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第九話 魔女は学園に編入する

王子の訪問があった日から1週間が経ち、約束通り私が学園に編入する日になった。


あれから数日後には既に学園から制服や教材などといった生活用品は届けられ、何とか学園に持って行く道具の選別を終えた私は、久しぶり(前世ぶり)に着る制服に心を踊らせながら時間が来るのを待っていた。


私の小屋から王都にある学園に行くには馬車では時間がかかり過ぎてしまうため、今日のところは転移魔法を使って学園近くに転移し、その地点から歩いて登校する事にした。


転移魔法は大量の魔力を使う上に転移先の安全が確保し難い事から中々使う事はないけれど、今日は顔合わせと施設案内だけだと聞いているから魔力を使う機会も無いだろうし、移動先も学園周辺である事から問題ないと判断した。


「ふふ、研究員といえど制服を貰えたのは嬉しい誤算だったわ。異世界の制服にも興味あったし。」


学園での私の立場はただの研究員だとばかり思っていたけれど、学園の方では一応名目上は生徒として編入させるらしく、制服や教材も一通り貰うことができた。


勉強は得意だし、私はこの世界について一般知識程度しか知らないから様々な科目の教材が貰えるのは本当にありがたいわ。


何より、これよ!基礎魔術に応用魔術、魔道具の教材たち!


各属性ごとに特性や扱い方、魔道具の作り方、歴史に残る偉人たちの偉業!


これが届いてから既に17回も読んでしまったわ。


内容的には師匠が教えてくれた魔法ばかりだったけれど、探求を続ければより良い魔術式が組めそうな論文もあったし、ぜひこれを書いた人に会ってみたいわ。


あら?そろそろ時間ね、出発しましょうか。


忘れ物が無いかもう一度確認してローブを羽織ると、目を閉じて事前に確認しておいた着地地点を脳内に浮かべて、魔力を身体中に循環させながら詠唱をする。


数秒の間の後、ゆっくりと目を開けばその視界に映ったのは見慣れた小屋では無く、中世ヨーロッパに似た美しい街並みだった。


「成功ね、本当はもっと移動時間の誤差を小さくしたかったのだけれど。」


魔力の消費量も今の四分の1に減らすことができるかもしれないし、、。


(※本来の転移魔法はラティルスの倍以上の時間と魔力消費が必要となります。)


まぁいいわ、とにかく学園に入りましょう。初日から遅刻なんて嫌だもの。


「おはようございます、ラティルス嬢。お久しぶりですね。」


門を入り、教師との待ち合わせ場所に向かおうとすると、1週間前にも聞いたあの声が聞こえた。


「おはようございます、殿下。一週間ぶりですね。」


「一週間がこれほど長く感じたのは久しぶりです。編入おめでとうございます、ラティルス嬢。制服もよくお似合いですよ。」


「ありがとうございます。、、、ところで、殿下はどうしてこちらに?」


学園の周囲に生徒が一人も見えなかった事から、てっきり既に授業が始まっているものだと思っていたのだけれど、私の勘違いだったのかしら。


「生徒会長として、編入生の案内をするように学園長から頼まれたんですよ。もちろん、私が貴方の編入を推薦したことも関係してますがね。」


この王子、生徒会長だったのね。私も前世でやっていたけど、中々学業との両立が取りづらいのよね。


「そうでしたか、お忙しい中ありがとうございます。」


「いえ、気にしないでください。私が無理を言って貴方に学園に来ていただいたのですから。」


「学園長室はこちらです。着いてきてくださいね。」


「はい、わかりました。」




コンコンッ


殿下が学園長室の扉をノックし、部屋の中から入室許可の声がかかる。


「失礼します、ルドベック・アスティルです。編入生の生徒を連れて参りました。」


「ああ、殿下ありがとうございます。貴方が編入生のラティルス・オドーラートゥス様ですね。どうぞお座りください。」


何か、学園長なんて大層な役職の割に気の弱い男ね。前世での校長はもっとふんぞり返って偉そうな人だったのに。


「前にも話した通り、ラティルス嬢には生徒という名目で学園に在籍してもらい、普段は私の研究室で研究員として活動する。それでよろしいですよね?学園長。」


椅子に座った途端、私が自己紹介をと口を開く前に、殿下がスラスラと学園長に対して圧をかけるように言葉を連ねていった。


いや、学園長に圧かけちゃダメでしょ。


「も、もちろんですとも。こちらが寮の鍵と第五訓練場の鍵になります。ラティルス様の寮は研究棟寮の550号室を用意していますよ。一人部屋で殿下の研究室から近い場所にありますので、、、」


いやいや、学園長も何押されてるのよ。研究室から寮が近いのはありがたいけど、第三王子殿下といえど、学園ではただの一生徒だし、貴方の方が権力は上ですよ!


「ありがとうございます、それではこれからラティルス嬢に学園内を案内するので失礼しますね。」


そう言うと殿下はそそくさと立ち上がり、私の手を引いて扉の外に出た。


「え、あ、失礼しました。」


私一言も話してないまま学園長との顔合わせ終わっちゃったけどいいのかしら?


「ラティルス嬢、先ほども言った通り学園内を案内しますので着いてきてくださいね。」


「はい、、、。」


この王子、この前会った時確か


「魔女様や魔術師様には敬意を払うのが私流わたしりゅうの礼儀ですから」


なんて言ってたけど、もしかしてあれって


「魔女様や魔術師様には()()特別敬意を払う」


って意味じゃなくて、


「魔女様や魔術師様に()()特別敬意を払う」


ってことだったの!?


魔法関係者に傾倒してる、、どころか崇めているレベルに感じるのは私だけかしら、、?


「こちらの施設は〜〜で、奥のあの場所は〜〜〜」


やばい、王子の話が全然入って来ない。


「ラティルス嬢?」


「は、はい!何でしょうか?」


「大丈夫ですか?ぼーっとしているような気がして、、」


「いえ、平気ですよ。、、この部屋は何の部屋でしょうか?」


適当に指さしちゃったけど妙に豪華な扉ね。学園長室より豪華な気がするのは気のせいかしら?


「あぁ、ここは生徒会室ですよ。そうでした、ここも紹介しなくてはいけませんでしたね。」


「私も、普段は生徒として授業を受けたり、生徒会の仕事をしている時間が多いので、もし何か用があれば教室かこの生徒会室に来てください。恐らくどちらかに入ると思うので。」


「なるほど、わかりました。」


生徒会ってほんとに学園長より権力ある感じなのかしら?とにかく、ここは覚えておきましょう。多分来ることはないでしょうけど、覚えておいて損はないもの。


「これで一通り案内は終わりましたね。では最後に研究室と寮の案内をしたら今日は解散にしましょうか。」


研究室!この学園に来た目的と遂にご対面よ!ああ殿下は何の研究をしているのかしら?一体どんな研究道具や資料、材料があるのか楽しみだわ!


一般教室のある棟から少し離れて一つ建物に入ると、入り口から薬品の匂いや魔獣の獣臭(けものしゅう)などが漂い始め、通路を奥に行った一つの部屋の前で王子が立ち止まった。


「ここが、私の借りている研究室です。左の机の上は散らかっているので気をつけてくださいね。」


ガチャリッ


扉が開く。


扉の先は______

ルドベックの魔女や魔術師、そして何より魔法への敬愛心は凄いです。色々な意味で。

その研究をするためなら王位継承権も簡単に破棄できる程には。

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