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討伐とお城と肖像画

温泉は体に良い、しみじみ実感する。


疲労回復だけでなく、体調が良くなるし、気持ちの安定にも一役買ってくれてる気がする。



この温泉施設、療養の長期滞在者部屋から、観光の短期滞在者部屋の他、施設の従業員から、冒険者の住居まで兼ねている。


後半の、冒険者も含む働く側だが、大体が既婚者である。

まあ、田舎だし、ここじゃ出会いの場がないしね。


こんなに温泉って素晴らしいのに、来るのは大体、年寄りか中高年の観光者で、若人は来ないのである。

それでも、若くない彼らからの、温泉への人気は凄まじく、常連を始め、初心者でもリピーターが絶えないそうである。

よって、俺達若い客は非常に珍しいとか。


一応、ウィルが大怪我したので、治ったものの、養生に来た、と伝えてる。


昨夜の衝撃の目撃から一夜明けて、今朝も散歩がてら屋敷近くに行ってみたら、年配の管理人夫婦が挨拶してくれた。


「酔狂なお金持ちが大枚はたいてこの御屋敷を買い上げて、建て直しまでしたのに、私らに管理を任せるばかりで、一度も此処へ来たことがないんですよ」


「一度も?」


「ええ、でも、お庭の露天温泉は自由に入っていいと言われてますし、結構なお仕事をさせて貰ってます」



じゃあ、あの人が買った訳じゃないのか…

肩透かしの様な安心の様な。

俺は気を取り直して、再び温泉へと向かった。



「アロイスおにいちゃーん」


エマが両手一杯にパンを抱えている。

初日に見落としたのだが、此処にはパン屋が3件もある。

施設内に2件、食堂の中にパン屋のコーナーとして1件、ある。


まあ、施設の客、従業員、冒険者と、よく考えたら大人数だ。

主食を賄う者がいなければ、とてもやっていけない。


で、

その食堂の中のパン屋に、エマの大好物のシナモンロールがあったのだ。

今朝、発見報告購入と、怒涛の連携をかましたはずなのに、この子また買ってきたのか…


エマの幻ではない、実際にある尻尾が今、ブンブン振られていることだろう。


「エマ、食べ過ぎに気を付けてね」


一応注意すると、ハーイと言って駆けて行った。


ところでエマには、認識障害アイテムの指輪を渡してある。

風呂に入る時とか、お団子ヘアが取れて、犬耳が出ちゃった時に、すぐさま身に付けて、誤魔化せるようにと。

そうだ、獣人の情報もそのうち集めないとな。



朝も入ったが、昼も露天でのんびり湯に浸かってると、ガラッと戸が開いて、室内温泉に居た客がこちらに来た。


「おう、アロイス、若いのに温泉三昧とは渋いな」


昨日も居た冒険者のあんちゃんで、クロドさんだ。

ちなみに新婚さんである。


「その為に来たんですから、当然っすよ」


「でもよ、妹ちゃんは、パン屋に入り浸りだし、兄貴の方は、指圧受けて呻りまくってたぜ」


まあ、温泉と騒いでいたのは俺だけなので、そんなもんである。

このクロドさんは、討伐で足を痛めたので、しょっちゅう入りにくるのだ。

俺はこっそり聖魔法でハイヒールを掛けた。


「うぉおおおおおおおっ!

温泉凄いぞー、足の調子よくなったー」


効き過ぎたか?

