過去との決別と管理人が語る世界
そこには、あの人が、あの美しいエルフが佇んでいた。
純銀のようなキラキラ滝の様に流れる美しい髪、滑らかな浅黒い肌に完璧に整った美貌の顔。
長い睫毛から覗く瞳は、セラと同じ金の瞳、今は驚いた様にこちらを見つめているのだが…
俺が驚き過ぎて何も言えないでいると、何を思ったのか、笑顔で話し掛けてきた。
「あら、あの温泉施設に居た坊やとお嬢ちゃんね、ふふ、こんな所で会うなんて」
「 ……………………………… 」
「相変わらず仲が良いのね」
「…… 貴女は、なんで…なんで………」
「え?」
「貴女は此処で何をしていたんですか?
その手に持っているのは何ですか?」
美しい彼女が持っている、その水晶柱を、俺は指差した。
「…これは、貴方には関係無いでしょ!」
「そんなモノで≪災害≫を引き寄せるつもりですか?
沢山の人が死にますよ、分かってますか?」
「…………それが、何?
そんなの知らないわよ、人間がいくら死んだってどうせ、また増えるでしょ」
「今ならまだ間に合う、水晶柱を渡してください。
引き寄せるなら、海中の極小島にすればいい」
「陸の殆ど無い所で≪災害≫を降ろせば、海の≪災害≫となって返ってくるわ!
それじゃ駄目なのよ」
「だからって故意に差し向けるなんて酷くないか?
五千年もそんなことするなんて卑怯だろ!」
「…貴方、賢者ね?
何処まで知ってるのか知らないけど、これは渡せないわ!
ふふ」
美しい顔を歪ませて、嘲笑する彼女は、持っていた水晶柱を魔力で砕いた。
パリンッ
「レティシャぁぁぁあああーーーーーーーーーッ!!!」
この叫びは、俺じゃなく、前世の賢者たるユリウスの叫びだったのかもしれない。
「な、なんで、人間が私の名を知ってるのよ…
なんで、あ、貴方、目が… 銀の魔力眼…あの人と同じ大賢者の瞳…
う、やめて、そんな目で見ないで、そんな失望したような目で私を見ないで!」
身を震わせ、ポロポロ涙を零し泣き叫ぶと、レティシャさんは、転移で逃げてしまった。
ああ、間に合わなかった…
どっとショックや、無念が押し寄せて来て、膝を付いてしまった。
俺は、何も出来なかった…
セラに帰りましょうと囁かれて頷いた。
◇◇◇
帰ってからセラに、あのエルフの女性は、ユリウスの恋人だった、という話をした。
それを聞いて、セラも聞いたことがあると言っている。
大賢者ユリウスの恋人の話を。
フィオレの貴婦人、銀の乙女、麗しの黒真珠。
当時社交界を賑わした伝説の少女の説話は有名なのだそうだ。
だが、肝心の脳内のユリウスは、ショックだったと思う… 何も言ってこない。
そりゃあそうだろう、生涯かけて愛した女性の、あの言動、あの表情…
ユリウスの一番嫌いな人を嘲笑するような歪んだ顔…
見たくなかったに違いない、失望もしただろう、俺も失望した。
しょんぼりと、失意でガックリ来てる俺に、幻獣達の喝が入る。
左右に幻獣猫と幻獣犬が、ミャウミャウ、バウバウ、ガ鳴り立ててくる、やめて。
ピヨ太も頭の上でピヨピヨつついて来るし、痛えよ、こら。
何々、一々落ち込むな、元気を出さないと、寝てる時に顔に飛び乗る?やめろ。
そんな俺等を、セラがくすくす笑って見ている、恥ずいぞ。
まあ、でもモフモフに埋もれてると癒されるよ。
そうだ、落ち込む暇があったら考えんと。
セラが入れてくれたお茶を飲みながら、俺はあの司令塔の管理室の存在を思い出していた。
□■□
翌日、俺達は、改めて転移で司令塔施設に訪れる。
セラにも話したんだが、あの2階の管理室に行ってみようと思う。
一番右の水晶柱に音声を送った。
「2階に行きたい。
許可をくれ」
【拒否。
2階ハ賢者シカ入室出来ナイ】
「くっ、…賢者未満じゃ駄目なのか?」
【肯定】
「賢者未満ってのは何なんだ?
どうしたら、賢者になるんだ?」
【説明難解…
人ノ言語デ言ウ、≪自覚≫ ガ最モ近シイ】
「≪自覚≫ だとぉっ!
何だよそれ、ユリウス、あんたも教えてくれ。
俺は賢者になる」
«お前と言う奴は…
そもそも、お前は自由気ままに、ダラダラ、隠居の様に暮らしたいと願っていただろうが。
今の奔走も、筆頭聖人の指示で嫌々動いてるだけではないか»
「ぐっ、しょうがないだろ、嫌々なんだから。
でも、何か掴めることで、助けになるなら、何でもやりたいと思ってるよ!」
やけくその様にそう叫んだら、脳内に電子音が響いた。
ピコーンッ
『おっめでとう!!
≪賢者未満≫ から、≪賢者(仮)≫ になったよ~ん』
間の抜けた声が響く、ムカつくな。
って、誰だよお前?
«馬鹿者!
詮索はいいから、さっさと許可を聞け»
へいへい、分かりやしたよ。
元気に怒鳴ってるってことは、こいつも復活したか。
再び許可を聞いてみることにした。
「2階に行く許可は降りるか?」
【許可】
よかった、とにかく何でもいい、情報が欲しいんだ。
俺はセラに向き直ると言葉を掛けた。
「セラ、ちょっと2階に言ってくる。
何かあっても転移の水晶柱で戻れるから大丈夫だ」
「分かりましたわ」
そう言うと、目を瞑って顔を上げている。
これは、ちうの催促ですね。
こ、この、さくらんぼの様な唇が俺を呼んでいる。
ん~っ、ん?、???
