第三話 一輪の花は魔女に希望を与える
「今日は何の研究をしようかしら?炎魔法?それとも風魔法にしましょうか?」
ラティルスの人生になってからは魔女であることで色々と苦労して来たけれど、前世の記憶を無しにしても私は魔法が好き。
でも、きっとそれは師匠のおかげ。
両親が死んで、しかも母は私のような魔力持ちを嫌っていたこともあって、私自身も魔法を使うことには大きな抵抗があった。
けれど、行き場も無く森で野宿をしていた私の前に、ある日師匠が現れた。
師匠はこの森から大きな魔力反応を感知したといって、その発生源が私であったことを伝えた。
感情に整理のついていない私は、知らぬうちに魔力を周囲に放出していたらしく、神殿の者に見つかると面倒な事になると言って、その場は師匠が魔力を押さえ込んでくれた。
それから師匠は私を宿に連れて行き、風呂に入れたり、飯を奢ってくれた。
一通りやることが終わると、師匠は私に向き合って本題の話を始めた。
「まず、自己紹介からだな。俺はエーデル・アルストロメリア、魔法使いだ。」
「得意な魔法は風魔法で、苦手な魔法は治癒魔法だな。」
師匠の第一印象は「何だこいつ」だった。
いきなり私の前に現れて、宿に誘拐したかと思えば服や飯を与えてくれて、自己紹介を始めれば弱点まで溢す阿呆。
何てぼんやりと考えていたら、お前の名前は?なんて聞いてきて。流石にここまで面倒を見てもらって無視するわけにもいかないから答えるけど。
「ラティルス・オドーラートゥス。魔法は嫌い」
今思えば、家族のことがあったとしても、失礼な程に無愛想な子供だったわね。
けれど、そんな私の返答を聞いて師匠は嫌な顔一つせず、むしろ大笑いしながら私の頭を撫でた。
「ははっ笑、そうかそうか。魔法は嫌いか!」
「お前勿体無いな!そんなに大量の魔力を持ってるのに!昔誰かに何か言われたか?」
昔誰かに何か言われた。
一つ訂正を入れるのなら、それは誰かではなく実の母だったということだろうか。
父が死んで以降の母の口癖を思い出した。
「なんて気味の悪い力。愛しのあの人を殺した子供と同じ、不気味な力」
私は頭上に置かれた師匠の手を払うと、静かな声で言い放った。
「触らないで。勿体無いとか関係ない、私はこんな力要らなかった。」
師匠はしばらくポカンとした顔で固まっていると、急に柔らかく微笑み、今度は私を優しく抱きしめた。
「昔お前に何があったかは知らない。その力も嫌なら使わなくたって良い。だが、要らないなんて言うな。お前の力は素晴らしいものだ、うまく使えば自分の人生を豊かにしたり、人の助けにもなれる。」
「その力を持たざる者は多い。だからお前の理解者も少ないだろう。俺もそうだった。」
「それでも、もしお前が理解者を求めるなら俺がなってやる。その力を使いこなしたいなら、俺が教えてやる。使いたくないのなら、それを抑え込む方法だって教えてやる。」
「だから諦めないでくれ。好きに、自由に生きることを。」
「過去に囚われるな、なんて言わない。俺はただ、未来に希望を持って欲しいだけだ。」
師匠の言葉は、暖かった。久しぶりに触れる人の優しさに思わず涙が溢れそうになったけど、人の前で泣くなんて恥ずかしくて、涙を堪えながら私は師匠に問いかけた。
「希望を持てば、本当にあなたが教えてくれるの?」
「ああ、約束する」
「理解者になってくれる?絶対に捨てない?不気味とか気味が悪いとか言わない?」
「絶対だ」
「お前が望むなら、自由と手段を教えてやる。死ぬまでお前の理解者として手伝ってやる。何より、お前は不気味なんかじゃない。」
師匠は本気だ。目がそう言っている。だから私も、その本気に応えなければいけない。
「、、、私の名前はラティルス」
「ん?ああさっき聞いたぞ。」
「お前じゃない。」
「!、、ああそうだな。ラティルス」
「エーデル、私に魔法を教えて。エーデルより上手く扱ってみせるから」
「、、本当にいいんだな?ラティルスが望むなら魔力を抑える方法だって教えられるが」
「エーデルが私の理解者になるんでしょ。なら別に魔法から逃げる必要なんてないし」
「そうか。なら!今日から俺はラティルスの師匠だ!師匠と呼んでみろ!」
「エーデル、馬鹿がバレるよ。あんまり騒がないで」
「ちぇっ、つれない弟子だな。」
師匠はそれから、私に色々な事を教えてくれた。
魔力の扱い方、魔法に具現化する方法、他にも生活する上で必要な家事のやり方など。
今も住んでいるこの小屋も、師匠との魔法の特訓の一環として建てたもので、特訓が終わったら壊す予定だったけど、師匠が気に入ったらしく、それ以降はこの小屋で2人で暮らしていた。
そして、師匠と出会ってから5年ほど経った時、私はほとんどの魔法を取得し、師匠と2人で魔法の研究開発を行なっていた。
その時開発していたのは、治癒魔法を基盤としたより高度な治癒ポーションだった。
その研究開発の最中、事故が起きた。
私が、試作段階のポーションと、市販の疲れ取りポーションを間違え、試作段階のポーションを誤飲してしまった。
試作段階のポーションというものは本当に危険で、下手をすれば命すら危ういほどだ。
私は命や健康に別状がなかったものの、当然師匠には烈火の如くお怒りを頂き、落ち込んでいた。
「連日の研究で疲れていたとはいえ、試作ポーションの近くに物を置くなと言ってきただろ!そもそもラティルス、お前はいつも無理をする!昔からずっと研究に熱中するのはいいが睡眠は取れと言っているのに!全く、誰に似たんだか。本当に、、、」
「ごめんエーデル。でもほら、私は元気だし平気よ!それに、健康より研究を優先させるのはエーデルに似ただけよ。」
ポーションの効果は遅効性の可能性もある為、師匠と私はポーションの完成を目指しながら1、2年程様子を見たが、私の体には特に病も呪いも現れなかった為、日々の研究に熱中する日々が戻ってきた。
そして、私が師匠と出会ってから13年が経った頃。
私の前に、二つの壁が姿を現した。