存在意義
「まさか私がヒロイン?」
「そうだよ!」力強く言うと小さい羽を使って宙に浮いた。
「可愛い!」パタパタ動く羽とふわふわと空気を含んで揺れる水色の毛に触れたくて手を伸ばす。
「ちょっと触ってもいい?」
「いーよー」くるっと一回転して私の顔の前に飛んで来てくれた。
「ふわっふわ」ふわふわなのに滑らかで極上のさわり心地がクセになる。
「いいでしょう」嬉しそうに短い尻尾が揺れている。
「でも私がヒロインっておかしくない?婚約者いるし」
「そうなんだよねー。婚約破棄するはずなんだよ」
「・・婚約破棄」
「そう!婚約破棄してから、学園生活の間にまた元婚約者を攻略するのはありなんだけど」
「そう・・」
「うん、でもアリスは婚約破棄してないし、設定外の行動してるから僕が消えそうだったんだ」
「ご、ごめんね」
「アリスが気づいてくれたからもう大丈夫!消えないよ」
「良かった。じゃあこれからは色々教えてくれるの?」
「うん!相手からの好意とかの数値だけ!教えてあげられるよ」
「ん?・・あれ?」
「あ、気づいた?」
「・・私のステイタス的なものは教えて貰えないのかな?」
「うん!バグってるから」元気よく答えられる。
「アリスの恋愛ゲージがどれもマイナスになっちゃったんだよね。この世界にマイナスの設定ないからさー、今教えてあげられるようなデータはひとつもないよ」
「うう、わかった」
じゃあ攻略対象のゲージを訊ねてみようかと思ったものの、誰に対しても恋愛的な興味が育ってないことに気づく。あー・・そりゃマイナスにもなるか。
「じゃあ攻略対象が誰なのかは教えてもらえる?」
「うん!ジュード、テオ、ルーカス、ディラン、ウイリアム、アーサー、イーサン、あと隠しキャラが一人」
「ほぼ出会ってた・・。でもアーサー兄様は恋愛対象じゃない!」
「そこはカスタマイズなんだよねー。実は兄弟じゃなかった設定もできるし、そもそも兄弟として設定しないことも選べたから」
「じゃあ、今の私にとっては攻略対象じゃない・・よね?」
「たぶんね。あ、それぞれのアリスへのラブゲージ知りたい?!」
「っ!・・・なんか恥ずかしい。知りたいような・・知りたくないような・・」
「どうするー?」
「い、今は知りたくない・・かなあ」
「僕の存在意義!」
「あ、そうですね。じゃあ1番関わりのないルーカス王子でお願いします」
「5」
「それは100の内の5という理解でいいのかな?」
「大体合ってる」
「ゼロではなく5。私のことはシャーロットのお友達、もしくはシャーロットの隣によくいる子ぐらいの好意はある数字かな」
「もっと知りたい?」
「え」
「僕の存在意義!」
「まさか全員分教えようと・・・?」
「やだなあ、聞きたくないことまで教えないよ」テヘペロとはこういう顔のことだろうな。
「ではアーサー兄様とウイリアムを。兄妹と友達としての数値を知りたいわ」
「アーサー30、ウイリアム30だよ」
「それは・・30が家族や友達としての愛情レベルと理解していい?」
「そうだね、もちろんもっと伸ばすこともできるよ」
「わかった。もう充分」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・じゃあちょっとだけ教えてほしいんだけど」
「なになに?」キラキラした目で楽しそうだ。
「50を超えて100に近いぐらい私を好きな人って・・いる?」
「いるよ!」
「あ、もういいです。はい」
「えー!誰なのか聞きたくないのー?」
「知ったら意識しちゃって自分の気持ちがひねくれちゃう気がするから」
「・・また性格気にしてる」じとっとした目になるクッポ。
「うっ」
「聞きたいよね?」ふわふわ可愛い生き物からの圧。
「・・・はい」そう答えると、
「ディラン40、テオ80、ジュード100!」
「ディランが想像より低い!テオが高い!ジュードおかしい!」思わず全力で突っ込んでしまった。
いやもうそれもバグだと思いたいけれど、存在意義を盾に結局全部公表されて逆らう気力がなくなった。知りたくないことは教えないって言ってたのに。
やっと存在意義を取り戻したクッポはくるくる楽しそうに飛び回って「いつでも呼び出してね」と言って消えた。その後の授業中、おかしな数値を思い返す。ジュードもバグってる気がしてならない。
週末、自分の部屋であれこれ考える。クッポは恋愛を応援してくれるようだけど、今の私はボス女子の攻略を応援して欲しい。性格改善に関わる話をクッポには相談できそうにないなあ。すごいジト目で睨んでくるもの。そもそも、恋愛ゲームってどうやって数値のばしていくの?恋愛ゲームを実況動画で見たことがある程度じゃよくわからない。一緒に下校したり、バイトしたり、イベントやったりして伸ばしてたはず。でも、学園は秋までイベントないと思う。ごちゃごちゃ考えながらルナが淹れてくれたお茶を飲んでいると
「もうすぐジュードさまのお誕生日ですが、プレゼントはどうされますか?」と尋ねてきた。
「誕生日はいつ?」
「7月23日です」
「私は今まで何をあげていたの?」
「ここ数年はジュード様に欲しい物を尋ねていらっしゃいましたよ」
「そう・・。じゃあ今年も尋ねてみる。ちなみに去年は何をあげたの?」
「アリス様の瞳の色と同じブルートパーズのリングだったと思います」
「リング!?」そんな親密の塊みたいなものをジュードが欲しがったの?でもジュードの指に青い石のリングなんて見たことないような。なんとなく不思議に思いつつ、新しい私からのプレゼントはなにがいいのかを考えることで休みが終わった。
□ □
月曜日、教室に行くとジュードがすでに来ていた。こっそり話したいので、私の椅子を近くに移動させて小声で「誕生日プレゼント、何がいい?」と尋ねる。
「アリスと一日中一緒にいたい」