そのまま駆け出して行ってしまった。

まあ、これからも、この温泉施設に貢献してください。



この後も温泉を充分堪能してから、施設の喫茶でお茶を飲んでたら、昨日顔を出した冒険者ギルドのギルド長がやって来た。


「あんたらが討伐した、魔ディアやビッグモンキーは、最近山に棲み着いた竜擬きに追われて出て来た可能性がある。

あの辺りは滅多に魔物は出ないから、ちょっと調べたんだ。

山の中腹で見つかった足跡から、竜擬きだと推測したんだが。

多分、フィオレの熱帯地方から流れて来て、冬山に迷い込み、立ち往生しとるんだろう。

山狩りをする、手伝ってくれんか?」



うわあ、竜擬きか。

ぶっちゃけ、恐竜みたいな奴である。

あんなに大きくはないが。



「分かりました」


俺は急いで、足裏指圧に悶絶していたウィルと、パンに齧り付いていたエマを連れてギルドに向かった。


暑い気候のフィオレ国には、トカゲ系の魔物が多いらしく、時々こうして迷い込むそうだ。

俺達3人は軽装に見えるが、耐寒熱マント、もしくはローブを羽織っているので、寒さ対策はばっちりだ。



山登りよろしく、討伐隊が行く。

斜面の足場の悪さや、人との距離の近さ、密接に生える木々などを考慮して、魔法はあまりぶっ放せない。


『索敵』

『エリア身体強化』

『水のエリアシールド』

『風のエリアシールド』



索敵と、それとなく全体に、付与魔法を掛けていく。


途中で木々の上からビッグモンキーが襲って来たが、アイスショットで半身凍りつかしてやった。

動きが止まった所で、皆が一斉に剣で仕留める。

ウィルはというと、風を上手に操り、顔を狙い、前がよく見えない状態にしている。

これも、好機と剣で切り裂かれていった。



この後も、魔イノシシ、魔ベア、とちょこちょこ出て来ていたのだが、途中から急に何もでなくなった。



すぐ先に、索敵を使わずとも目視で分かる怪物がいた。

竜擬きだ。

なんていうか、

ステゴサウルスにちょい似てる。

尻尾の鋭い棘の剣が当たったら、ただでは済まないだろう。





『鑑定』


※竜擬き

普段はじっとしているが、環境にストレスを感じると暴れ出す。

鋭い尻尾の棘と、毒の体液を額から飛ばす。




なに?

やばっ、



『エリア全耐性』

『エリア状態異常耐性』



ぴゅるるるっ!!



