一幕 裏切り
初投稿です。よろしくお願いします。
※20250825改稿(主に改行位置など)
豪華な、しかしおどろおどろしい装飾の施された謁見の間。
激しい剣戟の音と爆音がやけに響く。
狭い空間では爆発が起きる度に壁や床をぶち壊す事になるが、部屋自体に特殊な魔法が掛かっているようだ。
どれだけ高い威力の攻撃が当たろうと、原型を留めているのは素晴らしい。
魔王を倒せなくても、ここにある調度品をいくつかかっぱらえば当分は生活に困らなそうだ。
そんな下世話なことを考えたのが良くなかったのだろう。
「剣士!? ……気配が消えた」
短い悲鳴と共に、少し離れた所で剣を構えていた剣士の男の姿が掻き消えた。
またこの魔法だ。
俺は目を一瞬だけそこに走らせた後またすぐ前に向き直る。
剣士が立っていた所には肉片どころか血痕すら残っていなかった。
これで三人目か。
残りは自分と魔法使いのみ。
絶望的な状況だが、俺にはまだ余裕があった。
奥の手もある。
しかしこのままではジリ貧なのは確か。
俺は一気に戦況を動かすことに決めた。
「〈仲間の仇ッ!〉」
叫ぶと同時、瞬間的に高まった魔力が身体を覆う。
攻撃力が格段に上がるが、消耗も激しいこれはあまり使いたくなかった。
何よりああいった〈クサい台詞〉を言わないと威力が上がらないというのが心底気に食わない。
心中で女神にありったけの悪態をつきながら斬りかかる。
ザシュッという鈍い音と確かな手応えの元、先程まで剣で相対していた相手が崩れ落ちた。
「やりましたね!」
魔法使いが笑顔で気の抜けた事を言う。
呑気に魔王を倒したと喜んでいるが、俺と同じレベルで剣を交えながらあんな意味不明な高等魔術を操る奴が居てたまるか。
それがたとえ魔王であろうと。
切り捨てた残骸の前に出る。
目の前には巨大な魔素の塊。
空気中に漂う魔素に擬態するように流れをつくっているが、その奥の密度は明らかに異常。
背後でヒトだったものがぼこりと黒く波打つ。
そのまま謎の黒い液体になるのを感知しながら、俺は目の前の空間をありったけの力を込めて叩き切った。
「ギャッ! 嘘、もうバレた!?」
思いの外若い、子どものような間の抜けた声。
切り裂かれた空間から現れたのはひょろ長いもやしのような男だった。
見た目は全く想像と違うが、身に纏う魔素の多さがコイツが魔王であることを示している。
今更子どもだからと剣が鈍ることも無い。
そのまま連撃を見舞うも、甲高い音を立てて障壁に阻まれた。
「お前が魔王か」
至近距離で問えば、しまったという顔をする。
これで確定だ。
舌打ちして少し下がると、俺の背後から死角を活かすように複雑な軌道を描いた魔法が飛んでいく。
「うわっ! こっっわ! 怖いんだけど!?」
慌てふためく声はやはり間抜けで、思わず力が抜けそうになる。
しかし悲鳴を上げつつも障壁は魔法すら阻み、奴は未だ無傷だった。
「そいつが魔王ってことで良いんですね」
「どう考えてもそうだろ」
魔王の方からは急に魔法が現れたように見えたはずだ。
それでも通らない。
いつも通りの冷静さを発揮した魔法使いと会話していると、最後に小さなヒールが怪我をしていない足に当たり吸い込まれた。
「あー、ここは〈俺に任せろ〉か?」
ぼそりとやる気の無い声で呟く。
一応女神は応えてくれたらしく身体に掛かった身体強化が解けることはなかった。
「そこはきちんと決めてくださいよ」
魔法使いに突っ込まれるが知ったことか。
今のヒールは魔法使いと旅の途中で決めた合図。
大魔法の準備に入ったことを理解し、魔法使いに意識を向けられないよう、また前に出て剣を当てる。
魔法使いも伝わったのが分かったのか、後ろで魔力が練られていくのを感じる。
時間稼ぎが目的の為一撃一撃は軽く、しかし障壁の穴を探る為細かく、速く。
絶え間ない斬撃の音にビビっているのか、魔王は「ひええ」などと情けない声を上げながら顔を手で覆っている。
結局障壁は全方位均一だったので穴は見つけられなかったが、十分な時間は稼げた。
後方で魔力が膨れ上がった瞬間、俺は身体強化を利用した超高速で魔王の背後に回る。
眩い光が魔王に直撃するのと同時、俺は全力で突きを放った。
強力な魔法と物理攻撃を同時に当てたことで、ようやくパアンッとガラスが砕けるような音を立てて障壁が飛び散る。
俺は止めを刺すつもりで追撃を放った。
瞬間、背後で殺気が膨れ上がる。
強烈な死の予感に、咄嗟に身をよじった時には肩から槍が生えていた。
そして魔王側から放たれたはずのそれは、そのまま目の前にいる魔王の脇腹をも貫く。
「え……? あ"…、あぅ、ナ゙に、が………」
これは不味いと直感した俺は二人を繋いでいた槍の棒部分を勢い良く叩き切った。
「チッ……死なば諸共ってか?」
傷が抉れるが知ったことか。
呆然とする魔王と俺に目掛けて再度放たれた槍を振り向きざまに切り払う。
魔王の玉座から後ろに、俺たちを取り囲むように魔族が立ち並んでいた。
大量に浮かんだ魔法陣が光り輝く。
詠唱が終わると同時に覆いかぶさるように無数の魔法が降り注いできた。
「障壁、間に合いません!」
「クソッ」
俺は咄嗟に魔王に体当りするようにして魔法使いの元まで転がると、転移魔導具を起動した。