第十話 新星の女王様
「ようこそラティルス嬢、私の研究室へ。」
王子が扉を開けると、その先の広い空間が現れ、私の気持ちの昂りは最高潮へと上がって行った。
想像よりも広かった研究室は、資料のぎっしり詰まった棚や道具が多く置かれた机が何台か置かれていて、物の量的には片付けが必要な程だが、全て整頓されているおかげで部屋の中は比較的綺麗に見えている。
カーテンを挟んだ向こうの大きな窓からは太陽の光が差し込んでいるものの、やはり研究道具には直射日光の当たらないよう、室内の道具や家具配置も完璧にされていた。
「ここが研究室、、、。」
思わず声が漏れてしまったけど、私の小屋とは比べ物にならないほど整頓された使いやすい部屋ね。
「気に入ってもらえたら嬉しいです。色々と説明しますので、椅子にかけて少々お待ちください。紅茶を淹れてきますね。」
「ありがとうございます。」
研究室にこんな豪華な椅子と机、、、広い部屋と財力のおかげってことかしらね。
あの魔道具、さっき教材を見たときに載っていたわね。確か炎属性の魔石を埋め込んで、それを核とした上で周囲を頑丈な素材で覆い、更にその上から、、、、。
「お待たせしました、どうぞ。」
あ、そうだ。王子のことを待っていたのよね。すっかり忘れるところだったわ。
「ありがとうございます、、、良い香り。北部の国で栽培されている茶葉とこの国の茶葉をブレンドしたのですね、こうすれば苦味と酸味が上手く軽減されて飲みやすくなりますから、ストレートでも十分に風味が引き立ちますしね。」
「お詳しいのですね。まさにその通りです、紅茶がお好きなので?」
うっかりしてた。気を抜くとすぐにお婆ちゃん直伝の知識が飛び出ちゃうんだった、、。
「知り合いが紅茶店を営んでおりまして、その方から教わったんです。茶葉同士の相性や、淹れ方、他にも色々と。」
「そうなのですね。素敵なお知り合いをお持ちなようで。」
「えぇ、まあ。」
素敵、素敵かしら?短気で怒ると杖でぶん殴ってくる人ですけど。
まぁでも、何だかんだお婆ちゃんは昔から世話を焼いてくれるしなぁ。
うーん、、、
「ラティルス嬢。」
「はい?」
「改めて、この学園に来ていただき、本当にありがとうございます。」
「私個人として、この学園の生徒会長として、本当に感謝しています。」
「頭をあげてください、こちらとしてもそれなりの条件を提示している以上、その様にしていただく訳にはいきません。」
「ですが、無理を言ったのは私の方で、、。」
何よこの王子。急に低姿勢になっちゃって、面倒くさいわね。
それに何より、、、、
「あーもう!うっさいわね!こっちは早く研究室を見て回りたいのを必死に我慢してんだから、感謝の言葉だの何だのやってる暇無いって言ってんの!」
「私は私で、貴方は貴方でそれぞれ目的があって学園ここにいるんだから、一々気にしないで頂戴!第一、生徒会長とか王子ともあろう人がそう簡単に頭を下げないでくれる?そっちの方が私は困るの。」
お婆ちゃんほどじゃ無いけど、私も魔法の研究に関しては結構短気なのよ。
こんな最高な空間にいて道具一つにも触れられず、ごちゃごちゃ何か言ってる王子の相手なんてしてられないっつーの。
「、、、、っふふ。そうですね、困らせてしまってすみません。」
「やはり君は素敵な女性だ。私にそこまではっきりと言う人と会うのは久しぶりだよ。」
「揶揄ってる?悪いけど、冷やかしと揶揄いはお断りなの。」
「それに、貴方だって同じじゃない。敬語外れかかってるし、これでも私貴方より年上なのだけど。」
「揶揄ってなどいませんよ。やっぱりこちらの口調の方がお好きですか?」
「いいえ、貴方とは対等な関係で居たいもの。敬語は外して頂戴。」
「君がそれを望むなら。それと、私のことは殿下ではなくルドベックと呼んでほしい。研究仲間として、殿下呼びでは距離があるようで寂しいからね。」
「いやよ、ルドベックなんて長くて呼びにくいもの。それなら、そうね。ルド、これでどうかしら?」
「!!、、あぁ構わないよ。」
「そう。じゃあルド、これからよろしく。」
「順応が早いなぁ。ラティルス嬢、これからよろしくね。」
「ところで、早速あの魔道具を見ても良いかしら?構造が気になるわ、一度分解するけど良いわよね、それからあの棚の資料だけど、ざっと五年分は読みたいから分けて置いてくれる?」
「はいはい、仰せのままに。女王様。」
「誰が女王様よ、女王様が見たいならお母上にでも会ってきたら?」
「いや、いいんだ。今の私には君の手伝いという仕事があるからね。」
「?、あぁそう。それならついでに空き瓶に精製水を汲んできて頂戴。これが終わったら早速ポーション作りに入りたいから。」
「はぁ、、、はいはい。」
ラティルスの優先順位は、魔法研究 > 王子殿下 らしいです。




