仲間とラリックの近況と王家の闇と
神殿への報告の後は、いつもの日常に戻った。
シエラに行って、仲間と一緒にダンジョン攻略をしたり、家族のいるグランツ領に行ったりだ。
シエラは治安が良い上に、ルグランと違って鬱陶しい監視が付かないから気が楽なのだ。
ただ、ルグランの常宿だった[大盤振る舞い]のおかみさんには会いたい。
なので、気が向けば気軽に転移で、食事をしに行ったりしていた。
5月にアビーの誕生日、6月にウィルの誕生日、日が瞬く間に過ぎて行く。
ウィルと言えば、アケルに正式にお付き合いを申し込んだらしい。
俺が居ない間のシエラに居た時の話だそうだ。
アケルは最初、自分は年上だからと、躊躇っていたようだが、周りの祝福に、嬉しそうに頷いたという。
この頃は、昔みたいにローブを深く被ったりせず、顔を出している。
せっかくの美人が、顔を隠して勿体ないと思ってたので、良いことだと思う。
二人はラリックに建てた、俺達パーティーみんなの家に、戻ることになった。
ここを拠点にするという。
ラリックの初級ダンジョンは、小金を稼ぐなら、最適なダンジョンだ。
現に、ザックさん達パーティーは、ここを拠点に稼ぎまくっている。
ゆくゆくは、ウィルは指圧の勉強をして、家の1階の店舗の一つ、指圧院に弟子入りするらしい。
アケルは、ウィルの手伝いや、指圧院の隣の店舗の手伝いをやるという。
こんな普通の生活に憧れていたそうなのだ。
で、二人は来春結婚するという。
くっ、俺とセラの結婚式は二年後なのに、抜かれた。
まあ、兄ちゃん、ねえちゃんだからしょうがないか。
エマとジェミだが、シエラにずっと居ついている。
俺もその方がいいと思った。
やっぱり、仲間の元の方がいい。
エマの立場や、年齢のこと、本当の意味で分かってやれるのは、同じ境遇の獣人ハーフ達だから。
ジェミは、ちょっと辛い思いをしてるみたいだ。
狼獣人のハーフと、お互い気になってるようだけど、踏み込めないでいるようだ。
ラリックに帰りたくなったらいつでも連絡してくれと、通信の魔道具を渡しといた。
【通信の魔道具】、これはもう、機密でも特異性でも、なんでもなくなった。
ユリウスが、ギルド間だけ通信具を設置した後に、その設計の破棄を頼んだはずだった。
しかし、破棄されることはなく、こっそり上層部の力を持った者達の間で、受け継がれていったのだ。
今では、結構ポピュラーな魔道具になっている、勿論貴族や有力者限定だが。
この事実を知った時の、前世の賢者たるユリウスは、怒っていた。
だが俺は、無理もないと思ったよ、だってこんな便利な物、絶対欲しいに決まってるから。
□■□
さて、俺は今、ルカニア王に謁見している。
と言っても、公にではなく、秘密裡にだ。
そしてなんと、筆頭聖人ロルフのじいちゃんにやった様に、情報の共有をせよと言われてしまった。
いいのか?と思ったが、王命ならしょうがない。
じいちゃんと、王太子殿下の見守る中、≪共有≫ をした。
ルカニア王、ルードヴィッヒ陛下は、しばし目を見開き、苦悶の表情を浮かべた。
大丈夫か?
悄然とした様子だったが、しばらく経って復活した。
そしたらなんと、ルドルフ王太子殿下にも共有させろと言われた、マジ?
共有するも、親子揃って同じ反応に、ひいた…
どうでもいい話だが、
ルードヴィッヒ陛下、ルドルフ王太子殿下、ルシード第二王子殿下、ルシアン第三王子殿下…
何故に、みんな、 ≪ル≫ ??
