第二話 魔女は小鳥の記憶を思い出す
朝、窓の外から差し込む太陽の光で目を覚ました。
寝起きの感想としては、長く眠りについた様な感覚のおかげで最高と言ったものか、思い出したくも無い記憶を思いだして最悪と言ったものか。
どちらか選べと言われたら、圧倒的後者だと思うが。
「、、神様って本当に居たのね。今後は毎日お祈りと感謝を伝えたほうがいいかしらね」
私、「ラティルス・オドーラートゥス」はこの国、アスティル王国のとある森に住む魔女だ。
魔女や魔法使いなど、魔力が多く、魔法を扱うことの出来る者は、この国では重宝される存在だ。
何故なら、そもそも魔法を使うことの出来る者はごく少数に限られており今の時代、平民どころか貴族や王族ですら魔法を扱える者はほとんどいないからだ。
そして、この国にとって魔法を扱える者、特に「魔女」に関しては歴史的に見ても救世主的な立ち位置にいる。
アスティル王国は過去に、魔物が生み出した瘴気によって国が滅びかけた事があった。
しかし、そこで偶然この国に訪れた魔女が瘴気を祓い、魔法の力で人々を治癒して周ったことで国は何とか立て直すことができ、今でも当時の魔女の事を大魔女として崇めているほどだ。
他にも色々と魔女や魔法使いには伝説だの何だのが残っているのだが、とにかくアスティル王国では魔法を扱える者は重宝されるべき存在なのだ。
そのため、一人でも多くの魔法使いを見つける為に、貴族平民を問わず、アスティル王国の国民である限りは全員10歳の時に教会で魔法適性検査を受けることが義務付けれている。
、、、私は受けていないけれど。
さて、アスティル王国の事はこれくらいにして、私のお話をしましょう。
つい先程、私はある記憶を思い出したわ。
いわゆる、「前世の記憶」ってやつね。
思い出したくもない、最悪な前の人生の記憶。
さっきは神様に感謝しなきゃなんて言っていたけど、わざわざ次の人生で自由を謳歌している時に思い出させるなんて、案外意地悪なのね。
前世の私,秋牡 千丹は両親から愛を貰えず、圧に逆らう事も出来ず、将来を思い絶望した。
死因はあまり覚えていない。不注意の交通事故か、通り魔にでも刺されたか、絶望の末に自殺したか。
けど、神様は私の我儘な願いに応えてくれた。今思えば、人生で最初で最後の我儘だったかもしれないな。
魔女になりたい。とまでは言っていないけど、多分神様からのサービス、、だよね?
私の新しい人生が楽になるように魔法があったら便利だものね?
わざわざ魔力を大量に持たせてこの国に転生させるなんて、何だか嫌な予感がしてならないのだけれど。
ちなみに、当然だけれどついさっきまで前世の記憶を失くしていた様に、私はこの人生ではラティルス・オドーラートゥスとして生きてきたわけだから、この世界やこの国に関してはある程度の知識はある。
とりあえずこの国に関してはさっき言った通りだけれど。
今回の人生、ラティルス・オドーラートゥスの過去について紛らわしくならない様に整理しておこう。
まず、私はこの森の近くの村に住む魔力も持たないごく普通の両親の元に産まれて、今世の両親はとても優しい人だったわ。そう思うと、やっぱり元から記憶を持って産まれていれば混乱してとんでもない子供になってたかもしれないわね。神様ありがとう。
そして、確か私が7歳の頃、村で魔力持ちの子が魔力暴走を起こして、確かその子の属性が炎だったことで村中の建物に炎が燃え移り、住民たちは避難したけれど、優しい父は魔力暴走をした子供も助け出そうと炎の中に突っ込んで行ったことで子供諸共死んでしまった。
母はその事で精神を病み、行き場のない怒りを子供と同じ魔力持ちの私に放ち、何年も私に虐待を行った末に自殺した。
その頃にはもう10歳になっていたけれど、そんな状態の母を教会に連れて行くわけにもいかないし、結局タイミングを逃し、適性検査には今もまだ行っていない。
両親ともに失った私には他に身寄りが無く、残った僅かな金で日々の食糧を少しずつ調達しながら魔法を使ってこの森に小屋を建てた。
小屋を建てて以降、魔法に興味が湧いた私は日々特訓と研究を重ね続けて、ついさっき前世を思い出した。
これで全てかしら?案外、今世もそこそこ酷い人生だったわね。
けれど、私は今の生活を気に入っているし、前世を思い出したところで私は私。
今の私は千丹では無く、ラティルスだもの。
折角神様が与えてくれた2度目の人生、今度こそ制限のない完全な自由を謳歌するのよ!
絶対に私の自由は邪魔させないわ!たとえ相手が誰であってもね!!
ラティルスは知らない。
魔法適性検査を掻い潜った自身の本当の魔力量を。
日々の鍛錬と研究で得た、その超高度な魔法技術の素晴らしさを。
数十年前、突如として現れた森の小屋の怪しさを。
ラティルスの存在を怪しんで、その素性を探っている者がいることを。
「数十年前に突如森に建てられた小屋、記録によればたった数日間で完成されたらしいし人の手で建てるにしては早すぎる。」
「しかも、この小屋の周辺で魔力反応が感知されている。小屋が建てられてから今までずっと。」
「ただ、その魔力は神殿では感知された事の無い未確認の魔力。」
「だとすれば、その魔力の持ち主は神殿の魔法適性検査を受ける前の子供か、魔法適性検査を受けていない者の二択になる。」
「、、、とにかく、この小屋に行けばわかることだ。」
「誰か、馬車を用意してくれ。今すぐ出かける、この地図の森にな」