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それを恋と呼ぶのだろう

 ショートケーキの上に乗ったいちごを先に食べるか後で食べるか。ときどき上がる議題にぼくは笑顔で答える。「自分の分を先に食べて、きみの分を後で食べるよ」と。それに対してきみは笑顔でいちごをぼくの皿に移してくれて、生クリームの甘さを消すように咀嚼する。それが、ぼくの恋だった。

 ぼくの前にはたくさんのきみが現れては消えてゆき、その背中を追うこともせず、また新しいきみを受け入れる。来るもの拒まず去るもの追わずということわざは、まるでぼくのために用意されたようなものだときみは苦々しく口にして、それに対して甘くも酸っぱくもないならいらないよと告げると、またきみは去っていく。わたしのこと本当に好き? 一番好きなのは自分自身なんでしょ。そんな言葉を残して。

 きみの言うとおりきっとぼくの一番はぼくで、きみのことを好きなのも、きみがぼくを好きだからだ。そう気づいてしまった後は早く、たくさんのきみが僕の前から去っても、痛む胸すら持ち合わせなくなった。だって甘くも酸っぱくもないものはいらないのだから。

 新しいきみが現れて、二人でショートケーキを前にする。「きみのいちごをちょうだい」と言う前に、きみは一番に食べてしまった。呆気にとられるぼくを前に、きみはとびきりの笑顔を見せる。気づけばぼくは「ぼくのいちごも食べる?」と聞いていた。

 ショートケーキの上に乗ったいちごを先に食べるか後で食べるか。ときどき上がる議題にぼくは笑顔で答える。「自分の分はきみにあげて、きみの分もきみが食べてよ」と。そうして笑顔でいちごをきみの皿に移して、生クリームの甘さの中の酸っぱさで満たされる。それが、ぼくの恋なのだ。

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