スーパーマンになりたい
記憶の中のきみはいつも泣いている。泣き顔を見たくないぼくはいつも「泣かないで」と声をかけてきみが泣きやむのを待っていた。いつしかきみはいつでも笑うようになり、安心したのもつかの間、それはただただ笑顔の下に悲しい気持ちを押し込めていただけだったことを知る。「泣けよ」と声をかけるときみは困ったように微笑んだ。
ぼくがきみの笑顔を望んだのは、きみの歩む人生が幸福で満ちますようにという願いだったのに、ぼくがきみの笑顔を望んだばかりに、きみの泣く場所を奪ってしまった。それはきみの幸せをもっともっと遠くに追いやってしまったのかもしれない。
きみはいつでも笑っていて、ぼくは「泣けよ」と声をかけるときみは困ったように微笑む。懲りずに何度も何度も繰り返すと、きみは「きみにはお見通しだなぁ」と一筋の涙を流した。久しぶりに見た涙はキラキラと輝いていて、ぼくはこの世で一番の美しさを知ったような気にさえなった。
悲しい理由をぽつりぽつり。聞いてるとこちらまで苦しくなって、きみの笑顔を曇らすすべてが憎らしくなる。次第にきみはぼくの前では素直に笑って泣いてを繰り返すようになり、ぼくはまた、きみの笑顔だけを望んだけど、それもきみに無理をさせたいわけじゃない。
どうしたらきみの歩む人生は幸福だけで埋め尽くされるのだろう。子どもの頃、アニメに出てくるスーパーマンを一緒に見たときだけは、ずっと無邪気に笑っていた日々が頭をよぎった。