『アースウォール』



間一髪で毒液を遮断した。

どうする?こんな斜面じゃ、危なくて穴は掘れない。



『アクアシャワー』

『アイスショット』

『アースニードル』



水で濡らして、凍らせて、トラップに使う金属の槍で額を貫いた。


ググァァアアーーーーーーーーーッ



くそ、頭潰しても死なないな。

凍りが溶けたら暴れてしまう、



『アクアシャワー』

『アイスショット』

『アイスショット』

『アイスショット』



ひたすら凍らせ続けたら、ドスンと巨体が倒れてくれた。



ここまで来たら後はお任せである。

大剣持ちが尻尾を斬り外し、無力化する。

斧使いらが木を切る様に首を狩り、やっと仕留めることができた。


思わず皆の歓声が上がる。


固いので、碌な剥ぎ取りはできなかったが、なんとか、取れるだけ取って、魔石も取り出した。

デッカイ魔石である。

ギルド長が喜んでいる。


「結界の魔石の予備が出来たぞ」


で、俺は、残った竜擬きの死体をまだ剝ぎ取れそうだからと、貰うことにした。

誰も欲しがらないから良かった。



その後討伐隊は華々しく施設に凱旋し、祝杯を上げ、ついでに服着たまま、温泉に飛び込んだ。

めっちゃ、怒られた。


共闘の結果、ギルドや施設で働くみんなと知り合いになり、仲良くなった。

2週間あまり、賑やかに楽しく過ごすことができた。


ウィルは全国の指圧が受けられる施設を、指圧を受けながらマップで教えて貰っていた。

エマは食堂で、パンを自分で焼かせてもらっていた。

後から、魔道オーブンとキッチンが欲しいと強請られることになったのだが…




そして俺は、ギルド長から別室に呼ばれ、情報を貰うことになった。



「カフェシナモンパーティー、今回は助力を感謝する。

パーティーには、ギルドポイントを加算しておくので、今後も頑張ってくれ。

さて、

銅カードアロイス、

お主の人柄と、これまでの貢献を鑑みて、個人的に情報を渡すことにした。


王都のギルドに、辺境侯爵たるグローリア家から、捜索願いが出ておる。

ギルドは、王侯貴族からの干渉は受けないスタンスだが、断りもしなかった。

つまり、何もしないことにしたそうだ。


次に、ダンジョン都市ルグランを統べるカーマイン伯爵家からも捜索が出ている。

こちらも以下同文だ。


これらは、お主を自分の家来に取り込みたいのだろう。


貴族とはいえ、命令は出来ん、だが断れば角が立つだろう、上手く立ち回ってくれ。


ああ、ラリックは大丈夫だ。

エスリック・ラリック卿が睨みを効かせているのでな。

かの方もかつて、家族や街の人間を盾に王家に下ることになったのだ。

だが、今では実質騎士団長だ、下手なことはすまい」




驚いた、

グローリアというのは、シャルロッテ様の家だと、あの後ユリウスが言ってたよな。


捜索願い?

アンナさんか?

侯爵の方か?

正直俺は、グローリア辺境侯爵家には、思うところがある。

かつて、俺が居た村の領主でもあるのだから。


あんなに貧しい村は珍しいと、村を離れた今なら分かる。

俺もウィルも口減らしで死にかけた、

いや、俺たち以外も、ああやって出されるのが、あの村の慣習だ。

それを知らないのは許せないし、知ってたとしたら猶更許せない。


そんな家に、正体を知った今なら、絶対に仕えたいとは思わない。


そして、ルグランの領主も、こちらは思うところはないが、使えるのなら家来にしたいという考え方がやはり嫌だ。



ラリックは…

そうか、エスリックさんにとって、あの街は人質だったのか…


酷いな、

ムカつくよ。



前世の賢者たるユリウス、あんたが言ったことは本当に正しかったよ。

そういう自分勝手な思惑を跳ね返すには、強くなるしかない!



「ん?

どうした?」


「あ、すいません、

ちょっと考え事してました。

情報をありがとうございます」


「そうか。

そうそう、話は違うが、竜擬き討伐で、領主様からお褒めの言葉を賜りに、城に招待されとる。

カフェシナモンパーティーも行くか?」


え?

ユリウスの実家か…


「はい、話の土産に参加させて貰います」


「そうか、そうか、

百年前の大賢者ユリウス卿の生家だ、皆喜ぶだろう。

美しい城だぞ」




こうして俺達は温泉街とは別れを告げて、帰り道にある、ユリウスの実家の城に行くことになった。


その城は、丁寧な修繕、リメークの結果、上品で落ち着いた佇まいの様相を呈していた。


城内も華美ではなく良く手入れされた気持ちの良い内装である。


領主の若様は、ニコニコ和やかで人が良さそうな感じだった。


良い人そう過ぎてなんか心配だ。


労いの言葉と、お茶を喫され、最後に肖像画の回廊を歩く。


領主様が、これが百年前の大賢者ユリウス様です、とユリウスの肖像画を紹介してくれた。


めっちゃ美形に描かれてた、いや、ありのままか。


エマが、きゃー、素敵―と騒いでる。


エマ、その素敵に描かれてる人の今世が俺だぞ?


ふと端を見ると、浅黒い肌の銀髪の美少女の肖像画があった。


気付いた俺に、領主様は少し苦笑を浮かべ、賢者様の恋人ですよ、と語ってくれた。


ウィルの細い目が見開き、キラキラしとる。


分かる、その気持ち分かる、今は妖艶な美女になっておられるで。


脳内で、前世の賢者たるユリウスが、そっと恋人の肖像画を見つめているのが分かる。


前前世の正志は一応空気を読んで、静かに推しに悶えていた…


うん、来てよかった、あの領主様はちゃんと、ユリウスの子孫だよ。


親戚なんだから血の繋がりあるだろう?




城を出て、ギルドのみんなとも別れを告げて、俺達は馬車を走らせた。



なあ、ユリウス、転移は、一度来た所なら、行けるんだろ?

俺は、グランハイム領も温泉も周りの人達もみんな気にいったよ、また行くから。

返事はなかったが、反対もなかった、よし、決まりだ!





さて、俺とウィルとエマは、これから北上して、ラリックへ向かう予定だ。



王都でポポに会うのは、もう少し先にしたい。

ウィルとエマを早く安全な街に連れて行きたいのだ。


まあ、でもゆっくり行こう。

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