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番外編 リヒトの苦悩

 妻が死ぬほど可愛い。

 毎朝顔を合わせては、リヒトは彼女の愛らしさに感動してしまう。

 

「どうすればいいのだろうか」

「私は何を聞かされているんでしょう」

 

 半目になったハンスがもう聞き飽きたと言わんばかりに微笑んだ。

 

「よろしいことではありませんか。今日も可愛い愛していると奥様にお伝えになってください」

「なっ………そんな恥ずかしいこと彼女に言えるわけないだろう」

「惚気でしかない悩みを執事に相談する方が恥ずかしいと思いますが」

 

 リヒトはため息を吐いた。

 ガーネットに可愛い、綺麗だ、最高だと隙あらば伝えたいのは山々だ。

 しかしそんなことをすれば、彼女に呆れられたり、引かれたり、最悪嫌われたりなんかして――


「そんなことになったら死ぬしか無い」

「一体頭の中で何が起きてるんですか」


 ハンスはやれやれといった調子で、言いやった。


「妻を称える言葉はいくら伝えても過ぎることはありません。もっと自信をお持ちになってください」

「……分かっている」


 翌朝の朝食で、リヒトは国境地帯の警護のため、しばらく家をあけることをガーネットに告げた。


「分かりました。リヒト様がいらっしゃらない間、この家のことは私たちにお任せください。……傍にいられないのは寂しいですが」


 しゅんとなる彼女が愛おしすぎて、リヒトは今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたが耐えた。


「私も君の可愛い顔がしばらく見られないと思うと辛いが……皆のことを頼む」

「えっ!?」


 しまったつい本音が出てしまった。

 引かれてないか恐る恐る妻を窺うと、彼女は耳まで真っ赤になっている。


「ど、どうしたんだ?」

「いえ、その……嬉しくて」


 手の平で顔を覆ったガーネットは、消え入りそうな声で呟いた。


「もう、どうしてそんなに素敵なんですか……」

「……え?」

「貴方が素敵すぎて、毎日胸が苦しいです」


 なんだ、彼女も同じだったのか。

 そう気づいたとたん、リヒトは安堵すると共にさらに妻への愛が深まるのだった。

 

「妻が愛おしすぎて毎日苦しいのだがどうすればいいだろうか」

「仕事に戻ってもよろしいでしょうか」

 

 リヒトの苦悩と、ハンスの受難は続く。

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