そうか、ルカニアだからか、んな訳ねえだろう。
と、俺が一人ボケ、ツッコミをしていたら、3人が、まじまじ俺を見ていた。
何それコワイ。
まあ、3人は、後少しで南から ≪災害≫ が来るのを知ってしまったんだから無理ないか。
この件は、悪戯に公表はしないことになった。
俺は災害時は、大陸全土に結界を貼ることを約束した。
そして、用が済んだ後は、早々に帰らせて貰った。
◇◇◇
「アロイス・リヒト準男爵は、信用してもいい者か?」
「今世の大賢者です。
もうこの度の ≪伝承の災害≫ 面倒でしょうがないのでしょうな。
自らの秘密も何もかも、丸ごと放出してしまう者に警戒など、馬鹿らしくなるではありませんか」
「だがロルフよ、あの力、大きすぎる。
全ての能力が規格外だ、魔力百万など、化物ではないか。
災害の後、始末した方が良くないか?」
「やりたければ、やられれば良いでしょう。
無駄だと思いますがね。
そして敵に回せば、計り知れないほどの損失を被るのはこちらですぞ」
「ルドルフ、そなたはどう思う?」
「私は懐柔して、仲良くやりますよ、父上。
その方が得だ」
「そうか………………。
ところで、アマラの工作はどうなっている?」
「ふふ、グローリア家が上手くやっております。
第一王子は、シャルロッテ嬢と仲が良いし、妃に迎えたいようですね」
「第二王子を毛嫌いしておるのに、第一王子とは懇意なのか?」
「あの第一王子が王位に付き、シャルロッテ嬢と婚姻を結べば、我が国との友好度が上がりますね。
グローリア家も王妃なら、溜飲が下がるでしょう、例え自国でなくとも」
「ふむ、引き続き様子を見よう」
***
(…やれやれ、陛下も殿下も、≪管理人≫ とやらの話は、まるで信じていないようだの。
ある意味幸せじゃの…わしは価値観が揺らぎそうだというのに。
だが、あの者が語った、高次のモノを神と呼ぶというのなら、正しく神だとも納得できる。
今世の大賢者たるアロイスのお陰で、大災害を回避できるやもしれんのに、抹殺を考えるとは…
かつての大賢者も、用済みと消されたのかもしれんな。
恩知らずなことよ)
◇◇◇
「ふうん、そうなのか。
じいちゃんはそんな事俺に話していいのか?」
「構わんよ、どうせ老い先短いしな」
「うん、まあ、ありがとな。
そんなに警戒されてんなら、考えがあるよ」
「??」
「俺の記憶消しちゃえばいいんだよ」
「そんなことが出来るのか?」
「分かんねえ、でも多分できる」
「そうか、わしの記憶は消すでないぞ」
「うん、ポポに面会したいし消さないよ」
「お主と言う奴は」
「嘘々、心配して教えてくれてありがとう、じいちゃん」
「うむ、お主を利用するだけ利用して、すまなかったの…」
「気にすんなよ。
それより、セラとの結婚式はじいちゃん執り行ってくれよな」
「任せておけ!」
***
なあ、ユリウスは国に消されたのか?
«そうだ»
返り討ちに、しなかったのか?
«家族と領民を盾に取られてたのでな»
うわあ、汚ってねえなあ。
«だが、グランハイムは約束通り、平和裏に残った。
お前が訪れてくれたお陰で、それを確認できた、それでよい»
そうか。
そう言えば、あの後も時々ミルと話したが、過剰の魔素の問題をもし解決したら?
魔素が減り、魔獣が減り、魔法も使用が難しくなって、そしていつかは、魔法の無い世界になるかもしれない、そんな話になったっけ。
それは平和かもしれない、だが、そうなると、今度は国同士の諍いが起こるだろうって言ってたな。
だが魔素の無い世界なんて、それは随分先だろう。
俺が死んだ後の話なんて考えてもしょうがないし。
魔素がなくなれば、魔法だけでなく、スキルも、称号もなくなるだろう。
賢者なんて都合のいい駒だよな、いや、使いっ走り?
じいちゃん、俺は落ち着いたら、のんびり自由に生きるよ。
ふっふっふっ。
王家も、グローリアもカーマインも、他の邪魔する奴も、みんな俺の記憶は消してやるさ。
シャルロッテ様に忘れられるのはちょっと悲しいけど、いいんだ。
俺の愛する人、家族、仲間、ギルドの友人、街の人達、店の人達、大事な人達を盾にしたり、害するなら、徹底的に潰す。
でも、最初から俺を認識出来なければ、その方が平和だよな、だからそうする。
◇◇◇
あれから、俺とセラもラリックで落ち着いた。
俺が金カードだというのは、あまり知られてないし、知らせてもない。
金カードと言えば、王都の騎士団に家族を盾に入団させられてたエスリックさんが、退団して帰って来た。
腕を痛めたと言ってるが、どうも辞める口実の様だった。
ジーンは泣きそうな顔で迎えていたし、祖父のコーッラクギルド長や、奥さんのポーリーヌさんと、みんな大喜びして迎えていた。
エスリックさんには、後日、オーガーのスタンピードを収めてくれて感謝する、と言われた。
だから、こちらも、金カードに推薦してくれたことを感謝しておいた。
遠く離れた王都に居たのに、そのことを知ってるのは多分、ギルド長の話から推測したのだろう。
恐るべし。
ジーンのヘタレっぷりも、大分マシになって来たし、ロブはアビーの件で煤けていたが、最近やっと吹っ切れたようだ、頑張れ。
アビーは結局、ダンジョンで亡くなった従兄のようなタイプが好きだったんじゃないかと思う。
線が細くて、自分が支えたくなるようなそんな感じ?、気の毒だがロブは真反対だった。
俺をすごく心配してくれたのも、多分、あまり言いたくないが、母性本能を搔き立てたからじゃないかと思う。
俺、女の子に甘えるの躊躇いないしな、末っ子だからだとウィル兄ちゃんには言われた。
酒場は、マダムが引退したいということで、ヒルダさんがマダムになったようだ。
ヒルダさんと言えば、独身だと思い込んでいた俺を嘲笑うかのように、実は結婚して子供居たという。
うっ、年上の綺麗な独身のお姐さんだと思ってたのに…
旦那さんが、店の経理を担当してるとかとついでに知った。
串焼き露店のおっちゃんは、最近長男に手伝いをさせている、うん二代目修行だな。
そんなこんなで、ラリックは今日も平和だ。
その平和に終止符が打たれたのは、夏が過ぎ、秋を迎えた頃。
ミルから、≪災害≫ の来る日を伝えられた。