グニャリッ
ちうをする前に飛ばされただと!
けしからん!
アレ???
ここ何処?
そこは、何も無い空間だった。
ここが ≪管理室≫ なのか?
『そうだよ~』
「うわっ、ムカつく声だな。
あんた誰だ?」
『んもう、怒ってばっか、ちょっと短気過ぎないか。
そうだなあ、何て言えばいいだろう、≪管理人≫? が適切かな』
「≪管理人≫ か、分かった。
≪管理人≫ は何を管理してるんだ?」
『ん~、世界?』
「ふざけてんのか!」
『君、短気すぎ、カリカリしない。
世界といったら、世界だよ。
何でも聞いて』
「お前は神なのか?」
『違うよ、でもある意味神より権限あるけど。
神っていうのは、人間独特の、作り上げた尊称なるモノだね。
土地神の様に、人の願いや念での集合意識だったり、上の次元の存在の総称だったり、そういうモノを神と呼ぶようだけどね。
っていうか、君、神なんて信じてないでしょ。
でも、そういう信仰を否定しないし、敬意も払ってるのは好ましいよね』
「お前…よく喋るなあ。
じゃあ、世界を作ったのはお前か?」
『いやいやいや、違うって。
あくまで ≪管理人≫ だから。
しかも、君らと同じ次元に住んでた経験がある者だったから。
君の中の、前前世の正志くんの世界に居たこともあるし。
ただ魂的に、上から降りて来て、また上へ帰る時に、頼まれたっていうか、押し付けられただけ。
正直面倒なんだけどね』
俺の脳内で、正志が、ぴくっと反応している。
うん、確かにこの感じ、アノ世界のちょっとクールな女子学生みたいな喋り方だな。
「じゃあ、世界の何を管理してるんだ?」
『色々だよ、生き物の管理とか、ダンジョンの管理とか、色々」
「生き物? ダンジョン?」
『うん、例えば、人間とか、亜人とか創ったのは私じゃないけど、管理、細かい設定の有無は権限があるし、魔獣や魔物の設定もそう。
ダンジョンなんかも、枠組み創ったのはわたしじゃないけど、イベントや宝物、罠、ドロップ品とかね、色々工夫してるよ』
「マジか、そうだ、亜人の歳の取り方が人間と違うのは、お前の設定なのか?」
『あれは、定番というか、セオリーというか、こんなもんかなあ?って感じ。
あ、怒らないでよ、私だって、よく分からないから、正志くんの世界のゲーム等とか参考にしたけど、しょうがないじゃん。
君が亜人に腹を立ててるのは知ってるよ。
あれは設定の歪みだろうね。
長寿、美貌、純血主義、優越感、差別、難しいよね、肉体を持つ生ける者って。
でもね、彼らは時をかけて淘汰されていくよ。
え?なぜって? 繁殖が上手くいかなくなっている。
もう、数が大分減っているはず、可哀想だけどね、純血も過ぎると、子が生まれにくくなってしまうからね、自業自得かな』
「そうか…
世界を創ったモノは、お前より上の存在なのか?」
『う~ん、そもそも私も高次のモノだから、優劣はないんだけど。
次元を下げて、下にも体験に行くし、終わったら帰るし。
アロイスは世界の成り立ちを知りたいのかな?
まあでも、だいたい知っての通りだよ。
この世界は魔素に溢れていた。
それを中途半端に無くすことは出来なかった。
だから、魔素を活かした世界か、魔素を全部撤去した世界かに、選択した所から始まる。
魔素は、魔力となり魔法を生み出した、魔法世界だね。
ただ、なにしろ量が過剰に多かった。
大量発生する南は、ああしておくしか出来なかった。
浄化施設を造ったのは苦し紛れかな。
え?魔獣魔物をどうにかしろ?
うん、人間は困るよね、でも瘴気をああいう形にしてるのは、浄化の為だ。
魔獣の中で浄化作用が行われているんだよ。
それを倒した者は、浄化した魔素を吸収して、能力アップできるでしょ?
瘴気を魔獣化しなかったら、ずっと瘴気のままで、その淀みが解消されないまま、世界に充満したら困るでしょ?』
「この世界は、歪だな、もっと上手く回せよ」
『ええ~~、酷いなあ、頑張ってるのに。
まあ、試行錯誤の繰り返しかな。
文明が根付く前に、繰り上げして早めようとして、現地の ≪管理者≫ を置いたことがあるんだけどさ、みんな嫌がったり、飽きちゃったりで、逃げちゃったんだよねえ』
「それって古代文明の支配者達のことか?
はあ、いい加減だな…
なあ、この世界について言いたいことはあるけど、まず今は、南から来る ≪災害≫ について、なんとかしたいんだ。
出来れば人間の被害者を出さないで、浄化、消滅させたい。
頼む、なんとかしたい、どうしたらいいか教えてくれ」
『君はやっぱり賢者なんだね。
ふふ、思うまま、力をふるいなよ。
え?もっと具体的に言え?
分かったよ、その前に、私の事はミルでいいよ』
ミル?
そういうと、今まで無人の場所で空気と会話してた俺だが、いつの間にか、正志と同じ日本人?の女の子の姿が目の前に現れた。
うん、女子学生の制服が可愛いなって、そんな場合じゃない。
「ミル、頼む、教えてくれ」
ニコっと笑ったミルにもう一度頼む。
とにかく俺は必至だった。




