゃんが気づいたのは王宮で給仕をしていた時だったらしいが、本人自身も茶葉を選んで紅茶を淹れて飲む時間は好きだったことからいつか店を構えたいと思っていたらしい。


結果として住人も人通りも少なく、適度な自然もあるこの場所に店を構えたらしい。


「ほら、取ってきたよ。他のは決まったかい?」


「ありがとうお婆ちゃん、じゃあこのコーヒー豆と、、、テトリーを貰える?ミルクティーにしたくて。」


「はいよ、保存期間は守るんだよ。それと飲み過ぎも気を付けな、足りなくなったら買いに来るんだよ。」


「はいはい、じゃあ多分次に来るのは二、三ヶ月後かな?まぁ来れなくても何かあったら精霊に頼んで言伝は送るから。」


「気をつけるんだよ。」


「うん!じゃあお婆ちゃんまたね!」


カランカラン


音を立てて扉が閉まる。


しばらくはお婆ちゃんの顔も見れないのか、知らないうちにコロッと死んで無いか心配になりそう。


、、、、いやお婆ちゃんに限ってそう簡単には死なないわね。


茶葉は買えたし、生活用品は特に無くても平気だし、あとは家に帰って研究道具と資料の選別をしないとね。


研究道具も資料も、持って行きたい物ばかりだけどそんなに荷物の入る鞄は持っていないし、マジックバッグやっぱり買おうかしら?


でも自分で作れば材料費だけで済むし、、悩ましいわね。


学園の研究室はどんなところなのかしら?


王子との契約は研究室の貸し出しが条件だから、期限はおそらく王子が卒業する一年半後よね。


どんな研究をしようかしら、以前材料不足で製作を諦めたポーションも学園でなら作れるかしら?


あぁ、心が躍るわ。学園が楽しみね。











「学園に編入生が来るらしいわ。」


「編入生?この時期に?珍しいこともあるんだね。」


「何でも、その編入生ってルドベック王子殿下に気に入られているらしいのよ。」


「へぇ、こりゃ一難着ありそうな予感♪」


「面白がってんじゃ無いわよ、性格悪いわね。」


「どんな人かな〜、男?女?腹黒?純粋?」


「知らないわよ。けど王立学園に編入する時点で貴族か準貴族あたりでしょうし、少なくとも性格がいいとは思えないけど。」


「もしかしたらお金で入学した悪徳貴族だったりして〜」


「それなら絶対に近づきたくないわね、、。」


「編入は1週間後らしいわ。」


「早く入ってきてほしいな〜編入生なんて滅多に見ないし楽しみ♪」











「殿下の推薦で学園に編入生が来るらしい。」


「あの殿下が人を推薦!?」


「何々?会長の話?」


「あぁ、殿下が直々に学園に女子生徒を推薦したらしい。」


「マジ!?ついに会長にも春がきた感じ?」


「おい会計、口を慎め。しかも殿下はその生徒を基本的に研究者として扱うつもりらしい。」


「研究者?そりゃまた何で?会長の研究を手伝わせるって事?」


「俺にもそこまでは分からない。全く殿下は何をお考えなのか、、、」


「殿下の研究って確か魔法に関する物だった気がするけど、その生徒もしかしたら魔道具師か、魔女だったりしてw」


「まさか、それならとっくに王宮に勤めてめっちゃ稼いでるとこでしょ。態々この学園に来なくたって、魔法の研究がしたいなら魔法学園に通えばいいしね。」


「それもそうか、ほんと殿下の考えることって予想できないんだよな〜」











「編入生(ごと)きが殿下に気に入られるなど、許せませんわ。」


「殿下にふさわしいのはこの(わたくし)ですのに。」


「私の殿下に近づけさせないように、策を練らなくては。」











「ラティルス嬢に次に会えるのは1週間後の学園編入の日か、待ち遠しいな。」


「早くもう一度あの美しい魔法を見たい。」











学園では既に、ラティルスに興味を抱く者、正体を怪しむ者、憎しみを抱く者、再会を待ち望む者など、広い間で編入生の噂が広まっていることをラティルスは知らない。


「やっぱり全部は鞄に入らないし、マジックバッグ作ろうかしら?」


「あーあ、これならマジックバッグも条件に入れればよかった。」

次回,第二章 学園編開幕

(狼はルフナお婆ちゃんが一番好きです。)

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