第六話 魔女は新星を気に入る
「貴女は一体何者ですか?ラティルス・オドーラートゥス嬢?」
「我々はこの小屋を中心としたこの森全体に、教会で感知されていない魔力を確認し、その正体の解明のためにこの森を訪れました。」
「そして森の中を彷徨い続け、やっとこの小屋を発見すると、中から現れたのはラティルス嬢、貴女でした。」
「更にこの小屋に入って、森に漂う魔力と小屋の奥から感じる魔力が酷似していることが分かりました。」
「私のローブについているこの青緑色の宝石のブローチ。この宝石は魔力探知魔法を付与した特別性のものでしてね、魔力を感知すれば宝石が紅色に変化するようになっていまして、精密性は低いものの、二つの魔力を感知させればそれらが同一、もしくは近しいものかどうかくらいは分かります。」
「そして、私は先程森の入り口でこのブローチを使い、貴女が紅茶の用意をしている間にこの小屋の魔力に触れさせました。」
第三王子が私に見せたブローチは、紅色に染まっていた。
「この森全体に広がる魔力、その持ち主は貴女ですよね?」
あー、なるほど。そういう事か。
つまりはそう、その件って事。
せっかく前世を思い出して、改めて自由を謳歌しようと思ってたのに。
まぁいいわ、どうせ確信してるんでしょ?
私が魔法適性検査を受けていない非公式の魔女だという事を。
でも今、素直に第三王子の言葉を認めれば、私は一生国の犬として魔法を行使しなければいけなくなる。
そんな事になれば新しい魔法の研究も、ポーションの開発も、精霊達との対話もできなくなる。
けれど、ここで私が魔女ではないと言ったところで、あのブローチがある限り、泥臭い小競り合いが長続きするだけ。
お婆ちゃんも待ってるし、第三王子達にここに長く居座られれば、どのみち私は魔法を使えない事に変わりない。
なら、せめて私に有利になるように話を進めるまでよ。
私、前世では周囲の大人たちのご機嫌取りばかりしていたから、こう見えて演技は得意なの。
弱気で小声がちだった声は、芯のある深く強い口調に変えて。
不安に揺れる瞳をしまい込んだら、先を見つめる瞳をそっと細めて、口元には余裕っを演出する笑みを浮かべる。
縮こまっていたはずの姿勢は伸ばして、両腕を組みながら椅子の背もたれに寄りかかる。
おまけに足を組んで威圧感を出せば、その場を支配する女王の風貌は完成する。
「で?私、だと言ったらどうするの?」
「交渉下手にも程があるわよ第三王子。交渉の時は始めにパターンの提示をしないと。でなければ、揚げ足を取られるか、抜け穴を突かれて貴方の負けよ」
「それとも、元より交渉のつもりは無かったのかしら?武力行使で私を確保するつもりだったのなら止めた方がいいわよ」
「だって、貴方達の言う通り私が魔女なら、私はあらゆる魔法を駆使して抵抗するだろうし、これで私が一般市民なら私は貴方達の勘違いで武力でねじ伏せられたと迷いなく訴えるもの」
そう言って私がクスリと笑うと、先ほどまで神妙な顔付きで黙っていた第三王子は口を開いた。
「貴方を無理に国に縛り付けるつもりはありません。今回の訪問は私の我儘で、お忍びの調査ですからね」
「この訪問が公式なものだとしても、私は権力を行使して貴方を連れていくことはしませんよ。魔女様や魔術師様には敬意を払うのが私流の礼儀ですから。」
「ご存知かもしれませんが、私は魔法や魔女、魔術師といった存在にとても興味がありまして、最近では魔力についての研究に参加していまして、今日ここに訪れたのも、その研究の一環で濃密度の魔力の発生源をここに感知したからなんです。」
、、、正直信用に足りない。
私を無理に連れては行かないと言う割に、さっきはブローチを使ってまで私と魔力の関係を暴こうとしていたし。
それも好奇心や興味での行為だとしても正直に真実を明かすのは危険よね。
けど、全く信用できないわけでは無くなった。
「護衛を下げさせてください、話し合いはそれからです。私の身分が何にせよ、このような話し合いの場に無関係の者が居座るのはマナー違反ですし、正直不愉快です」
護衛達は「何様だ!」とか「無関係ではない!」とか「不愉快とは何だ!」とか、キャンキャン吠えてるけど、第三王子はすぐに手を伸ばして静止を命じた。
「ラティルス嬢、護衛たちを小屋の前に待機させていてもよろしいでしょうか?」
、、さっきは貶したけど、やっぱり第三王子、中々できるのね。
気に入ったわ。
「いいえ、山の麓と村の中間あたりに一軒の家があるからそこで待機させて。鍵ならここにあるから、持っていって構わないわ」
鍵を投げると、王子が華麗にキャッチし、話しながら近くにいた護衛に手渡した。
「わかった。じゃあ君達はその家で待機していてくれ」
「しかし殿下、この女が殿下に何か仕掛ける可能性だって捨てきれません。もしそうなってしまえば、、」
鍵を受け取った護衛の一人は王子の身を案じる言葉を投げ、王子の決定に反抗した。
「大丈夫。自分の身くらい自分で守れるし、何より今日の目的は彼女との接触と対談だからね。彼女が君たちを拒むならそれに従うしかないんだよ」
王子と護衛があれやこれやと言い争っている間に、椅子の後ろでを組む。
すると、窓から小さな小鳥が飛んできて、組んだ手の上に乗り、小さく折られた手紙を置いた。
王子達に聞こえないように小さくお礼を言って、小鳥の姿をした精霊を帰すと、組んだ手を戻して、机の下で手紙を開いた。
げ。
「早く来な、馬鹿娘」
これは店に着いたら拳骨&説教コース確定だな。
やだなぁ、お婆ちゃんの拳骨痛いしなぁ、、、。
「ラティルス嬢、お待たせしました。早速話し合いを再開、、、ラティルス嬢?」
あら、もう言い争い終わった感じなの?護衛達いなくなってるし。
「あぁ、すみません。私も次の予定の時間が迫っていますし、早速本題に入りましょうか」
「では、改めて」
「我々はこの森に漂う魔力がラティルス嬢、貴女のものであり、貴女が魔女であるだと考えています」
「仮に貴女が魔女であっても、我々は貴方の自由を奪う気は一切ありません」
「その上で、再度お聞きします」
「ラティルス・オドーラートゥス嬢、貴女は魔女ですか?」
、、、、、、笑
「私は、ラティルス・オドーラートゥス。」
「魔術師エーデル・アルストロメリアより師事を受け、」
「魔法と自由を愛する、不老不死の魔女よ。」




