第五話 邪魔虫(新星)到来と焦る魔女
「貴方がこの小屋の家主でしょうか?私、ルドベック・アスティルと申します。」
毎日小屋に篭って研究ばかりしている私でも流石にこの名前には聞き覚えがある。
ルドベック・アスティル、この国の第三王子だ。
ルドベック殿下には二人の兄君が居られ、お二人共に優秀で在られる為、第三王子で在られながら政権よりも魔法や魔道具に強い興味を示すルドベック殿下は王位継承権を幼き頃に破棄していて、学園に入学された今も尚、魔法探究に尽力して居られるとの事。
最も、殿下自身にはさほど魔力は無く、使える魔法といえば小さな灯りを灯す程度の光魔法くらいらしいが。
そんなこの王国内で最も尊き血の流れる殿下がなぜ私の家に?
まさか、あの件がバレたのかしら!?
いえ、あの件とは限らないわ。もしかしたらあっちの件かもしれないし、その件かもしれないし、、、
ああ、どうしましょう。心当たりが多すぎるわ!
落ち着いて私!、、とにかく、早く殿下の質問に答えなきゃよね。
「はい、この小屋は私の住居ですが、第三王子ルドベック殿下とも在ろう御方がこんな森の奥の小屋に一体何の御用で?」
ヤバい!どうしましょう!今の私の声震えてなかったかしら!?笑顔が引き攣っていたらどうしましょう!?
、、というかもしかすると、今の私の発言って物凄く不敬だったんじゃないかしら?
わざわざ殿下のことを第三王子なんて付けて呼んで、しかも要件を尋ねるなんて早く帰って欲しいみたいじゃない!、、、まあ帰って欲しいのは事実だけれど。
「ここにはとある件への調査に訪れたんです。貴方にもお話を伺いたいのですが、失礼ながら、お名前を伺っても?」
「、、、ラティルス・オドーラートゥスと申します。」
「ラティルス嬢、素敵な名前ですね。」
「、、、ありがとうございます。」
とある件の調査?やっぱりバレたのかしら?立入禁止区域で薬草を摘んでいた事が!
それとも魔法の試し打ちで樹齢の古い木を何本も折ってしまった事?
まずい、まずい!早く、早く調査について話しなさい!第三王子!
「早速調査についてお話を伺いたいのですが、、その、よろしいですか?」
「?、はい。問題ありませんが?」
何なのよ、人の顔見てそんな心配する様な顔して!早く本題に入りなさいよ!
何?私の顔に何か付いているの?
「すみません。その、顔色が真っ青なので、体調が良くないのであれば、後日でも構わないのですが、、、」
、、、まさか私ともあろう者が簡単に表情を読まれるなんて、失態だわ。(真顔)
「いえ、問題ありませんので。、、、よろしければ中へどうぞ。」
「そうですか?では、お邪魔します。」
あー最悪、結局調査って何なのよ。今日は風魔法の研究と村に買い出しに行こうと思っていたのに、、。
このお気に入りの紅茶も、もうすぐ茶葉が切れるし、研究のお供ことコーヒーだって、最近コーヒー豆を買いに行けていないおかげでしばらく口にしてないし。
本当、「間が悪い」ってこの事ね。
「香りの良い紅茶ですね。初めて飲む味です。何という名称でしょうか?」
「ピージーチップスと言って、遠方のアルビオン王国では日常的に飲まれている紅茶です。」
「遠方の国の物なので手に入れるのは苦労しましたが、知人の紹介で定期的に安く買うことができるようになったんです。」
「アルビオン王国、、あぁ確か名産品が紅茶でしたね。我が国も貿易は行っていますがあまり盛んではありませんし、入手困難なのは納得です。」
そうよ、手に入れるの大変なんだから!あの店のお婆ちゃん、時間に遅れると怒るから今も出かける準備してたのに、、、とにかく、さっさと調査の件聞いて早く出かけないと。
けどその前に、お婆ちゃんに遅れるって連絡しないとね。
第三王子達にはバレないように、こっそり椅子の後ろで手を組んで、ボソリと短縮した詠唱をする。
すると、組んだ手の上に小鳥の姿をした風の精霊が現れ、そっと飛び立ち窓の外に出ると、真っ直ぐお婆ちゃんの店に向かって飛んで行く。
元々、私に茶葉を売ってくれているお婆ちゃんは師匠の知り合いだから、私が色々と訳ありな事も理解してくれている。
当然、お婆ちゃんは私が魔法を使えることも、師匠の弟子であることも、魔法適性検査を受けていない私が魔女である事実を、他人にバレてはいけない事も知っている。
私の秘密を知っているのは師匠とお婆ちゃんの二人だけ。
私はお婆ちゃんと連絡を取る時にだけ、精霊を村に向かわせる。
そうやって日頃から精霊を介してお婆ちゃんとは連絡を取っているし、お婆ちゃんなら事情を察して待っててくれるはずだ。
だからとにかく今は、第三王子の訪問を何とか乗り越えて、短気なお婆ちゃんが我慢の限界に達する前に店に向かうのよ!
「それで、殿下。調査というのは一体?」
この際不敬だなんて気にしていられないわ。おばあちゃんの拳骨はめちゃくちゃ痛いんだから!
「ああ、そうでした。時間を頂いている身として早急に本題に入らなければいけませんね。」
やっぱり私の言葉は催促に聞こえたのか、第三王子の護衛達は私を睨みつけたが、当の本人は素直に謝罪の言葉を述べ、続いて私の言葉は気にしていないという旨の言葉を発した。
「では単刀直入に申し上げますが、、、、貴女は一体何者ですか。ラティルス・オドーラートゥス嬢?」
ごめんお婆ちゃん、さっきの連絡早急に訂正したい。
お婆ちゃんのお店、行けなさそうです。