この瞬間を永遠にしたかった
きみはいつもシャッターを切る。肉眼よりもファインダー越しに見ている時間のほうが長いのではないかと思うくらいに。そんなに撮ってどうするのと聞くと、どうもしないよときみは笑った。
たくさん撮った中からいくつかを選んで定期的に現像してアルバムに収納していく。物を増やしたくないという理由で紙の書籍もすべて裁断しデータに変えたのに、随分チグハグなことをするねと言えば、それはそれこれはこれなんだよとまたきみは笑った。
棺の中で眠るきみは今にでも起きてくれるんじゃないかと思うくらい穏やかで、若い頃にはなかったたくさんの皺とシミがあるけれど、目尻に深く刻まれた皺は濃淡はあれど変わらない。きみは笑い皺なんだと言ってむしろ誇らしげにしていた。飾られた遺影も、きみがわたしのスマートフォンのアルバムを眺めてこれがいいと決めた満面の笑みのものだ。
生活音が大きく響くようになった部屋できみが遺してくれた写真を一枚ずつ眺める。たくさんたくさん、一週間やそこらじゃ見返せないほどの膨大な量を。写っているのは見慣れたわたしの顔なのに、ページをめくるたびに知らない顔が増えていく。
わたし、こんな顔をして笑っていたの?
バカだなぁ。わたしも、もっときみの写真を撮っていればよかった。そうしたら、あの瞬間も、この瞬間も、時を超えてやって来て、永遠にすることができたのに。